【R18】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

奏音 美都

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ばあやの告白

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「ところが......悠様が事故に遭われてしまった......それは、予想もしない出来事でした。
 薫子様が悠様の事故を機に鬱ぎ込む姿は、華子様が悠人様が自分を捨ててイギリスへと去ってしまったのだと信じた時のそれと重なりました。

 私は......自分のして来たことは、正しかったのだろうか、と......自身に問うようになりました。

 それから薫子様がバルコニーから落ち、妊娠が発覚し......子供などいらないと叫ぶ薫子様の姿に、胸が潰れる思いでおりました。
 私は......ッとんでもない、間違いを......犯してしまった、と」
 
 ばあやは両手を顔で覆い、肩を震わせた。

「それ、でも......私は、薫子様を縛りつけようとしておりました。遼様が薫子様を救い、結婚して子供を育て、幸せな家庭を築いて下さることを祈っておりました」

『どうか、お嬢様を......よろしくお願い致します』

 そう言って、ばあやが遼に深く頭を下げていたことが思い出され、薫子の胸が絞られるように痛んだ。
 
 ばあやが深く息を吐いた。

「けれど、結婚式が近づいているというのに、日毎に感情を失っていく薫子様を目にするうちに、私の罪の意識はどんどん大きくなっていました。

 ですが、全てがもう遅い」

 ばあやが、言葉を切った。ばあやの視線が、真っ直ぐ薫子に向けられる。

「そう、思っておりました。今日の、薫子様を見るまでは。
 今までにない薫子様のしっかりとした態度から旦那様と向き合う覚悟をされたことを知り、私は薫子様自身の決意を尊重したいと、強く感じました。

 ようやく私は......薫子様の幸せは、この家にはないのだと分かったのです」
「ばあ、や......」

 薫子の瞳の奥が熱く潤み出す。

 ばあやは頭を項垂れた。

「私は......華子様の時と同様、薫子様がこの家にいることが、薫子様にとって、櫻井家にとっていいことだと信じていたのです。世間知らずのお嬢様に苦労させたくないと、勝手にそう思っていたのです。
 いえ、それは体のいい言い訳。

 私の本音は......華子様が、薫子様が、私の元を離れてしまうことが......何よりも辛かったのです。だから、私は......自分の欲のために、華子様と薫子様をこの家に縛りつけようとしておりました。
 身寄りのない私を15の時に拾い上げて下さった先々代の旦那様も、私をまるで家族のように大事にし、優しくして下さった先代の旦那様も奥様も、もういらっしゃらない。私にとっての家族は、華子様と薫子様だけなのです。
 私の、大切な宝なのでございます......!!!」

 薫子は、初めてばあやの孤独を知った。身寄りがないということは聞いたことはあったが、ばあやは今まで寂しいとも辛いとも言ったことはなかった。

 幼かった頃、一度だけ薫子はばあやに尋ねたことがあった。

『ねぇ、ばあや。家族がいないってどんな気持ち? 寂しいの?』

 そんな薫子をばあやは胸に抱き寄せ、頭を撫でながら言った。

『私には、華子様と薫子様がおりますからちっとも寂しくありませんよ。ばあやは、幸せでございます』

 薫子は、両親に愛情をもらえない自分をずっと孤独に感じていた。けれど、もしかしたら薫子以上に孤独な思いをしていたのは、ばあやだったのかもしれない。

 ばあやにとって華子は、薫子は、唯一の家族なのだ。その家族を奪われることは、何よりも恐ろしいことだったのだ。

 確かに、ばあやがした行為は許されることではない。もし、悠人の手紙が華子の元へ無事に届いていたのなら、ふたりは今頃幸せにイギリスで暮らしていたかもしれない。櫻井家と風間家が対立するようなことがなければ、薫子と悠は普通の恋人として、幸せな日々を過ごせていたかもしれない。

 けれど、ばあやの孤独な心に初めて触れた薫子にはもう、彼女の裏切りを責めることなど出来なかった。彼女の孤独に気づけなかったことに後悔し、もっとばあやの心を深く知っていればと申し訳なく思った。
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