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理性と本能の鬩(せめ)ぎ合い
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真夜中、スマホの着信音で美姫は起こされた。サイドテーブルに置いてあったスマホに手を伸ばすと、大和からだった。
「もしもし、大和?」
まだ眠気でぼんやりとした頭で返事をすると、予想していたのとは違う声が返された。
『もしもし、来栖大和さんの奥様ですか? こちら札幌方面中央警察署の者ですが。
来栖さんが今、病院で怪我の手当てを受けていますので来て頂けますか』
一気に眠気が吹き飛び、美姫はガバッと半身を起こした。
「は、はい。今すぐ、伺います」
動転しながら着替え、鞄を掴むと部屋を飛び出した。
大和……何があったの……
不安な気持ちでエレベーターに乗り込んだ。
こんな時、なかなかエレベーターが進んでくれない。何度も止まり、その度に他の宿泊客が入ってくる。焦燥を感じながら、美姫はロビーに着くのを待った。
ロビーから速足でエントランスへと向かう途中、反対側から団体客が歩いてくるのが見えた。秀一を含む、コンサートスタッフのメンバーだった。
秀一が美姫に気づき、声を掛ける。
「こんな夜遅くに外出とは、どうしたのですか」
美姫は秀一を見た途端、安心して思わず瞳が潤んだ。
「やま、とが……」
秀一の顔色が変わった。
「私は彼女と一緒に行きますので、失礼します」
スタッフ達に声を掛け、美姫の背中に手を置いた。
「行きましょう」
ロータリーに停まっているタクシーに乗り込み、警察から教えられた病院の名前を告げる。
「ホテルの部屋で、寝てたら……大和のスマホを使って警察から電話があって。
大和が怪我をして、病院にいるって」
美姫から事情を聞き、秀一は眉を寄せ、顎を右手の拳にのせた。
厄介な事に巻き込まれていなければいいのですが……
病院に着くと、連絡をくれたと思われる警察の人間が待っていた。大和が事情聴取を受けた際に被疑者の疑いもあった為、身元引受人として美姫が呼ばれたのだが、疑いは晴れたと説明を受けた。
「大変ご迷惑をお掛けしました。
あの、夫はどこに……」
既に大和は手当てを終え、待合室のベンチに座っていた。唇の端が痛々しく切れていたが、怪我は大したことはなく、打ち身と擦り傷程度だった。
「ほんとに、よかった……」
涙を浮かべて心から安堵する美姫に、申し訳なさそうに大和が謝る。
「迷惑かけちまって、ごめん……」
「本当ですよ。私も、美姫が血相変えてロビーを歩いて来るのを見て驚きました」
大和が驚いたように、秀一を見上げた。
ふたり一緒にいたんじゃなかったのか……
美姫が秀一と共に現れたので、二人はてっきり夜を共に過ごしているのだと思っていた。大和は、心の中でホッとした。
美姫が心配そうに尋ねる。
「どうして、こんな怪我なんかしたの?」
大和は俯き、口籠りながら説明した。
「すすきのでどっか飲むとこ探してて、人に尋ねたら、ある店を紹介されてさ。そこで、かなりの量の酒を飲んだんだけど、それでもありえねーだろってぐらい、とんでもない額を要求してきやがって。
俺も酔っ払って頭に血が上ってたせいもあって、そこの店主と喧嘩になっちまって……そしたら、店の奥から用心棒らしい男が現れてさ。他の客もいるからって店の外に連れ出されて、ボコボコにされてたところを誰かが見つけて通報してくれたらしくて、警察が駆け付けたんだ……」
そんなこと、大和がするなんて……
ショックを受けながらも、美姫は大和に尋ねた。
「一緒にいた先輩は、どうしたの?」
大和が気まずそうに、美姫から視線を逸らす。
「俺、ひとりだった。
最初から……約束なんて、してない」
「ぇ……?」
絶句する美姫の横から、秀一が口を挟む。
「その店の名前は覚えていますか?」
「ん? あぁ……覚えてるけど」
大和から店の名前を聞いた秀一はスマホを手に取ると、病室から出て行った。
暫くして戻ってきた秀一が、大和に告げた。
「店主はあなたが来栖財閥社長と知っていて、法外な値段を吹っ掛けたようですね。話をつけておきましたから、この事件が明るみになることはないでしょう。
まぁ、今後すすきのでの営業は出来ないでしょうしね」
