74 / 124
癒えぬ悲しみ
2
しおりを挟む
翌日、菩提寺からの僧侶が到着した。
瀬戸が僧侶にお茶を出した後、凛子を呼びに行くため彼女の部屋へ向かった。凛子は病院から帰ってきてから、一度も顔を出していなかった。
挨拶を済ませた大和は、僧侶を仏間へと案内した。美姫は誠一郎の枕元で、未だに放心したように白い布を見つめていた。
「美姫、これから枕経が始まるから……」
そう言っても動かないので、大和は美姫を抱き上げて移動させた。
凛子が瀬戸に伴われて姿を現した。目を真っ赤にし、化粧も崩れて酷い状態だった。
そんな凛子を、大和は今まで目にしたことなどなかった。
凛子は僧侶にお辞儀し、静かに正座した。
枕経が終わると納棺となる。葬儀社のスタッフが、仏間に桐の棺を運び込んだ。病院でお清めは済ませてもらっていたものの、再び遺体が清められ、死装束が整えられる。棺布団の上からは、仏衣が掛けられた。
最後にヒゲ剃りをすると、いよいよ納棺となる。大和と瀬戸で遺体を抱き上げ、慎重に棺へと納めた。
棺には誠一郎が愛用していたセーターや結婚式の時の写真等が次々に入れられていく。
白布を被せられていない父の顔を見つめながら、美姫はマフラーを手にしていた。それは、誠一郎からのリクエストだった。
小学生の時に佐和に手伝ってもらいながらも初めて美姫が自分で編み、クリスマスに父にプレゼントしたものだった。娘から手編みのマフラーを贈られた誠一郎は大喜びで、従業員たちに自慢して回った。ほつれ目が解けても気にせず、ずっと大切にしてくれていた。
お父、様……
父の顔がぼやけていく。視界が、涙の海で溺れていく。
いい娘になれなくて、ごめんなさい。
苦労ばかりかけてしまって、親不孝をしてしまって……ごめんなさい、お父様。
後悔が後から後から湧き出て、美姫を責め立てる。美姫は癒えることのない悲しみのどん底に落ちていった。
通夜は、都内にある葬儀場にて行われた。今までに多くの有名人の葬儀が数多く執り行われた、格式高い斎場だ。
社葬は個人葬の2週間後に同じ斎場にて行われる為、財閥の人間は主だった重役のみに絞り、親戚や親しかった友人、知人に参列してもらうことにした。それでも、1000名まで収容できる会場には多くの弔問客が訪れていた。ニュースの影響なども考えると、明日の葬儀及び告別式には更に人が集まることだろう。
誠一郎が亡くなってから翌日の通夜にもかかわらず、会場には彼の死を悼んで贈られた供花が会場を埋め尽くしていた。
凛子は、黒羽二重に染め抜き五つ紋の長着で通夜式に参列していた。葬儀場につくまでは『心ここにあらず』といった感じだったが、通夜式が始まり弔問客が訪れると、悲しみを堪えて挨拶していた。
一方美姫は、黒の膝下のシンプルなワンピースに真珠のネックレスをつけ、祭壇の父の写真をぼんやりと見つめて座っていた。時折弔問客に声を掛けられてお辞儀をするものの、全く覇気がなかった。
通夜式が終わると、明日は葬儀式、告別式が待っている。祭壇の灯、線香を絶やさないため、今夜は葬儀場で一夜を過ごすことになる。
だが、凛子と美姫は体力的にも精神的にも疲労がピークに達しているため、二人は家に帰し、大和と副社長である八郎の息子、淘汰が担当することになった。八郎は誠一郎の父の姉の息子、つまり従兄弟になるので、淘汰も親族のひとりだ。
「助かります。ありがとうございます」
頭を下げた大和に、淘汰もまた頭を下げた。
「いえ、いつもうちの父が色々とご迷惑をお掛けしていますから。誠一郎おじさんには幼い頃遊んでもらった覚えがあって、こんな時で申し訳ないですが、少しでもお役にたてたらと思いまして」
八郎の息子とは思えないほど人のいい淘汰の言葉に、大和は驚きつつも感謝した。
瀬戸が僧侶にお茶を出した後、凛子を呼びに行くため彼女の部屋へ向かった。凛子は病院から帰ってきてから、一度も顔を出していなかった。
挨拶を済ませた大和は、僧侶を仏間へと案内した。美姫は誠一郎の枕元で、未だに放心したように白い布を見つめていた。
「美姫、これから枕経が始まるから……」
そう言っても動かないので、大和は美姫を抱き上げて移動させた。
凛子が瀬戸に伴われて姿を現した。目を真っ赤にし、化粧も崩れて酷い状態だった。
そんな凛子を、大和は今まで目にしたことなどなかった。
凛子は僧侶にお辞儀し、静かに正座した。
