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決別
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薫子は、落ち着きなく部屋を歩き回った。何かしていないと、不安で押し潰されそうだった。
テレビをつけるとバラエティー番組が流れ、画面からは観客達の笑い声が響くが、興味を引かれることなく、やはりテレビを観るような気分ではないと感じる。結局テレビを消し、またぐるぐると歩き回る。
ばあやの話では、今日は特に接待の予定もないので、父は9時頃には戻るとの話だった。母は部屋にいるが、まだ婚約破棄のことは話していない。
父が帰ってきた際には母は家にいれば必ず玄関で迎えることになっているので、その時にふたりに声をかけるつもりだった。
時計の短い針が動き、9を指す。薫子の緊張は今までにない程に高まり、呼吸の仕方すら分からなくなっていた。
9時を回っても、玄関からはなんの音も聞こえてこなかった。父親の帰宅が待ち遠しい気持ちと、帰ってきて欲しくないという思いが交互に薫子の心を支配する。
遼は、薫子を送る際に自分も一緒に龍太郎に会い、婚約破棄を詫びると言ってくれたが、薫子はそれを断った。もうこれ以上、遼を巻き込みたくないとの思いもあったし、遼がいれば彼を頼りにしてしまいそうだったからだ。
薫子は、父と真正面でぶつかる覚悟でいた。
玄関の振り子時計が9時半を知らせると同時に、玄関が慌ただしくなった。
龍太郎が、帰ってきたのだ。
薫子は小刻みに震えてくる躰にグッと力を込めると、扉に向かい、ノブに手を掛けた。
階段を降りると、そこにはばあやと華子を先頭にして、ずらっと使用人が一列に並んでいた。恒例の、お迎えの挨拶だ。
薫子もそこに以前までは加わっていたが、悠の事故以来鬱ぎ込むようになり、それをばあやが病気だと偽っていたため免除されていた。その後、薫子の妊娠が発覚し、大事をとるため、父への迎えはしていなかった。
「薫子様、どうぞ無理はなさらず......」
階段を降りてきた薫子に気づき、ばあやが慌てて声をかける。華子も、心配そうに彼女を見つめた。
「病気ではないですから、大丈夫です。
......それに、今日はお父様に用事がありますし」
いつになくしっかりした態度の薫子に、ばあやと華子はそれ以上何も言わず、華子の隣へと立つ彼女に気遣わしげな視線を送っただけだった。
まともに視線を投げかけてくる者は誰もいなかったが、そこに立つ使用人全員の関心が自分に向けられていることを、彼女は全身に感じていた。
噂好きのメイドだけに限らず、料理人や警護、庭師や運転手に至るまで、今や櫻井家の使用人全てが薫子と悠の駆け落ち騒動、龍太郎への発覚、薫子の妊娠、遼との結婚までの経緯を知っていた。口には出さないものの、薫子がいったいどんな話を父親に対してするのか、興味深々であった。
薫子はそんな彼らの思いに気づかぬふりをし、必死に自分の気持ちを奮い起こして背筋を伸ばし、正面を見つめた。
扉の奥から、車が停車した音が遠く聞こえた。
お父様が、いらっしゃる......
途端に、薫子の心臓が早鐘を打ち鳴らす。
テレビをつけるとバラエティー番組が流れ、画面からは観客達の笑い声が響くが、興味を引かれることなく、やはりテレビを観るような気分ではないと感じる。結局テレビを消し、またぐるぐると歩き回る。
ばあやの話では、今日は特に接待の予定もないので、父は9時頃には戻るとの話だった。母は部屋にいるが、まだ婚約破棄のことは話していない。
父が帰ってきた際には母は家にいれば必ず玄関で迎えることになっているので、その時にふたりに声をかけるつもりだった。
時計の短い針が動き、9を指す。薫子の緊張は今までにない程に高まり、呼吸の仕方すら分からなくなっていた。
9時を回っても、玄関からはなんの音も聞こえてこなかった。父親の帰宅が待ち遠しい気持ちと、帰ってきて欲しくないという思いが交互に薫子の心を支配する。
遼は、薫子を送る際に自分も一緒に龍太郎に会い、婚約破棄を詫びると言ってくれたが、薫子はそれを断った。もうこれ以上、遼を巻き込みたくないとの思いもあったし、遼がいれば彼を頼りにしてしまいそうだったからだ。
薫子は、父と真正面でぶつかる覚悟でいた。
玄関の振り子時計が9時半を知らせると同時に、玄関が慌ただしくなった。
龍太郎が、帰ってきたのだ。
薫子は小刻みに震えてくる躰にグッと力を込めると、扉に向かい、ノブに手を掛けた。
階段を降りると、そこにはばあやと華子を先頭にして、ずらっと使用人が一列に並んでいた。恒例の、お迎えの挨拶だ。
薫子もそこに以前までは加わっていたが、悠の事故以来鬱ぎ込むようになり、それをばあやが病気だと偽っていたため免除されていた。その後、薫子の妊娠が発覚し、大事をとるため、父への迎えはしていなかった。
「薫子様、どうぞ無理はなさらず......」
階段を降りてきた薫子に気づき、ばあやが慌てて声をかける。華子も、心配そうに彼女を見つめた。
「病気ではないですから、大丈夫です。
......それに、今日はお父様に用事がありますし」
いつになくしっかりした態度の薫子に、ばあやと華子はそれ以上何も言わず、華子の隣へと立つ彼女に気遣わしげな視線を送っただけだった。
まともに視線を投げかけてくる者は誰もいなかったが、そこに立つ使用人全員の関心が自分に向けられていることを、彼女は全身に感じていた。
噂好きのメイドだけに限らず、料理人や警護、庭師や運転手に至るまで、今や櫻井家の使用人全てが薫子と悠の駆け落ち騒動、龍太郎への発覚、薫子の妊娠、遼との結婚までの経緯を知っていた。口には出さないものの、薫子がいったいどんな話を父親に対してするのか、興味深々であった。
薫子はそんな彼らの思いに気づかぬふりをし、必死に自分の気持ちを奮い起こして背筋を伸ばし、正面を見つめた。
扉の奥から、車が停車した音が遠く聞こえた。
お父様が、いらっしゃる......
途端に、薫子の心臓が早鐘を打ち鳴らす。
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