272 / 355
見せられない写真
3
しおりを挟む
女医はパソコン上にカルテを出し、先ほど看護師から受け取ったデータを入力しながら、再度確認していった。
「最終月経開始日が11月4日ってことは、櫻井さんの月経周期からみて、出産予定日は8月10日になりますね。もちろん、これはあくまでも予定ですので、実際の出産日は早かったり遅かったりしますが」
今年の夏には、赤ちゃんが産まれるんだ......
既に主治医から出産予定日については聞いていたものの、改めて実感し、薫子の胸がドキドキと高鳴った。
聴診器で診察したり、お腹の大きさを測った後、女医が立ち上がった。
「じゃ、赤ちゃんの様子見ていきますんで、隣のエコー室に移りましょうか。服はそのままで大丈夫ですよ」
女医の言葉に、薫子が目を丸くする。
「えっ、赤ちゃんが見られるんですか!?」
主治医に診てもらっていた時にはエコー(超音波検査)をしたことがなかった。エコーをするには家ではなく、病院に行かねばならないため、主治医は薫子の精神状態を考え、先延ばししていたからだ。お腹の中にいる赤ちゃんを見られると知り、薫子は興奮で上気した。
薄暗いエコー室に入ると、女医が診察台に横たわるように指示する。
「櫻井さんは13週に入ってますから、経腹エコーで見られますよ。お腹が見えるように、服をたくし上げてもらえますか」
そう言われ、薫子はセーターを両手でゆっくりと捲り上げた。
女医が温めたジェルを薫子のお腹の上ににゅるりと出し、プローブを当ててゆっくりと伸ばしていく。薫子は一心に、右側のモニター画面を見つめていた。
女医はカチ、カチと左手でパソコンを操作しながら、右手に持ったプローブを動かしている。
「櫻井さん、見てください。ほら、ここが頭でお腹で、ここに足があるの、分かりますか?」
薫子は、白黒の画像を目を凝らして見つめた。そこには、頭を左にして仰向けに寝ている小さな姿が白いシルエットとなって映っていた。
赤ちゃん......
これが、私の......赤ちゃん、なんだ。
「あ!今、ちょっと腕を動かしたの、分かりました?」
「は、い......ックはい......」
薫子は、モニターに映し出された我が子の姿に、全身が震えるほどの感動を覚えていた。
「薫子様......」
薫子のすぐ脇に座って同じく画面を見つめていたばあやは、感極まって瞳を潤ませていた。
女医が再びカチ、カチとパソコンを操作すると、今度は画面の下に波状の線が現れる。と同時に、シュンシュンシュン......と忙しない音が水にくぐもったような感じで聞こえてきた。
「この波状の線は、赤ちゃんの心臓の鼓動を表したものですよ。まだ臍帯音しか聞こえてこないですが、次の検診の時にはトットットッて感じの鼓動が確認できると思います」
ギザギザの線が低く高く細かく続いているのを見つめながら、薫子の気持ちが高揚していく。
赤ちゃんの、心臓の鼓動......凄い。
女医はまた元の画面に戻すと、マウスを動かし、白い線を引きながら薫子に話しかける。
「赤ちゃんの大きさは、8センチぐらいですね」
8センチ。
薫子は親指と人差し指を伸ばして検討をつけた。
こんなに、小っちゃいんだ。小さくても、力強く鼓動を響かせて......
生きてる。私の中で、生きてるんだ......
生命の鼓動を感じ、薫子の瞳からは自然と涙が溢れていた。
「あ...あの、性別は?」
おずおずと尋ねる薫子に、女医がフフッと微笑む。
「性別が分かるのは19週過ぎてからですね。次の健診が4週間後の17週ですから、次の次の健診で分かりますよ」
「はい」
どっちなんだろう......すごく、気になる。
エコーが終わり、診察室に戻ると、女医が告げた。
「エコーで見る限りは、異常は見られませんでした。
これは出生前診断のパンフレットになります。詳しい説明はそこにありますので、読んでおいてください」
そう言ってパンフレットを渡すと、看護師に「次の患者呼んできて」と告げた。
薫子は、もう少し詳しい話を聞きたいと思いつつも、女医の忙しそうな様子から声をかけることも出来ず、「ありがとうございます」とお辞儀をして、ばあやと共に診察室を後にした。
「最終月経開始日が11月4日ってことは、櫻井さんの月経周期からみて、出産予定日は8月10日になりますね。もちろん、これはあくまでも予定ですので、実際の出産日は早かったり遅かったりしますが」
今年の夏には、赤ちゃんが産まれるんだ......
