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ワンコとご飯
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居酒屋の2階の個室のお座敷に通された私たちは向かい合わせに座った。
障子で仕切られた完全個室。足を伸ばせばつま先が触れてしまう掘りごたつのテーブル。そして薄暗い照明が、残業明けで疲れきった肌をやんわりと隠してくれているはず。耳障りにならないジャズがかすかに聞こえてくるのも、疲れた身体に心地よく響く。
「はぁ~っ、落ち着くわぁ。やっぱり居酒屋にして正解だったかも」
「僕も同じこと思ってました」
障子が開いて、店員さんが注文をとりに来た。バレンタインなのに働くとか可哀想、なんて少し優越感にも似た同情を感じつつ(いや、社内恋愛とかもありか……)、勢い良く注文。
「とりあえず生中で!」
当然のように答える私に対し、
「僕は……ウーロン茶で」
遠慮がちに答える柚木くん。
注文が終わった後、柚木くんに尋ねた。
「柚木くんって、飲み会でも絶対にアルコール飲まないよね。
弱いの?」
柚木くんは少し恥ずかしそうに俯くと答えた。
「ちょっと体質で……」
「あぁ、いるよね。中学の時に理科の実験でアルコールの耐性テストしたけど、肌真っ赤になった子いたもんっ。
柚木くんもそうなんだ」
「……まぁ、そんなもんです」
柚木くんが酔ったらどうなるんだろ……目とかトロンとして、甘えられたりされたら……
キャーッ! ヤバいっ、かわゆすぎるぅぅっっ!!
まさか妄想柚木ワンコに私が悶絶してるとも知らず、柚木くんが心配そうに声をかけてきた。
「原田、先輩? 食べないんですか?」
言われてテーブルを見ると、もう既に注文した食べ物が次々に並べられていた。
「あっ、食べる食べるっっ。お腹、すいたなぁーっ」
ははっ、柚木くん目の前にして妄想が暴走してしまったわ。
そういえば、仕事以外のプライベートな話とかってあまりしたことないかも……
柚木くんと会社の飲み会とかでは出かけたことはあるけど、そこでは会社の仕事や人間関係の話ばっかりだし、2人でランチに行くことはあってもまだ仕事の途中って感じだし、夜こうしてご飯を食べに行くのは初めてだった。
「ねぇ、柚木くんは休みの日は普段何やってるの?」
柚木くんは箸を持ったまま、うーんと首を傾げた。
「土曜日はだいたい掃除とか洗濯とか買い物で終わっちゃいますね」
そう言って爽やかに笑った。
「そういえば、歓迎会の時に一人暮らしって言ってたね」
たこわさ、美味しい……
柚木くんに手でたこわさを勧めながら、話の続きを促す。
「地元出て、こっちの大学入ってから1年は寮に住んでたんですけど、それからはずっと一人暮らしですね。
原田先輩は?」
「えっ、私? 私も一人暮らし。
一昨年まで家族と一緒に住んでたんだけど、兄が結婚して同居することが決まったから居づらくなっちゃって……」
自分が行き遅れの厄介者ってことを柚木くんに話してるみたいで、気分が沈む……↓
「なんで家事ってすぐ溜まるんですかねー。毎週、大変なことになってますよ」
困ったように眉を顰める柚木くんに、家事にあくせくする姿を想像してしまい、思わずフフッと笑ってしまった。
「等身大の柚木くんの生活を少し覗かせてもらったみたいで、なんだか嬉しい……」
「え……」
柚木くんの箸が止まる。
あ……心の声が表に出ちゃった。
すると、柚木くんがキラキラした瞳で、極上のスマイルを私に向けた。
「原田先輩にそんな風に言ってもらえて、すごく嬉しいです……
僕も……こうやって、原田先輩のプライベートな話聞けるのすごく嬉しいんです!」
なんだろ。
昼間会社にいる時と違って、プライベートな場所で面と向かってこんなにストレートに好意を伝えられると……照れる。
「あ、あはは。それは、よかった……