枕経が終わると納棺となる。葬儀社のスタッフが、仏間に桐の棺を運び込んだ。病院でお清めは済ませてもらっていたものの、再び遺体が清められ、死装束が整えられる。棺布団の上からは、仏衣が掛けられた。
最後にヒゲ剃りをすると、いよいよ納棺となる。大和と瀬戸で遺体を抱き上げ、慎重に棺へと納めた。
棺には誠一郎が愛用していたセーターや結婚式の時の写真等が次々に入れられていく。
白布を被せられていない父の顔を見つめながら、美姫はマフラーを手にしていた。それは、誠一郎からのリクエストだった。
小学生の時に佐和に手伝ってもらいながらも初めて美姫が自分で編み、クリスマスに父にプレゼントしたものだった。娘から手編みのマフラーを贈られた誠一郎は大喜びで、従業員たちに自慢して回った。ほつれ目が解けても気にせず、ずっと大切にしてくれていた。
お父、様……
父の顔がぼやけていく。視界が、涙の海で溺れていく。
いい娘になれなくて、ごめんなさい。
苦労ばかりかけてしまって、親不孝をしてしまって……ごめんなさい、お父様。
後悔が後から後から湧き出て、美姫を責め立てる。美姫は癒えることのない悲しみのどん底に落ちていった。
通夜は、都内にある葬儀場にて行われた。今までに多くの有名人の葬儀が数多く執り行われた、格式高い斎場だ。
社葬は個人葬の2週間後に同じ斎場にて行われる為、財閥の人間は主だった重役のみに絞り、親戚や親しかった友人、知人に参列してもらうことにした。それでも、1000名まで収容できる会場には多くの弔問客が訪れていた。ニュースの影響なども考えると、明日の葬儀及び告別式には更に人が集まることだろう。
誠一郎が亡くなってから翌日の通夜にもかかわらず、会場には彼の死を悼んで贈られた供花が会場を埋め尽くしていた。
凛子は、黒羽二重に染め抜き五つ紋の長着で通夜式に参列していた。葬儀場につくまでは『心ここにあらず』といった感じだったが、通夜式が始まり弔問客が訪れると、悲しみを堪えて挨拶していた。
一方美姫は、黒の膝下のシンプルなワンピースに真珠のネックレスをつけ、祭壇の父の写真をぼんやりと見つめて座っていた。時折弔問客に声を掛けられてお辞儀をするものの、全く覇気がなかった。
通夜式が終わると、明日は葬儀式、告別式が待っている。祭壇の灯、線香を絶やさないため、今夜は葬儀場で一夜を過ごすことになる。
だが、凛子と美姫は体力的にも精神的にも疲労がピークに達しているため、二人は家に帰し、大和と副社長である八郎の息子、淘汰が担当することになった。八郎は誠一郎の父の姉の息子、つまり従兄弟になるので、淘汰も親族のひとりだ。
「助かります。ありがとうございます」
頭を下げた大和に、淘汰もまた頭を下げた。
「いえ、いつもうちの父が色々とご迷惑をお掛けしていますから。誠一郎おじさんには幼い頃遊んでもらった覚えがあって、こんな時で申し訳ないですが、少しでもお役にたてたらと思いまして」
八郎の息子とは思えないほど人のいい淘汰の言葉に、大和は驚きつつも感謝した。
0
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~
葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。
「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。
小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。
若くしてプロジェクトチームを任される彼は、
かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、
遠く、眩しい存在になっていた。
優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。
もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。
それでも——
8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。
これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる