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見せられない写真

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 診察を済ませ、受付で黄色のフォルダーを返却する。だが今度は会計の為に、待っていなければならない。

 待合室は先程よりも混み合っていた。

 薫子の斜め向かいに、若い夫婦らしき二人が座っている。女性だらけのマタニティーセンターで子供以外で男性は彼ひとりの為、かなり目立っていた。隣に座る女性に向かって楽しそうに話しかけ、時折お腹をさすったりしている。女性もそんな彼に対し、笑顔で応えていた。その様子から、二人が子供が生まれるのが待ち遠しくて仕方ないことが伝わってきた。

 私はいつ、悠に子供のことを話せるのだろう......
 悠は、私の妊娠を受け入れてくれるのかな。

 薫子の胸に、不安が広がっていった。

 会計のために呼び出したのは、先ほど受付にいたのとは違う事務員だった。

「お会計ですが、助成券はお持ちですか」
「助成......券、ですか?」

 何も知らない薫子に対し、少し呆れたような口調で事務員が対応する。

「妊婦健診時の費用の補助を受けるためのチケットです。助成券は、役所に妊娠届を出した時に母子手帳と一緒に発行されますので、次回来た際に持ってきてくださいね。
 では、今回は全額実費になります」

 提示された金額に従い、ばあやが財布を広げてお金を支払った。

 今まで自分のお金のように思っていたクレジットカードは親からのものであり、薫子自身は一銭のお金もないのだということを改めて思い知らされる。ばあやとふたりで生活を始め、何をするのにもお金が必要であることを知り、そのありがたみを感じた薫子は、いかに自分が今まで贅沢な暮らしをさせてもらっていたのかに気づいた。

 ばあやから社会に出ることの厳しさ、働くことの難しさを教えられたものの、やはりお金を払ってもらうことに対しての罪悪感は拭いきれない。

「ばあや、ありがとう」

 お礼を言うと共に心の中で詫びる薫子に、ばあやは微笑み返した。

「それと、こちらが本日のエコーの写真になります」

 事務員がそう言いながら、白い封筒をデスクの上に置いた。

「あ。ありがとうございます......」

 写真、もらえるんだ。

 白い封筒を取り出すと、先ほど見た赤ちゃんの姿が印刷されていた。頭を左側にして仰向けで丸まり、小さな手を突き出しているのが見えた。

 可愛い......

 隣で覗くばあやは、「まぁ、よく撮れていますねぇ」と感心しながら目を細めた。

 悠。これが、私たちの赤ちゃんだよ。
 一緒に、見たかったな......

 薫子は密かに息を吐き、哀愁の瞳を揺らした。

 マタニティーセンターを抜け、ロビーへと向う途中、「特別病棟」の案内が目に入った。

 悠のいる、病棟......

 薫子の胸がギュッと軋む。

「お嬢様、行きましょう」
「えぇ」

 ばあやの呼びかけに応えながらも、チラッともう一度案内に目をやった。

 悠、待ってて。
 必ず、あなたの元へ行くから......
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