えと次、何飲もうかな……」
メニューを手に取ると少し赤くなった顔を隠すように、メニューを開いて覗き込んだ。
障子で仕切られた完全個室。足を伸ばせばつま先が触れてしまう掘りごたつのテーブル。そして薄暗い照明が、残業明けで疲れきった肌をやんわりと隠してくれているはず。耳障りにならないジャズがかすかに聞こえてくるのも、疲れた身体に心地よく響く。
「はぁ~っ、落ち着くわぁ。やっぱり居酒屋にして正解だったかも」
「僕も同じこと思ってました」
障子が開いて、店員さんが注文をとりに来た。バレンタインなのに働くとか可哀想、なんて少し優越感にも似た同情を感じつつ(いや、社内恋愛とかもありか……)、勢い良く注文。
「とりあえず生中で!」
当然のように答える私に対し、
「僕は……ウーロン茶で」
遠慮がちに答える柚木くん。
注文が終わった後、柚木くんに尋ねた。
「柚木くんって、飲み会でも絶対にアルコール飲まないよね。
弱いの?」
柚木くんは少し恥ずかしそうに俯くと答えた。
「ちょっと体質で……」
「あぁ、いるよね。中学の時に理科の実験でアルコールの耐性テストしたけど、肌真っ赤になった子いたもんっ。
柚木くんもそうなんだ」
「……まぁ、そんなもんです」
柚木くんが酔ったらどうなるんだろ……目とかトロンとして、甘えられたりされたら……
キャーッ! ヤバいっ、かわゆすぎるぅぅっっ!!
まさか妄想柚木ワンコに私が悶絶してるとも知らず、柚木くんが心配そうに声をかけてきた。
「原田、先輩? 食べないんですか?」
言われてテーブルを見ると、もう既に注文した食べ物が次々に並べられていた。
「あっ、食べる食べるっっ。お腹、すいたなぁーっ」
ははっ、柚木くん目の前にして妄想が暴走してしまったわ。
そういえば、仕事以外のプライベートな話とかってあまりしたことないかも……
柚木くんと会社の飲み会とかでは出かけたことはあるけど、そこでは会社の仕事や人間関係の話ばっかりだし、2人でランチに行くことはあってもまだ仕事の途中って感じだし、夜こうしてご飯を食べに行くのは初めてだった。
「ねぇ、柚木くんは休みの日は普段何やってるの?」
柚木くんは箸を持ったまま、うーんと首を傾げた。
「土曜日はだいたい掃除とか洗濯とか買い物で終わっちゃいますね」
そう言って爽やかに笑った。
「そういえば、歓迎会の時に一人暮らしって言ってたね」
たこわさ、美味しい……
柚木くんに手でたこわさを勧めながら、話の続きを促す。
「地元出て、こっちの大学入ってから1年は寮に住んでたんですけど、それからはずっと一人暮らしですね。
原田先輩は?」
「えっ、私? 私も一人暮らし。
一昨年まで家族と一緒に住んでたんだけど、兄が結婚して同居することが決まったから居づらくなっちゃって……」
自分が行き遅れの厄介者ってことを柚木くんに話してるみたいで、気分が沈む……↓
「なんで家事ってすぐ溜まるんですかねー。毎週、大変なことになってますよ」
困ったように眉を顰める柚木くんに、家事にあくせくする姿を想像してしまい、思わずフフッと笑ってしまった。
「等身大の柚木くんの生活を少し覗かせてもらったみたいで、なんだか嬉しい……」
「え……」
柚木くんの箸が止まる。
あ……心の声が表に出ちゃった。
すると、柚木くんがキラキラした瞳で、極上のスマイルを私に向けた。
「原田先輩にそんな風に言ってもらえて、すごく嬉しいです……
僕も……こうやって、原田先輩のプライベートな話聞けるのすごく嬉しいんです!」
なんだろ。
昼間会社にいる時と違って、プライベートな場所で面と向かってこんなにストレートに好意を伝えられると……照れる。
「あ、あはは。それは、よかった……
えと次、何飲もうかな……」
メニューを手に取ると少し赤くなった顔を隠すように、メニューを開いて覗き込んだ。
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