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54.類の狙い
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類が美羽にしがみつき、肩を激しく揺らす。
「ウッ……ウゥッ、ミュー……もう、ここにいたくない。辛い、思い出しかないから……この家にも、アメリカにも未練なんてない……
僕は、日本に帰りたい。帰り、たいっ……ッグ」
美羽はビクッと躰を震わせた。
あの日、両親に自分たちの関係が露わになったことにより、引き離されることになった。
『分かりました。6年半……類に会えなくても耐えます。会えなくても私はずっと、類を大好きだから。
大人になったら、必ず一緒になろう?」
美羽のあの時の気持ちは、決して嘘ではなかった。再び、類と愛し合える日を夢見ていた。
けれど、その間に生じた策略や予想もしなかった事態により、美羽は類との再会を果たすことなく、大学を卒業した美羽は類を思いつつも義昭と結婚した。美羽がいくら事情を説明したところで、それは類にとっては裏切りでしかないだろう。
このままアメリカに類を残して帰国するのは後ろめたいけれど、日本に一緒に連れて行くなど恐ろしすぎる。
美羽は、類に対しての疑念を完全に振り払えないでいた。
そんな中、義昭が類の目の前に屈み込み、優しく彼の手を取った。
「ルイ、こんな所にいることはない。僕たちと日本に帰ろう。何も心配はいらない。僕と美羽がお前の面倒をみてやるから」
「ッッ義昭さんっっ!!」
美羽はガバッと顔を上げ、取り乱して叫んだ。義昭は今までに見たことがないぐらいの優しい微笑みを美羽に見せた。
「肉体的にも精神的にも傷を負ったルイに、一番必要なのは支えてくれる家族の存在だ。美羽は10年ぶりに弟に再会できたんだ。僕も義弟のために、できる限りのことはしてやりたい。美羽だって、そうだろ?」
義昭の言葉に、美羽はグッと喉を押し潰した。全身が寒気に襲われ、ガクガクと震えてくる。
類は……これが、狙いだったの?
私と義昭さんの同情を買って、私たちのいる日本、そして私たちの家に住むことが目的だったの……?
父から受けたという虐待ですら、疑わしく思えてくる。もしやこれは、美羽の懐に入るための自作自演だったのでは……そんな考えすら、浮かんでしまう。
類が弱々しく顔を上げ、それからフイと義昭から視線を逸らす。
「ヨシの言葉は嬉しいし、ひとりで住むのは寂しいからミューとヨシと暮らせたらどんなにいいかって思うけど……でも、ふたりに迷惑かけるわけにはいかないよ」
遠慮がちに言いながらも、ふたりと暮らしたいという意思をはっきりそこに感じる類の言葉。美羽は唇を戦慄かせるものの、反論の言葉を紡げずにいた。どう言えば、夫の気持ちを損ねずに類を拒否出来るのか、思い付かない。
その間にも、義昭の気持ちはぐいぐい類に傾いていた。
「迷惑なわけないだろう! ちょうど部屋も1つ余ってるんだ。そこを使えばいい」
そ、んな……
美羽は愕然とした。
その部屋は、現在、義昭の両親が泊まりに来た時のゲストルームとして使用していて、将来的には子供部屋にしようと結婚前に話していたのだった。自分にはもう子供を作る意思などないと宣言されたかのようで、美羽の心がギリギリと締め付けられた。
「ミューは……僕が行くと、迷惑?」
類におずおずと顔を覗き込まれる。
その瞳に疑心暗鬼な自分の顔が映し込まれ、その醜さを突きつけられて慄いた。救済を求める無垢で純粋な表情で縋るように類に見つめられ、美羽は自分の中の毒々しい気持ちを見透かされているかのように思え、たじろぐ。
本当に、類は純粋に私に助けを求めているの?
