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SS2 「愛しい存在」
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美姫が生まれた時のエピソードです。(美姫の母、凛子目線)
「おめでとうございます、ご懐妊ですね」
仕事中にムカムカとした吐き気と目眩に襲われ、心配した誠一郎さんが運んでくれた取引先の会社近くの病院で告げられた言葉。
「誠一郎さん……」
「凛子さん……」
何度も瞬きしながらお互いを見つめる。
誠一郎さんの手が僅かに震える私の手に重ねられ、指を絡めるとぎゅっと握り締められた。誠一郎さんの指の間が汗ばんでいる。
「凛子さん…私達の新しい生命……大切に、大切にしましょうね…」
噛みしめるように話す誠一郎さん。少し肩を震わせて俯いた後、私に向かって泣き笑いのような表情を浮かべる。
「ありがとう、凛子さん……私と一緒になってくれて……家族を与えてくれて……」
「誠、一郎…さん……」
まだ膨らみのないお腹を気遣いながら、繋いだ手をそこへ当てた。もちろん、まだ胎動なんて感じるはずもないのだけど、生命の営みの響きが聞こえてくるような気がした。
私こそ……私を選んで下さり、ありがとうございます。そして、私達の元におりてきてくれて、ありがとう……赤ちゃん。
翌日。
「誠一郎さん、これは……」
大事を取って一日お休みをもらった私の目の前には……心音を聞くためのモニターや赤ちゃんに向かって話しかけるためのツール、おむつ、新生児服に混じって最低あと1年は着られないドレスや離乳食の為のスプーンなど、所狭しと並べられていた。
「いやぁ、つい嬉しくて……買ってしまいました……」
仕事でもプライベートでも贅沢はせず、余計なものなど買うことのない誠一郎さんが妊娠が分かった途端に浮かれて、手当り次第色々な物を買ってきたことに、驚きと共に嬉しさで頬が緩んだ。
「……まだ、性別もわからないのに……」
絨毯に置かれた淡いピンク色に沢山の薔薇が散りばめられたシフォンドレスを手に取って呟いた。誠一郎さんが私の肩を優しく抱き寄せる。
「予感がするんです……貴女に似た、美しい女の子が生まれますよ……」
妊娠しているからといって秘書としての仕事が減るわけもなく、逆に出産休暇のための引き継ぎ作業もある為、かえって仕事はハードになっていた。
誠一郎さんは今まで以上に私の躰を気遣い、秘書の仕事の分までも自分でこなしてくれた。そして、夜には浮腫みを取るためのマッサージをしてくれたり、お腹の赤ちゃんに向かって話しかけたり、時には絵本を読んでくれたりもした。
忙しいながらも幸せな妊娠期間が過ぎていった。
そんな中、妊娠中期に入った時…
「逆子、ですか?」
「はい。子供によっては、自分でちゃんとした位置に戻る事もありますが、逆子を直すための運動や様々な方法がありますので試してみて下さい」
それから、仕事の合間をみて誠一郎さんのサポートの元、逆子直しの体操をしたり、呼び掛けや懐中電灯を当てたり、お灸を試したり…様々な方法を試みた。
けれど効果はなく……
「まだ、頭が上でVの字の形になっていますね……」
毎回超音波検査ではがっかりさせられるのだった。外側から胎児の位置を直してくれるという専門医にも試してもらったものの、結局位置は直らず……精密検査をした結果、羊水が減っている為赤ちゃんがうまく回転できないでいる、とのことだった。このままいくと羊水が濁り、胎児も危険に晒される、と。
もう38週に入っていたこともあり、急遽その週の日曜に帝王切開で出産することとなった。
「おめでとうございます、ご懐妊ですね」
仕事中にムカムカとした吐き気と目眩に襲われ、心配した誠一郎さんが運んでくれた取引先の会社近くの病院で告げられた言葉。
「誠一郎さん……」
「凛子さん……」
何度も瞬きしながらお互いを見つめる。
誠一郎さんの手が僅かに震える私の手に重ねられ、指を絡めるとぎゅっと握り締められた。誠一郎さんの指の間が汗ばんでいる。
「凛子さん…私達の新しい生命……大切に、大切にしましょうね…」
噛みしめるように話す誠一郎さん。少し肩を震わせて俯いた後、私に向かって泣き笑いのような表情を浮かべる。
「ありがとう、凛子さん……私と一緒になってくれて……家族を与えてくれて……」
「誠、一郎…さん……」
まだ膨らみのないお腹を気遣いながら、繋いだ手をそこへ当てた。もちろん、まだ胎動なんて感じるはずもないのだけど、生命の営みの響きが聞こえてくるような気がした。
私こそ……私を選んで下さり、ありがとうございます。そして、私達の元におりてきてくれて、ありがとう……赤ちゃん。
翌日。
「誠一郎さん、これは……」
大事を取って一日お休みをもらった私の目の前には……心音を聞くためのモニターや赤ちゃんに向かって話しかけるためのツール、おむつ、新生児服に混じって最低あと1年は着られないドレスや離乳食の為のスプーンなど、所狭しと並べられていた。
「いやぁ、つい嬉しくて……買ってしまいました……」
仕事でもプライベートでも贅沢はせず、余計なものなど買うことのない誠一郎さんが妊娠が分かった途端に浮かれて、手当り次第色々な物を買ってきたことに、驚きと共に嬉しさで頬が緩んだ。
「……まだ、性別もわからないのに……」
絨毯に置かれた淡いピンク色に沢山の薔薇が散りばめられたシフォンドレスを手に取って呟いた。誠一郎さんが私の肩を優しく抱き寄せる。
「予感がするんです……貴女に似た、美しい女の子が生まれますよ……」
妊娠しているからといって秘書としての仕事が減るわけもなく、逆に出産休暇のための引き継ぎ作業もある為、かえって仕事はハードになっていた。
誠一郎さんは今まで以上に私の躰を気遣い、秘書の仕事の分までも自分でこなしてくれた。そして、夜には浮腫みを取るためのマッサージをしてくれたり、お腹の赤ちゃんに向かって話しかけたり、時には絵本を読んでくれたりもした。
忙しいながらも幸せな妊娠期間が過ぎていった。
そんな中、妊娠中期に入った時…
「逆子、ですか?」
「はい。子供によっては、自分でちゃんとした位置に戻る事もありますが、逆子を直すための運動や様々な方法がありますので試してみて下さい」
それから、仕事の合間をみて誠一郎さんのサポートの元、逆子直しの体操をしたり、呼び掛けや懐中電灯を当てたり、お灸を試したり…様々な方法を試みた。
けれど効果はなく……
「まだ、頭が上でVの字の形になっていますね……」
毎回超音波検査ではがっかりさせられるのだった。外側から胎児の位置を直してくれるという専門医にも試してもらったものの、結局位置は直らず……精密検査をした結果、羊水が減っている為赤ちゃんがうまく回転できないでいる、とのことだった。このままいくと羊水が濁り、胎児も危険に晒される、と。
もう38週に入っていたこともあり、急遽その週の日曜に帝王切開で出産することとなった。
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