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After Story 3 ー悲しみの中の幸福ー
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大和は感動して美姫の手を取った。
「よかった......ほんとに、よかった」
「うん......幸せそうだね、二人とも」
薫子と悠が腕を組み、ヴァージンロードを歩いて行く。こちらを向いた二人と目線が合い、笑みを交わす。
「俺たちも、幸せになろうな......」
強く美姫の手を握り締めた大和に、美姫は返事をすることは出来なかった。その『幸せ』の温度差が違うことを、分かっていたから。
教会の扉が開き、明るい光が一気に射し込んでくる。塔の鐘が鳴り響く。
「美姫、俺たちも外に出よう」
大和に促され、手を引かれて教会の外に出た。
悠と薫子は既にたくさんの人に囲まれ、幸せそうに微笑んでいた。側には桜の大樹があり、花弁がフラワーシャワーのように舞い散っている。まるで映画のように美しい光景だ。
眩しい。
痛い。
鐘の音が......頭にガンガン鳴り響いて、吐き気がする。
「ごめん。ちょっと、お手洗い行ってくるね......」
美姫は大和に声を掛け、洗面所へ向かった。
教会の小さい扉から入り、お手洗いを目指す。慣れ親しんできた高等部の教会なので、迷うことはない。
個室に入ると、一気に気持ち悪さがせり上がってきた。
「ゥッゥゥ......オェッ......ッグ」
込み上がってくる気配はあるのに、それは一向に喉から出てくることはなかった。
「オエッ......オエッ......ッハァ、ハァッ......」
出ない......
気持ち悪さだけが胸の中に溜まっている。
すると、ヒールを響かせる足音が近づき、美姫は息を潜めた。
「美姫? 大丈夫ですか?」
お母様だ......
美姫の額からジワリと汗が滲んだ。ここでいないフリをして、大騒ぎになってもまずい。
美姫は急いで口元をハンカチで拭き、何もないトイレの水を流した。
「お母様、心配で様子を見に来てくださったんですか?
私は大丈夫ですよ」
何気ない笑みを見せ、手を洗う。昔よりは嘘が上手になったはずだ。
だが、凛子はまだ心配そうな表情を崩してはいなかった。
「美姫......あなた、もしかして......悪阻?」
美姫の心臓がドクン、と大きく波打った。確かにこの状況なら、妊娠を疑われてもおかしくない。
笑顔が強張っていくのを感じ、美姫は俯いた。
「いえ......最近仕事が忙しくて、ちょっと気分を悪くしただけです」
悪阻なんて、なるはずない。私たちの夫婦関係は、破綻しているのだから......
「大和くんとは......うまくいってますか?」
突然の母の言葉に、美姫は心の中で激しく動揺しつつもにっこりした。
「えぇ。大和の性格はお母様もご存じでしょ?
すごく優しくしてくれてますよ」
凛子は美姫をじっと見つめた。
「そう、ね......本当に、大和くんは私たちにもいつも気遣ってくれて、よくしてくれているわ」
財閥に貢献し、両親のことも気遣ってくれる大和を思い、美姫の胸が痛んだ。凛子に自分の気持ちなど、話せるはずない。
「ほらほら、こんなところに長くいたら今度はお母様まで心配されてしまいますよ?
行きましょう?」
美姫は母を促し、皆のいる教会へと向かった。
「よかった......ほんとに、よかった」
「うん......幸せそうだね、二人とも」
薫子と悠が腕を組み、ヴァージンロードを歩いて行く。こちらを向いた二人と目線が合い、笑みを交わす。
「俺たちも、幸せになろうな......」
強く美姫の手を握り締めた大和に、美姫は返事をすることは出来なかった。その『幸せ』の温度差が違うことを、分かっていたから。
教会の扉が開き、明るい光が一気に射し込んでくる。塔の鐘が鳴り響く。
「美姫、俺たちも外に出よう」
大和に促され、手を引かれて教会の外に出た。
悠と薫子は既にたくさんの人に囲まれ、幸せそうに微笑んでいた。側には桜の大樹があり、花弁がフラワーシャワーのように舞い散っている。まるで映画のように美しい光景だ。
眩しい。
痛い。
鐘の音が......頭にガンガン鳴り響いて、吐き気がする。
「ごめん。ちょっと、お手洗い行ってくるね......」
美姫は大和に声を掛け、洗面所へ向かった。
教会の小さい扉から入り、お手洗いを目指す。慣れ親しんできた高等部の教会なので、迷うことはない。
個室に入ると、一気に気持ち悪さがせり上がってきた。
「ゥッゥゥ......オェッ......ッグ」
込み上がってくる気配はあるのに、それは一向に喉から出てくることはなかった。
「オエッ......オエッ......ッハァ、ハァッ......」
出ない......
気持ち悪さだけが胸の中に溜まっている。
すると、ヒールを響かせる足音が近づき、美姫は息を潜めた。
「美姫? 大丈夫ですか?」
お母様だ......
美姫の額からジワリと汗が滲んだ。ここでいないフリをして、大騒ぎになってもまずい。
美姫は急いで口元をハンカチで拭き、何もないトイレの水を流した。
「お母様、心配で様子を見に来てくださったんですか?
私は大丈夫ですよ」
何気ない笑みを見せ、手を洗う。昔よりは嘘が上手になったはずだ。
だが、凛子はまだ心配そうな表情を崩してはいなかった。
「美姫......あなた、もしかして......悪阻?」
美姫の心臓がドクン、と大きく波打った。確かにこの状況なら、妊娠を疑われてもおかしくない。
笑顔が強張っていくのを感じ、美姫は俯いた。
「いえ......最近仕事が忙しくて、ちょっと気分を悪くしただけです」
悪阻なんて、なるはずない。私たちの夫婦関係は、破綻しているのだから......
「大和くんとは......うまくいってますか?」
突然の母の言葉に、美姫は心の中で激しく動揺しつつもにっこりした。
「えぇ。大和の性格はお母様もご存じでしょ?
すごく優しくしてくれてますよ」
凛子は美姫をじっと見つめた。
「そう、ね......本当に、大和くんは私たちにもいつも気遣ってくれて、よくしてくれているわ」
財閥に貢献し、両親のことも気遣ってくれる大和を思い、美姫の胸が痛んだ。凛子に自分の気持ちなど、話せるはずない。
「ほらほら、こんなところに長くいたら今度はお母様まで心配されてしまいますよ?
行きましょう?」
美姫は母を促し、皆のいる教会へと向かった。
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