<完結>【R18】愛するがゆえの罪 10 ー幸福の基準ー

奏音 美都

文字の大きさ
29 / 124
父の願い

しおりを挟む
 会計を済ませ、外に出るとそれぞれの迎えの車が2台並んでいた。

「今度は実家にも寄ってくれよ」

 笑顔で手を挙げた誠一郎の表情が、急に歪んだ。眉を寄せて息を飲み、胸を押さえ、ふらついた足取りで膝をつく。

「あなた! 誠一郎さん!
 しっかりして下さい!!」

 凛子が青褪めて駆け寄り、鞄から小瓶を取り出すと錠剤を誠一郎に飲ませた。

「す、すまん......」

 誠一郎は額から汗を流し、苦しそうに呼吸を吐いた。美姫は駆け寄ることも出来ず、それを呆然と眺めていた。

 お父、様......

 その後、誠一郎の発作は治まり、凛子と共に車に乗って帰った。だが、見送る美姫に、不安が急速に広がっていった。

「美姫、話がある」

 家に帰り、部屋に直行しようとしていた美姫は背中越しに大和に声を掛けられた。ビクッと背中を揺らし、瞼をギュッと閉じる。

 父のことだと、すぐ分かった。でも、美姫にはそれを受け入れる精神的余裕はなかった。

「今日は疲れてるから......明日の朝じゃ、ダメかな?」

 大抵そう言えば、大和は美姫の言うことを受け入れてくれる。

 だが、今日の大和は違った。

「今、話したいんだ」

 膝の上で両手を組み、項垂れたように座っている大和に、美姫は落ち着かない気持ちになった。重苦しい空気が漂い、それを払拭したいが、声を掛けることは躊躇われた。

 やがて、大和が決意したように顔を上げる。美姫は緊張で引き攣った顔で彼を見つめた。

「お父さんが発作起こすの、初めてじゃないんだ......今までにも、何回か起こしてる。
 以前危篤状態になった時、手術して一命は取り留めたけど、その後狭心症と不整脈が後遺症で残ってるんだ。薬を飲めば症状は治まるんだけど、医者からは静養が必要だって言われた。
 それもあって、お父さんは社長職を引退して仕事を俺に譲ったんだ」
「なんで、そんな大事な事......私に、話さないの?」

 実の娘である美姫は知らされず、大和だけが知っている事がショックだった。母も同様に黙っていたのだと思うと、胸が焼け付くように熱く、苦しくなった。

「美姫には黙ってるように、頼まれてたんだ。
 お父さんは、美姫のことが可愛いんだ。だから、お前には心配かけたくないんだよ、分かってやれ......」

 美姫はぐっと眉を寄せ、唇を震わせた。

 いつもそうやって、私だけ蚊帳の外......苦しみを分かち合いたいのに、そうやって気遣われる方がよっぽど辛いのに、どうして分かってくれないんだろう。

 大和が少し躊躇ってから、口を開いた。

「実は、お前が韓国出張行ってた時、お父さんの術後の定期健診に付き合ったんだ。
 ......そこで、心臓バイパス手術をした時とは別の冠動脈が塞がっていることが分かった。

 来月、再手術を受ける予定だ」

 う、そ......

 美姫の心臓がドクドクと音をたてる。

「何、言ってるの......今日だって、発作が出るまでは元気そうにしてたじゃない」

 冷や汗が一気に噴き出し、背中を冷たくなぞる。

 大和は苦しそうに眉を寄せ、俯いた。

「あれは、美姫が一緒にいたからだ。お前に、弱ってる姿を見せたくなかったんだ」

 そんな......

 韓国出張に行っている間と聞いて、秀一との事が思い浮かんだ。秀一とバーで会い、彼との再会に浮かれ、激しく心が揺さぶられ、欲情してしまったことを。

 私がそんなことをしている間に、お父様の病気の再発が発見されるなんて......

 美姫は俯き、睫毛を震わせた。

 なんていうタイミングだろう。

 ---それは、神からの天罰のように思えた。

「これは、俺の単なるワガママじゃなく、お父さんのためにも子供を作ろう。
 孫を抱かせて......お父さんの夢を、叶えてやろう」

 お父様が、そんな......

 美姫はショックで何も考えられなかった。父が危篤だった時の恐怖が蘇り、打ちのめされた。
 
 美姫の震える手を、大和が包み込む。

「俺が、お前も子供も守るから......頼む」

 大和に包まれた美姫の震えは、止むことはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。 それでも—— 8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。 これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。

処理中です...