【R18】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

奏音 美都

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After Story2 ー和解と決裂ー

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 龍太郎と華子の宿泊するスイートルームの扉を前に、薫子は緊張で汗を滲ませていた。

 もう、二度と会うことはない。

 そう思っていた薫子だったが、詩織の出産を機にその気持ちが次第に変化した。

 薫子は、フードの覆われていないベビーカーをそっと見下ろした。

 形の整った真っ直ぐな眉、濃く長い睫毛、すっと通った鼻筋、控えめな唇。まだ生まれてからひと月も経っていないと思えないほど、整った顔立ちだ。規則正しい寝息をたてながら、穏やかに眠るその表情は悠とよく似ていた。

 だがふとした瞬間、それは悠人の顔とも重なる。詩織は、風間家の血を濃く受け継いでいた。

 詩織を、お父様とお母様に紹介したい。

 そして、願わくば......頑なだった静音の心が孫の誕生によって溶かされたように、父母の心にも詩織の存在が響けばいいと思っていた。

 ばあやが薫子の前に進み出て、扉を軽くノックした。

 扉から出てきたのは、櫻井家から世話係として来ていたメイド頭の下川だった。下川は、ばあやを見て驚いたように目を丸くした。

 立ち尽くしている下川を不審に思ったのか、中から華子の声が聞こえてきた。

「どうしたんですか?」

 ばあやが下川の横に立ち、華子にお辞儀をした。

「華子様、ご無沙汰しております」

 華子はソファから立ち上がり、ばあやの元へと歩み寄った。

「まぁっ、ばあや! どうしてここに......」

 ばあやはそこで、扉を大きく開いた。

 ベビーカーを押す薫子と車椅子の悠が、続いて入る。華子が息を呑んだ。

「お母様、お久し振りです」
「初めまして、風間悠です」

 あの時櫻井家で薫子を見送った後、彼女がどうなったのかずっと気になっていた下川は、この状況に興奮せずにはいられなかった。

 薫子や悠、ベビーカーに好奇の目を寄せる下川に、ばあやが嗜めるようにじろりと睨んだ後、尋ねた。

「今、旦那様はどちらに?」

 見る限り、龍太郎の姿はここにはない。

「だ、旦那様はまだお仕事に出かけておられまして。お帰りは深夜になるかと......」

 櫻井家に仕えていた時のばあやの威光は未だ健在で、下川はたじろぎながら答えた。

 薫子はそれを聞き、父に会わずに済んでよかったという安堵の思いと、まだこれから会うまでの緊張状態が続くのかという失望が綯い交ぜになる。

「ここではなんですから、どうぞお掛けになって。
 下川さん、お茶をお願いします」

 華子は覚悟を決めたのか、ソファに向かって歩き出した。だが、その背中は緊張で強張っていた。

 華子は薄水色に桔梗が描かれた盛夏用の着物を纏い、真っ直ぐに姿勢を正して座っている。絽ろという透け感のある染め生地を使用している為、真夏に着ていても涼しげに映るし、実際風通しもかなりいい。

 父とふたりきり、息の詰まる生活をしてやつれているのではないかと危惧していた薫子は、想像していたより元気そうな母の姿を見て安堵した。

 薫子はようやく、ずっと口にしたかった言葉を華子に伝えた。

「お母様、あの時......私が櫻井家を出る時に、お父様を引き止めて私を行かせて下さり、ありがとうございました」

 あの時お母様が躰を張ってお父様を止めて下さらなかったら、私は軟禁されていたかもしれない。

 そう思うと、寒気が走った。
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