もしそうだとしたら……ここで類を再び見捨てたら、私は深く後悔することになる。
ジリジリと心が焼け付くかのように痛む。
ーーどれが嘘で、どれが真実なのか。
類はあまりにも掴みどころがなく、その心を読み取ることは難しい。
横から義昭のじっとりした視線を感じる。もしここで弟を見捨てれば、薄情な姉だと蔑まれるだろうか。今までだって危うかった夫婦関係を保つことは出来るのだろうか。
異様なプレッシャーが、美羽に伸し掛かる。
「迷惑、だなんて……」
なんとか喉から絞り出し、『でも、滞在するのは新しい家が見つかるまでの間だけね』という言葉を継ぐはずだったが、それを待たず、類がギュッと抱きついてきた。
「良かったぁ!! またミューと一緒に暮らせるなんて嬉しいよ!!」
類の熱と漂う淫靡なオーラが、美羽の判断を狂わせる。
もしこれが、たとえ彼の策略だったとしても、その毒牙にかかってしまいたいという欲望がフツフツと奥底から生み出され、踏みつけても踏みつけても、あとからあとから湧いてくる。
心の中に浮かんだまま行き場を失った言葉が、美羽の胸の中で淡くパチンと弾けた。
「ミュー、これからずっと一緒だね……」
美羽にしか聞こえないぐらいの小さな囁きが耳を震わせる。
とんでもない過ちを犯してしまったのでは……
美羽の心が急速に暗雲に覆われていった。
「ウッ……ウゥッ、ミュー……もう、ここにいたくない。辛い、思い出しかないから……この家にも、アメリカにも未練なんてない……
僕は、日本に帰りたい。帰り、たいっ……ッグ」
美羽はビクッと躰を震わせた。
あの日、両親に自分たちの関係が露わになったことにより、引き離されることになった。
『分かりました。6年半……類に会えなくても耐えます。会えなくても私はずっと、類を大好きだから。
大人になったら、必ず一緒になろう?」
美羽のあの時の気持ちは、決して嘘ではなかった。再び、類と愛し合える日を夢見ていた。
けれど、その間に生じた策略や予想もしなかった事態により、美羽は類との再会を果たすことなく、大学を卒業した美羽は類を思いつつも義昭と結婚した。美羽がいくら事情を説明したところで、それは類にとっては裏切りでしかないだろう。
このままアメリカに類を残して帰国するのは後ろめたいけれど、日本に一緒に連れて行くなど恐ろしすぎる。
美羽は、類に対しての疑念を完全に振り払えないでいた。
そんな中、義昭が類の目の前に屈み込み、優しく彼の手を取った。
「ルイ、こんな所にいることはない。僕たちと日本に帰ろう。何も心配はいらない。僕と美羽がお前の面倒をみてやるから」
「ッッ義昭さんっっ!!」
美羽はガバッと顔を上げ、取り乱して叫んだ。義昭は今までに見たことがないぐらいの優しい微笑みを美羽に見せた。
「肉体的にも精神的にも傷を負ったルイに、一番必要なのは支えてくれる家族の存在だ。美羽は10年ぶりに弟に再会できたんだ。僕も義弟のために、できる限りのことはしてやりたい。美羽だって、そうだろ?」
義昭の言葉に、美羽はグッと喉を押し潰した。全身が寒気に襲われ、ガクガクと震えてくる。
類は……これが、狙いだったの?
私と義昭さんの同情を買って、私たちのいる日本、そして私たちの家に住むことが目的だったの……?
父から受けたという虐待ですら、疑わしく思えてくる。もしやこれは、美羽の懐に入るための自作自演だったのでは……そんな考えすら、浮かんでしまう。
類が弱々しく顔を上げ、それからフイと義昭から視線を逸らす。
「ヨシの言葉は嬉しいし、ひとりで住むのは寂しいからミューとヨシと暮らせたらどんなにいいかって思うけど……でも、ふたりに迷惑かけるわけにはいかないよ」
遠慮がちに言いながらも、ふたりと暮らしたいという意思をはっきりそこに感じる類の言葉。美羽は唇を戦慄かせるものの、反論の言葉を紡げずにいた。どう言えば、夫の気持ちを損ねずに類を拒否出来るのか、思い付かない。
その間にも、義昭の気持ちはぐいぐい類に傾いていた。
「迷惑なわけないだろう! ちょうど部屋も1つ余ってるんだ。そこを使えばいい」
そ、んな……
美羽は愕然とした。
その部屋は、現在、義昭の両親が泊まりに来た時のゲストルームとして使用していて、将来的には子供部屋にしようと結婚前に話していたのだった。自分にはもう子供を作る意思などないと宣言されたかのようで、美羽の心がギリギリと締め付けられた。
「ミューは……僕が行くと、迷惑?」
類におずおずと顔を覗き込まれる。
その瞳に疑心暗鬼な自分の顔が映し込まれ、その醜さを突きつけられて慄いた。救済を求める無垢で純粋な表情で縋るように類に見つめられ、美羽は自分の中の毒々しい気持ちを見透かされているかのように思え、たじろぐ。
本当に、類は純粋に私に助けを求めているの?
もしそうだとしたら……ここで類を再び見捨てたら、私は深く後悔することになる。
ジリジリと心が焼け付くかのように痛む。
ーーどれが嘘で、どれが真実なのか。
類はあまりにも掴みどころがなく、その心を読み取ることは難しい。
横から義昭のじっとりした視線を感じる。もしここで弟を見捨てれば、薄情な姉だと蔑まれるだろうか。今までだって危うかった夫婦関係を保つことは出来るのだろうか。
異様なプレッシャーが、美羽に伸し掛かる。
「迷惑、だなんて……」
なんとか喉から絞り出し、『でも、滞在するのは新しい家が見つかるまでの間だけね』という言葉を継ぐはずだったが、それを待たず、類がギュッと抱きついてきた。
「良かったぁ!! またミューと一緒に暮らせるなんて嬉しいよ!!」
類の熱と漂う淫靡なオーラが、美羽の判断を狂わせる。
もしこれが、たとえ彼の策略だったとしても、その毒牙にかかってしまいたいという欲望がフツフツと奥底から生み出され、踏みつけても踏みつけても、あとからあとから湧いてくる。
心の中に浮かんだまま行き場を失った言葉が、美羽の胸の中で淡くパチンと弾けた。
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