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婚約破棄
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逸子は、別のことを考えていた。
遼から薫子の妊娠を告げられ、結婚すると聞き、遼には「早すぎる」と嫌味を言ったものの、心は嬉しさでいっぱいだった。自分がそうだったように、薫子は妊娠を心から喜び、我が子との対面を心待ちにしているのだと信じて疑わなかった。
遼が止めるのも聞かず、薫子さんを訪問し、これから生まれてくる孫に思いを馳せ、気持ちを弾ませていた私を見て......薫子さんは、どれだけ心苦しい思いをしていただろう。
逸子は、申し訳ない気持ちになった。
今思えば、薫子は式に対して積極的ではなかった。けれどそれは、彼女の受け身な性格ゆえであって、結婚式そのものに対して否定的な思いを抱いているからだとは考えていなかった。
いや、本当はそんな思いが過ったこともあった。だが、そんな筈はないと否定してきたのだった。
「私は、全てを諦めました。
結婚も、出産も......私が何を言おうと、父の言う通りの道を歩かされる。私が状況を変えることは出来ない。だったら、もう何も考えたくない......と。感情を、失くしていました」
そこには、一分も自分の感情は考慮されていなかったのかと思うと、遼は胸が苦しくなった。
薫子を守りたい。
彼女を幸せにしてやりたい。
その思いは、あの時の薫子には全く届いていなかったのだ。
「そんな私の目を醒ましてくれたのが、遼さんでした。
いつも守られるばかり、誰かの言いなりになるばかりの私に。自分の殻に閉じこもってばかりの私に......遼さんは、言いました。
『自分を悲観しながら、生きていくつもりなのか』、と。『惨めな顔して、自分を可哀想に思いながら、生きてくつもりか』、と」
「あんた、そんな酷いこと言ったの!?」そう言いたげな逸子の鋭い視線が遼に突き刺さり、遼が肩を窄めて気まずそうに俯いた。
あん時夢中になってて、何言ったとか詳しく覚えてねーし。
これ、お袋から後で説教コース、だよな......
薫子はそんな二人に気づくことなく、話し続けた。
婚約破棄は、遼のせいではない。自分は彼に救われたのだと、全ては自分のせいなのだと、遼の両親に知ってもらいたくて必死だった。
「遼さんは、私に問いました。私を幸せにしたいと思ってくれている、彼の想いを無視して、遼さんとの結婚や子供を産んだことに後悔しながら生きてくつもりなのか、と。その言葉で、私はどれだけ遼さんが......私のことを深く想ってくれていたのか、初めて知ったのです。
彼は......おじさまとおばさまの息子さんは、本当に素晴らしい方です。遼さんには、何の落ち度もないんです。
私の自分勝手な我儘で、こんなことになってしまい......本当に、申し訳ありません......」
「も、もういーから、薫子!」
両親の前で自分の言ったことを暴露され、『素晴らしい方』だと言われ、あまりの恥ずかしさに真っ赤になった遼が、焦りながら薫子を止めた。
宏和は、この婚約がうまくいかず、息子の長年の恋が実らなかったことに残念な気持ちはあったものの、そんな彼に対して誇らしい気持ちも沸いていた。
相変わらず口は悪いものの、家族に大きな秘密を抱える事を承知の上で愛する人を守ろうとしたこと。薫子と結婚し、温かい家庭を築くために彼女と真正面からぶつかったこと。
大人に、なったな......遼。
その感情は、誇らしくもあり、また寂しくもあった。
遼から薫子の妊娠を告げられ、結婚すると聞き、遼には「早すぎる」と嫌味を言ったものの、心は嬉しさでいっぱいだった。自分がそうだったように、薫子は妊娠を心から喜び、我が子との対面を心待ちにしているのだと信じて疑わなかった。
遼が止めるのも聞かず、薫子さんを訪問し、これから生まれてくる孫に思いを馳せ、気持ちを弾ませていた私を見て......薫子さんは、どれだけ心苦しい思いをしていただろう。
逸子は、申し訳ない気持ちになった。
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そこには、一分も自分の感情は考慮されていなかったのかと思うと、遼は胸が苦しくなった。
薫子を守りたい。
彼女を幸せにしてやりたい。
その思いは、あの時の薫子には全く届いていなかったのだ。
「そんな私の目を醒ましてくれたのが、遼さんでした。
いつも守られるばかり、誰かの言いなりになるばかりの私に。自分の殻に閉じこもってばかりの私に......遼さんは、言いました。
『自分を悲観しながら、生きていくつもりなのか』、と。『惨めな顔して、自分を可哀想に思いながら、生きてくつもりか』、と」
「あんた、そんな酷いこと言ったの!?」そう言いたげな逸子の鋭い視線が遼に突き刺さり、遼が肩を窄めて気まずそうに俯いた。
あん時夢中になってて、何言ったとか詳しく覚えてねーし。
これ、お袋から後で説教コース、だよな......
薫子はそんな二人に気づくことなく、話し続けた。
婚約破棄は、遼のせいではない。自分は彼に救われたのだと、全ては自分のせいなのだと、遼の両親に知ってもらいたくて必死だった。
「遼さんは、私に問いました。私を幸せにしたいと思ってくれている、彼の想いを無視して、遼さんとの結婚や子供を産んだことに後悔しながら生きてくつもりなのか、と。その言葉で、私はどれだけ遼さんが......私のことを深く想ってくれていたのか、初めて知ったのです。
彼は......おじさまとおばさまの息子さんは、本当に素晴らしい方です。遼さんには、何の落ち度もないんです。
私の自分勝手な我儘で、こんなことになってしまい......本当に、申し訳ありません......」
「も、もういーから、薫子!」
両親の前で自分の言ったことを暴露され、『素晴らしい方』だと言われ、あまりの恥ずかしさに真っ赤になった遼が、焦りながら薫子を止めた。
宏和は、この婚約がうまくいかず、息子の長年の恋が実らなかったことに残念な気持ちはあったものの、そんな彼に対して誇らしい気持ちも沸いていた。
相変わらず口は悪いものの、家族に大きな秘密を抱える事を承知の上で愛する人を守ろうとしたこと。薫子と結婚し、温かい家庭を築くために彼女と真正面からぶつかったこと。
大人に、なったな......遼。
その感情は、誇らしくもあり、また寂しくもあった。
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