既に主治医から出産予定日については聞いていたものの、改めて実感し、薫子の胸がドキドキと高鳴った。
聴診器で診察したり、お腹の大きさを測った後、女医が立ち上がった。
「じゃ、赤ちゃんの様子見ていきますんで、隣のエコー室に移りましょうか。服はそのままで大丈夫ですよ」
女医の言葉に、薫子が目を丸くする。
「えっ、赤ちゃんが見られるんですか!?」
主治医に診てもらっていた時にはエコー(超音波検査)をしたことがなかった。エコーをするには家ではなく、病院に行かねばならないため、主治医は薫子の精神状態を考え、先延ばししていたからだ。お腹の中にいる赤ちゃんを見られると知り、薫子は興奮で上気した。
薄暗いエコー室に入ると、女医が診察台に横たわるように指示する。
「櫻井さんは13週に入ってますから、経腹エコーで見られますよ。お腹が見えるように、服をたくし上げてもらえますか」
そう言われ、薫子はセーターを両手でゆっくりと捲り上げた。
女医が温めたジェルを薫子のお腹の上ににゅるりと出し、プローブを当ててゆっくりと伸ばしていく。薫子は一心に、右側のモニター画面を見つめていた。
女医はカチ、カチと左手でパソコンを操作しながら、右手に持ったプローブを動かしている。
「櫻井さん、見てください。ほら、ここが頭でお腹で、ここに足があるの、分かりますか?」
薫子は、白黒の画像を目を凝らして見つめた。そこには、頭を左にして仰向けに寝ている小さな姿が白いシルエットとなって映っていた。
赤ちゃん......
これが、私の......赤ちゃん、なんだ。
「あ!今、ちょっと腕を動かしたの、分かりました?」
「は、い......ックはい......」
薫子は、モニターに映し出された我が子の姿に、全身が震えるほどの感動を覚えていた。
「薫子様......」
薫子のすぐ脇に座って同じく画面を見つめていたばあやは、感極まって瞳を潤ませていた。
女医が再びカチ、カチとパソコンを操作すると、今度は画面の下に波状の線が現れる。と同時に、シュンシュンシュン......と忙しない音が水にくぐもったような感じで聞こえてきた。
「この波状の線は、赤ちゃんの心臓の鼓動を表したものですよ。まだ臍帯音しか聞こえてこないですが、次の検診の時にはトットットッて感じの鼓動が確認できると思います」
ギザギザの線が低く高く細かく続いているのを見つめながら、薫子の気持ちが高揚していく。
赤ちゃんの、心臓の鼓動......凄い。
女医はまた元の画面に戻すと、マウスを動かし、白い線を引きながら薫子に話しかける。
「赤ちゃんの大きさは、8センチぐらいですね」
8センチ。
薫子は親指と人差し指を伸ばして検討をつけた。
こんなに、小っちゃいんだ。小さくても、力強く鼓動を響かせて......
生きてる。私の中で、生きてるんだ......
生命の鼓動を感じ、薫子の瞳からは自然と涙が溢れていた。
「あ...あの、性別は?」
おずおずと尋ねる薫子に、女医がフフッと微笑む。
「性別が分かるのは19週過ぎてからですね。次の健診が4週間後の17週ですから、次の次の健診で分かりますよ」
「はい」
どっちなんだろう......すごく、気になる。
エコーが終わり、診察室に戻ると、女医が告げた。
「エコーで見る限りは、異常は見られませんでした。
これは出生前診断のパンフレットになります。詳しい説明はそこにありますので、読んでおいてください」
そう言ってパンフレットを渡すと、看護師に「次の患者呼んできて」と告げた。
薫子は、もう少し詳しい話を聞きたいと思いつつも、女医の忙しそうな様子から声をかけることも出来ず、「ありがとうございます」とお辞儀をして、ばあやと共に診察室を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
契約書は婚姻届
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」
突然、降って湧いた結婚の話。
しかも、父親の工場と引き替えに。
「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」
突きつけられる契約書という名の婚姻届。
父親の工場を救えるのは自分ひとり。
「わかりました。
あなたと結婚します」
はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!?
若園朋香、26歳
ごくごく普通の、町工場の社長の娘
×
押部尚一郎、36歳
日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司
さらに
自分もグループ会社のひとつの社長
さらに
ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡
そして
極度の溺愛体質??
******
表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】
その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。
片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。
でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。
なのに、この呼び出しは一体、なんですか……?
笹岡花重
24歳、食品卸会社営業部勤務。
真面目で頑張り屋さん。
嫌と言えない性格。
あとは平凡な女子。
×
片桐樹馬
29歳、食品卸会社勤務。
3課課長兼部長代理
高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。
もちろん、仕事できる。
ただし、俺様。
俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる