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After Story 3 ー悲しみの中の幸福ー

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 聖書朗読と説教が終わると、牧師が正面を見つめた。

「これから結婚するこの二人に、正当な理由で異議のある方は今申し出てください」

 薫子は、ここで龍太郎が何か言い出すのではないかと冷や冷やしたが、異議を唱えるものはいなかった。静かな教会で響いているのは、詩織のはしゃぐ声だけだ。

 申し訳なく思いながら後ろをチラッと振り返ると、詩織が龍太郎の胸に抱かれている。すぐに母に預けるだろうと思っていた薫子は、驚きのあまり声を出しそうになり、慌てて正面に向き直った。

 牧師が薫子を一瞥し、再び正面を向く。

「異議がなければ今後何も言ってはなりません。では、どうぞお座りください」

 出席者が着席し、いよいよ誓いの言葉となる。

「風間 悠さん、あなたはこの女性を、健康な時も、病の時も、富める時も、貧しい時も、良い時も、悪い時も、愛し合い、敬い、なぐさめ、助けて、変わることなく愛することを誓いますか」

 悠は薫子を優しく見つめ、蕩けるように微笑んだ。

「はい、誓います」

 牧師が薫子へ視線を向ける。

「風間 薫子さん、あなたはこの男性を、健康な時も、病の時も、富める時も、貧しい時も、良い時も、悪い時も、愛し合い、敬い、なぐさめ、助けて、変わることなく愛することを誓いますか」

 薫子は悠から視線を逸らすことなく、答えた。
 
「はい、誓います」

 胸が焼け付くように熱くなり、必死に涙を堪えた。

 牧師が二人に歩み寄る。

「では、指輪を交換してください」

 薫子が手の甲を正面に向け、鎖骨辺りの高さで指を揃える。指先を3センチほど引き上げて手袋を緩めて押さえながら、グローブをしている方の手を下に引くと、アテンダーに預けた。

 薫子が悠と向かい合う。

 悠が牧師から指輪を受け取り、左手で薫子の左手を下から支える。細く華奢な薫子の指にスッとプラチナリングが嵌められる。

 次に薫子が指輪を受け取り、悠の左手薬指にお揃いのプラチナリングを嵌めようとするが、緊張で指が震えてしまい、上手く入らない。

「薫子、大丈夫。落ち着いて」

 悠の優しい言葉に励まされ、薫子は指輪を嵌め終えた。

「ではベールをあげてください。誓いのキスを」

 夫婦となるふたりの壁を取り払う意味が込められたベールアップ。悠が一歩前に進み、手の甲を上にしてベールの裾を持つ。薫子は視線が悠の胸の高さにくるまで腰を落とし、祈るように首を軽く曲げた。

 私たちがここまで来るのに、色々な障害があった......
 もう、悠と一緒になることは無理だと諦めたこともあった。

 様々な思い出が薫子の脳裏に走馬灯のように駆け巡る。

 ベールの内側にフワッと風が吹き、薫子の視界を覆っていたベールが一気に上げられる。

 見上げると、目の前で愛しい人が微笑んでいる。その漆黒の瞳は真っ直ぐに薫子を見つめていた。

 二人で乗り越えて、ここまで来られたんだ......

 薫子の目尻から涙が一粒零れ落ちた。

 薫子のベールが背中へ下ろされ、ゆっくりと姿勢を元に戻した。悠の手が軽く薫子の両肩に添えられる。

「薫子、俺の一生をかけて君を愛し続けていく」

 薫子の堪えていた涙が堰を切って溢れ出す。

「ゆ、ぅ......愛、してる......ずっと......」

 悠は薫子の涙をそっと指先で拭ってから、優しく唇に口づけた。

 悠、幸せ。
 私、本当にあなたと出会えて、一緒になれて幸せだよ。

 ありがとう......

 ---ばあや、どうか私たちのことをこれからも見守っていて。

 出席していた者たちも感動のあまり、拍手すら忘れて二人を見つめていた。
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