【R18】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

奏音 美都

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 マタニティーセンターの受付に声をかけると、事務員が尋ねた。

「母子手帳はお持ちですか」
「い、いえ......」

 主治医に区役所で母子手帳をもらうよう言われていたものの、櫻井の家にいた時はそんな気持ちになれず、ずっとそのままにしていたのだった。

 黄色のフォルダーを受け取ると、待合室のソファにばあやと並んで座る。周りには、本を読んだり、スマホを弄ったり、小さい子供の相手をしたりしながらソファで待つ妊婦の姿がちらほら見られた。

 一緒に来た子供が退屈しないようにと、待合室の隅には絵本がたくさん並んだ本棚や、おもちゃやぬいぐるみが入った籠が置かれている。

 この人たちも、これから診察を受けるんだ......

 今まで自分以外の妊婦と接する機会がなかった薫子は、自分と同じように妊娠し、同じような時期に出産をするのかと思うと、なんとなく親しみを覚えた。

 私、母親に......なるんだ。

 改めて実感が湧き、薫子はお腹をさすった。

 ふと斜め向いの妊婦と視線が合い、思わず会釈をした薫子に、彼女が笑顔で話しかけてきた。

「何ヶ月ですか」
「え? え...と、4ヶ月...です」

 すると、その妊婦が嬉しそうに笑いかけた。

「わ!おんなじだ。夏の出産って大変って聞きますけど、お互い頑張りましょうね」
「あ......はい」

 やがて、彼女は名前を呼ばれたようで立ち上がると、「じゃ...」と言って、去って行った。

 こんな短い間に会話が生まれ、一体感が生まれたことに、薫子は興奮のような感情を覚えた。

 暫くして、受付から薫子の名前が呼ばれた。

 あ......早い。

 ばあやから病院での待ち時間はとても長いと聞かされていたのに、それほど待たされることはなかった。

 受付の事務員が、紙コップとスポイトと名前の書かれた紙袋を渡す。

「ここをまっすぐ行って右側にお手洗いがありますから、そこで採尿して下さい。スポイトを紙袋に入れたら棚がありますので、そこに置いておけば、スタッフが反対側から受け取りますので。
 診察の際は毎回検尿がありますので、忘れないようにお願いします」

 早口で説明すると、自分の仕事に戻るかのように顔を俯かせ、ペンを走らせた。

 診察じゃ、なかったんだ......

 薫子は戸惑いながらも、お手洗いへと向かった。

 それから30分が過ぎ、1時間が過ぎても、薫子の名前が呼ばれることはなかった。

 もしかして、ちゃんと受付されていなかったのかな......

 そんな不安を覚えていると、ようやく「櫻井さん!」と名前が呼ばれた。薫子はホッと息を吐くと、ばあやと共に診察室へと向かった。

 ところが、その診察室でも薫子とばあやは更に待たされることとなった。

 皆、診察を受けるのにこんなに大変な思いをしているの!?

 今まで一度も病院に通ったことのない薫子は、戸惑うばかりだった。

 カチャッと扉が開く音に、薫子がホッとしたようにそちらを見つめる。だが、入ってきたのは看護師ひとりだけだった。

「体重と血圧、測りますね」

 看護師の案内により、体重や血圧を測り、簡単な問診を済ませる。

 それから暫くして、ようやく産婦人科医が顔を見せた。

「お待たせしました」

 30代半ば、といったところだろうか。きびきびした感じの女性医師を見て、薫子は胸をなで下ろした。担当になるなら女性がいいと、思っていたからだ。
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