含みのある言い方に、大和の背中がゾクゾクと震えた。
おい、お前何したんだよ……
だが、その質問をすることは出来なかった。
「もしもし、大和?」
まだ眠気でぼんやりとした頭で返事をすると、予想していたのとは違う声が返された。
『もしもし、来栖大和さんの奥様ですか? こちら札幌方面中央警察署の者ですが。
来栖さんが今、病院で怪我の手当てを受けていますので来て頂けますか』
一気に眠気が吹き飛び、美姫はガバッと半身を起こした。
「は、はい。今すぐ、伺います」
動転しながら着替え、鞄を掴むと部屋を飛び出した。
大和……何があったの……
不安な気持ちでエレベーターに乗り込んだ。
こんな時、なかなかエレベーターが進んでくれない。何度も止まり、その度に他の宿泊客が入ってくる。焦燥を感じながら、美姫はロビーに着くのを待った。
ロビーから速足でエントランスへと向かう途中、反対側から団体客が歩いてくるのが見えた。秀一を含む、コンサートスタッフのメンバーだった。
秀一が美姫に気づき、声を掛ける。
「こんな夜遅くに外出とは、どうしたのですか」
美姫は秀一を見た途端、安心して思わず瞳が潤んだ。
「やま、とが……」
秀一の顔色が変わった。
「私は彼女と一緒に行きますので、失礼します」
スタッフ達に声を掛け、美姫の背中に手を置いた。
「行きましょう」
ロータリーに停まっているタクシーに乗り込み、警察から教えられた病院の名前を告げる。
「ホテルの部屋で、寝てたら……大和のスマホを使って警察から電話があって。
大和が怪我をして、病院にいるって」
美姫から事情を聞き、秀一は眉を寄せ、顎を右手の拳にのせた。
厄介な事に巻き込まれていなければいいのですが……
病院に着くと、連絡をくれたと思われる警察の人間が待っていた。大和が事情聴取を受けた際に被疑者の疑いもあった為、身元引受人として美姫が呼ばれたのだが、疑いは晴れたと説明を受けた。
「大変ご迷惑をお掛けしました。
あの、夫はどこに……」
既に大和は手当てを終え、待合室のベンチに座っていた。唇の端が痛々しく切れていたが、怪我は大したことはなく、打ち身と擦り傷程度だった。
「ほんとに、よかった……」
涙を浮かべて心から安堵する美姫に、申し訳なさそうに大和が謝る。
「迷惑かけちまって、ごめん……」
「本当ですよ。私も、美姫が血相変えてロビーを歩いて来るのを見て驚きました」
大和が驚いたように、秀一を見上げた。
ふたり一緒にいたんじゃなかったのか……
美姫が秀一と共に現れたので、二人はてっきり夜を共に過ごしているのだと思っていた。大和は、心の中でホッとした。
美姫が心配そうに尋ねる。
「どうして、こんな怪我なんかしたの?」
大和は俯き、口籠りながら説明した。
「すすきのでどっか飲むとこ探してて、人に尋ねたら、ある店を紹介されてさ。そこで、かなりの量の酒を飲んだんだけど、それでもありえねーだろってぐらい、とんでもない額を要求してきやがって。
俺も酔っ払って頭に血が上ってたせいもあって、そこの店主と喧嘩になっちまって……そしたら、店の奥から用心棒らしい男が現れてさ。他の客もいるからって店の外に連れ出されて、ボコボコにされてたところを誰かが見つけて通報してくれたらしくて、警察が駆け付けたんだ……」
そんなこと、大和がするなんて……
ショックを受けながらも、美姫は大和に尋ねた。
「一緒にいた先輩は、どうしたの?」
大和が気まずそうに、美姫から視線を逸らす。
「俺、ひとりだった。
最初から……約束なんて、してない」
「ぇ……?」
絶句する美姫の横から、秀一が口を挟む。
「その店の名前は覚えていますか?」
「ん? あぁ……覚えてるけど」
大和から店の名前を聞いた秀一はスマホを手に取ると、病室から出て行った。
暫くして戻ってきた秀一が、大和に告げた。
「店主はあなたが来栖財閥社長と知っていて、法外な値段を吹っ掛けたようですね。話をつけておきましたから、この事件が明るみになることはないでしょう。
まぁ、今後すすきのでの営業は出来ないでしょうしね」
含みのある言い方に、大和の背中がゾクゾクと震えた。
おい、お前何したんだよ……
だが、その質問をすることは出来なかった。
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