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50.懐柔
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宏典は頭を抱え、低く呻いた。
確かに、俺の言い方は間違っていた……たとえ、性的な関係になくても、気持ちだけでもふたりが愛し合うのは異常なことだ。どうしたら、類と美羽に分かってもらえるんだ……ック
罪悪感など微塵も感じられない類と話しても埒が明かないと判断した宏典は、美羽に顔を向けた。
「美羽は……類との関係をどう思っているんだ」
美羽はビクッと肩を震わせ、おそるおそる顔を上げた。横から類の視線を痛いほどに感じる。父が、母が、固唾を飲んで美羽に希望を託しているのを感じている。
分かっている。この場をおさめられるのは、自分しかいないと。
類の暴走を止められるのは、私だけ……
けれど、美羽には類を傷つけることはどうしても出来なかった。嘘を言って類を傷つけることは、自分もまた傷つけることになるから。
「ウッ、ウッ……お父、さん……お母さん……ごめ、なさ……ウッ、ウッ……ヒッグ……わだ、し……類が、好き。
ひとりの、男性として……ウッ、ウッ……類が、好きなの……ウゥッ」
美羽は、幼い頃から聞き分けのいい子供だった。優しく、穏やかで、真面目で、成績も優秀で、一言で言えば育てるのに楽だった。そんな美羽からの思いもよらない裏切りの言葉は、類のあっけらかんとした言葉よりも重く深刻に宏典と華江の胸にズンと響いた。
それまで余裕に見せながらもどこか緊張した面持ちだった類が、ホォと安堵の息を吐き、笑みを浮かべた。
「ほらね、僕たちは互いに愛し合ってるんだ。だからもう、僕たちに干渉しないでよ。別に世間に言わなければ判りっこないしさ。高校でも、ふたりの関係がバレないように気をつけて行動してるし」
華江が今にも癇癪を起こしそうに拳を震わせているのを横目にし、宏典は尊大な口調で類を諭した。
「世間や周りに知られなければいいとか、そういうことじゃないだろう。姉と弟で好き合うこと自体、間違っているんだ」
『間違っている』とはっきりと否定され、美羽はビクッと肩を震わせた。
「古代エジプトでは同父同母の兄弟姉妹間での婚姻は認められてたよ。それは、時代が違うからってこと? 姉弟で愛し合っちゃいけない倫理ってなに? 奇形の子供が生まれやすいって、子供を望んでないし、避妊もしてるのにまだ非難するわけ?」
宏典は類の気迫に圧倒され、言葉を詰まらせた。
美羽に視線を向けるが、目を合わせてはくれない。どう説得したところで、類を納得させる答えなど見つかりそうになかった。
宏典は元々口下手で、これまで人を説得など殆どしたことがなかったし、得意ではない。交渉や営業が苦手だから自分に一番合う研究職についたというのに、ここに来て交渉術を要されるとは思いもしなかった。
なんとか父親の威厳を保とうと外面をつくろっているが、頭のいい類には全て見透かされていそうだった。
父親の俺が、息子の前で萎縮するわけにはいかない……
宏典は咳払いし、気持ちを奮い立たせた。
「とに、かく……たとえ、当人同士の合意があろうとも、血の繋がったおまえたち姉弟が愛し合うことは倫理的に許されないんだ。
それに、避妊しているといっても、妊娠の確率がまったくないわけではない。その負担は、類よりも女性である美羽にかかるんだぞ? 類は、美羽にそんな辛い思いをさせたくないだろう?」
なかなか上手く話せたと思った。
だが……
「責任なら、僕が全てとるから」
類は、軽くそれを一蹴した。
確かに、俺の言い方は間違っていた……たとえ、性的な関係になくても、気持ちだけでもふたりが愛し合うのは異常なことだ。どうしたら、類と美羽に分かってもらえるんだ……ック
罪悪感など微塵も感じられない類と話しても埒が明かないと判断した宏典は、美羽に顔を向けた。
「美羽は……類との関係をどう思っているんだ」
美羽はビクッと肩を震わせ、おそるおそる顔を上げた。横から類の視線を痛いほどに感じる。父が、母が、固唾を飲んで美羽に希望を託しているのを感じている。
分かっている。この場をおさめられるのは、自分しかいないと。
類の暴走を止められるのは、私だけ……
けれど、美羽には類を傷つけることはどうしても出来なかった。嘘を言って類を傷つけることは、自分もまた傷つけることになるから。
「ウッ、ウッ……お父、さん……お母さん……ごめ、なさ……ウッ、ウッ……ヒッグ……わだ、し……類が、好き。
ひとりの、男性として……ウッ、ウッ……類が、好きなの……ウゥッ」
美羽は、幼い頃から聞き分けのいい子供だった。優しく、穏やかで、真面目で、成績も優秀で、一言で言えば育てるのに楽だった。そんな美羽からの思いもよらない裏切りの言葉は、類のあっけらかんとした言葉よりも重く深刻に宏典と華江の胸にズンと響いた。
それまで余裕に見せながらもどこか緊張した面持ちだった類が、ホォと安堵の息を吐き、笑みを浮かべた。
「ほらね、僕たちは互いに愛し合ってるんだ。だからもう、僕たちに干渉しないでよ。別に世間に言わなければ判りっこないしさ。高校でも、ふたりの関係がバレないように気をつけて行動してるし」
華江が今にも癇癪を起こしそうに拳を震わせているのを横目にし、宏典は尊大な口調で類を諭した。
「世間や周りに知られなければいいとか、そういうことじゃないだろう。姉と弟で好き合うこと自体、間違っているんだ」
『間違っている』とはっきりと否定され、美羽はビクッと肩を震わせた。
「古代エジプトでは同父同母の兄弟姉妹間での婚姻は認められてたよ。それは、時代が違うからってこと? 姉弟で愛し合っちゃいけない倫理ってなに? 奇形の子供が生まれやすいって、子供を望んでないし、避妊もしてるのにまだ非難するわけ?」
宏典は類の気迫に圧倒され、言葉を詰まらせた。
美羽に視線を向けるが、目を合わせてはくれない。どう説得したところで、類を納得させる答えなど見つかりそうになかった。
宏典は元々口下手で、これまで人を説得など殆どしたことがなかったし、得意ではない。交渉や営業が苦手だから自分に一番合う研究職についたというのに、ここに来て交渉術を要されるとは思いもしなかった。
なんとか父親の威厳を保とうと外面をつくろっているが、頭のいい類には全て見透かされていそうだった。
父親の俺が、息子の前で萎縮するわけにはいかない……
宏典は咳払いし、気持ちを奮い立たせた。
「とに、かく……たとえ、当人同士の合意があろうとも、血の繋がったおまえたち姉弟が愛し合うことは倫理的に許されないんだ。
それに、避妊しているといっても、妊娠の確率がまったくないわけではない。その負担は、類よりも女性である美羽にかかるんだぞ? 類は、美羽にそんな辛い思いをさせたくないだろう?」
なかなか上手く話せたと思った。
だが……
「責任なら、僕が全てとるから」
類は、軽くそれを一蹴した。
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