<完結>【R18】愛するがゆえの罪 10 ー幸福の基準ー

奏音 美都

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癒えぬ悲しみ

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 翌日の葬儀式は、皮肉にも美姫の24歳の誕生日だった。誕生日を迎えるたびに父の葬儀を思い出すことになるのかと思うと、大和の胸が痛んだ。

 実家に帰しても凛子も美姫も心休まることはなかったらしく、目の下は窪み、疲労が顔に表れていた。

 葬儀式は通夜式と同じ会場で行ったため、弔問客で溢れ返ることとなった。供花もおさまりきらず、会場外にまで延々と飾られている。

 TVのリポーターや報道陣も、昨夜より大勢駆けつけていた。事前に今日の葬儀式は個人葬なので、取材は社葬の時にお願いしますと伝えてあったにも関わらず、凛子や美姫の悲しみに暮れる顔をズームして撮影したり、弔問客に来た有名人や著名人に声をかけてインタビューしたりしていた。

 会場の席が埋まり、立ち見も出る中、司会者が開式の言葉を述べた。

 僧侶が入場し、読経が始まると会場は静粛な雰囲気に包まれた。弔事が読まれ、弔電が紹介されると、僧侶が焼香する。

 続いて、遺族と参列者の焼香となった。

 葬儀社のスタッフが案内し、凛子と大和が立ち上がった。だが、美姫は座ったまま焦点の合わない瞳を正面に向けていた。

「美姫、立つぞ」

 大和が美姫を支えて立ち上がらせ、焼香へと向かう。

 その時、後ろがざわざわしたかと思うと秀一が葬儀場に現れ、足早に遺族席へと向かった。



「遅れて、申し訳ありません」



 いつも冷静で落ち着いている秀一には珍しく、額にうっすらと汗をかき、呼吸が乱れていた。

 大和は秀一を見つめてから目を逸らし、美姫を支えて再び焼香へ向かった。焼香を終えて遺族席に着くと、秀一は美姫の隣に座った。

「美姫……」

 秀一の問いかけにも答えず、美姫は放心していた。そんな美姫を苦しそうに見つめ、彼女の手を包み込んだ。

 大和はグッと拳を握ると、美姫のもう片方の手を握り締めた。

「では、喪主の来栖大和より、挨拶です」

 司会者の言葉に大和は睫毛を伏せ、立ち上がった。

 棺が祭壇から下ろされ、出棺前の最後のお別れとなる。美姫は父の顔に視線を落とした途端、涙が込み上がりそうになり、思わず視線を逸らした。

「美姫、最期のお別れを……」

 秀一に促され、美姫は気を取り直し、生花を棺に飾った。棺で眠る父の遺体を見てもまだ、父の死を受け入れることが美姫は出来ずにいた。

 いよいよ出棺となった。大和と秀一も棺を霊柩車まで運ぶ手伝いをした。

 喪主である大和が挨拶する間、凛子は誠一郎の遺影を胸に掲げ、疲労を色濃く映しながらも凛とした表情で参列者へ顔を向けた。

 畑中の運転する車の後部座席に美姫と凛子が並んで座り、家に帰ることになった。大和は喪主としてまだやらなければならないことがあるので、これから葬儀場に戻らなければならない。

 気落ちする美姫に、大和が声を掛ける。

「俺もなるべく早く済ませて帰るから」

 美姫は小さく頷くと、肩を震わせた。

 畑中が大和に頭を下げて扉が閉まり、車がエンジン音を鳴らして発進する。大和は不安げな表情を浮かべ、遠ざかる車を見送った。

 美姫は流れる車窓に顔を向けてはいたが、その瞳に映る景色を認識することは出来なかった。

 何もしたくなかった。
 何も考えたくなかった。

 何か考えようとすると、父の思い出が溢れ出して泣き出しそうになるから。
 終わることのない悲しみに呑み込まれてしまうから。

 別れよりも深い喪失感。
 もう、どんなに思っても二度と会うことのない父。

 この悲しみは、一生癒えることはない。
 繰り返し繰り返し、波のように襲ってくるのだろう。

 今はただ……真っ白な世界に、身をおいていたかった。
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