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96.歪んだ三角関係
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信号を渡ってロータリー沿いに歩き、デパートやレストランの入っている駅ビルを突っ切り、西口側へと出るとそこもレストランが立ち並んでいた。そこを通り過ぎてすぐ隣に立つデパートの真向かいにラーメンの写真が載った大きな看板が掲げられている一際目立つ店が、目的のラーメン屋だった。
短めの暖簾をくぐって店内に入るとすぐに自動券売機があるのを見て、類のテンションが上がった。
「わぁ、ほんと日本はどこでも自販あるよね! 食べ物注文するのに自販使うとか絶対アメリカじゃないよー!」
写真入りの注文ボタンを眺めながら少し考えた後、類がお金を入れようとすると、義昭が制した。
「類は、まだそんなに日本円持ってないだろ?」
義昭が財布から千円札を出し、券売機に入れる。
「ヨシ、ありがとう」
そのやり取りに、美羽は愕然とした。
基本的にお金の管理は義昭がしている。夫の口座から住宅ローンや公共料金が引き落とされ、そこから生活費として美羽は毎月5万円を受け取っていた。
夫婦2人の生活で5万あれば十分だと思うかもしれないが、これには食費や日用品費だけでなく、美羽の洋服代や化粧品代、ごく稀に外食した時の食事代や町内会費や急な出費にも当てられたりするので、美羽は自分のものや足りないお金は隼斗のカフェで稼いだお金で補っていた。
さすがに罰が悪いのか、美羽にお金を要求することなく義昭は自分でお金を払っていたが、美羽の分を払うことはなかった。
店内はカウンター席しかなく、背中合わせになる形で右と左にカウンターがずらっと並んでいた。ちょうど左側奥の席3つが開いていたため、奥から類、美羽、義昭の順に座る。
「壁側が空いてて良かったな。肘が当たらなくて済む」
「そうだね、左利きだから。ヨシ、よく覚えてたね」
「まぁな」
したり顔の義昭に、美羽はどうしても嫌悪感を抱かずにいられない。
自分たちでちょうど席が埋まり、後から入った客は待たされていた。
「いいタイミングで入れて良かったねー」
「そうだね」
類の呼びかけに、美羽は弱々しく微笑んだ。
席に座ってすぐにラーメンが運ばれてきた。こういった店は回転率が命だから、注文してから料理がくるのが早いのはありがたいが、急かされているような気持ちになってしまう。
それでも、目の前に置かれた豚骨醤油ラーメンとトッピングで加えた半熟卵を目にし、食欲が一気に掻き立てられる。類は濃厚味噌チャーシュー麺を、義昭はつけ麺を頼んでいた。
『美味しそう!』
類と同時にハモり、ふたりして顔を見合わせて笑い合う。こんな瞬間がよくあって、それがふたりの絆を強く感じさせてくれて嬉しかったことを思い出す。
「さすが双子だな」
すかさず義昭に声を掛けられ、ふたりの世界を邪魔されたような気持ちになった。
「よく1つのラーメンをシェアして食べてたよねー。ほら、利き手が違うから一緒に食べても邪魔にならないんだよね」
「そうなのか……」
義昭の反応に、美羽はギクリとした。
「そ、それは! 昔の話、だから。小さい頃、ラーメンを一人で食べられないからって分け合って食べてたんだよね?」
焦って必死に言い訳する美羽に、類がクスリと意味深な笑みを深めた。
「そうだったっけ?」
「そう!」
美羽は箸を手に取り、ラーメンを食べ始めた。
食べ応えのある縮れ太麺が濃厚な豚骨醤油スープに絡まり、口の中で広がっていく。レンゲを手に取りスープを啜ると、後を引く美味しさで、何度も味わいたくなる。絶妙な半熟具合いの卵は味がよく染み込んでいて、それと一緒に食べる豚の薄切り肉からはジュワーっとスープと豚肉の旨味が溶け合い、幸せに浸る。
「美味しい……」
と、横から箸が伸び、麺を啜った。
「うん、醤油も美味しい」
「るいっ!!」
慌てて箸を離した美羽に、類は完璧な笑みを浮かべた。
「別にいいじゃん、姉弟なんだから。それとも、もう僕と食べ物シェアするのは嫌?」
蠱惑的な表情で瞳を覗き込まれ、美羽は慌てて視線を逸らした。
「そんなこと、ないけど」
「ねぇ、ミューも味噌食べてみる?」
「わ、たしは……大丈夫」
「えぇー、こっちも美味しいのに」
不満げな言葉を述べながらも、類は気にすることなく楽しそうに食べている。
そんなふたりを見て、義昭がグイと首を伸ばして美羽越しに類に話しかけた。
「ルイ、こっちのつけ麺食べてみるか? これも美味しいぞ」
だが、ルイは思いっきり顔を顰めた。
「なんか今日は、つけ麺って気分じゃないんだよね。しかも、他人が箸つけた食べ物に自分の箸つけたくないし」
それから、人懐っこい笑顔を義昭に向けた。
「ごめんね、でもありがとう!」
「ぁ。あぁ……」
義昭はカーッと顔を真っ赤にさせて唇を噛み締めた。初めて見る夫の表情に美羽が驚いていると、義昭は一瞬チラリと美羽のラーメンを見下ろしてから、ボソッと呟いた。
「ほんと、ふたりは仲良いな」
「でしょ♪」
いつまでこの歪んだ三角関係が続くんだろう。
こんなの……心臓がいくつあっても、足りないよ……
美羽は再び箸を手に取り、密かに溜息を吐いた。
短めの暖簾をくぐって店内に入るとすぐに自動券売機があるのを見て、類のテンションが上がった。
「わぁ、ほんと日本はどこでも自販あるよね! 食べ物注文するのに自販使うとか絶対アメリカじゃないよー!」
写真入りの注文ボタンを眺めながら少し考えた後、類がお金を入れようとすると、義昭が制した。
「類は、まだそんなに日本円持ってないだろ?」
義昭が財布から千円札を出し、券売機に入れる。
「ヨシ、ありがとう」
そのやり取りに、美羽は愕然とした。
基本的にお金の管理は義昭がしている。夫の口座から住宅ローンや公共料金が引き落とされ、そこから生活費として美羽は毎月5万円を受け取っていた。
夫婦2人の生活で5万あれば十分だと思うかもしれないが、これには食費や日用品費だけでなく、美羽の洋服代や化粧品代、ごく稀に外食した時の食事代や町内会費や急な出費にも当てられたりするので、美羽は自分のものや足りないお金は隼斗のカフェで稼いだお金で補っていた。
さすがに罰が悪いのか、美羽にお金を要求することなく義昭は自分でお金を払っていたが、美羽の分を払うことはなかった。
店内はカウンター席しかなく、背中合わせになる形で右と左にカウンターがずらっと並んでいた。ちょうど左側奥の席3つが開いていたため、奥から類、美羽、義昭の順に座る。
「壁側が空いてて良かったな。肘が当たらなくて済む」
「そうだね、左利きだから。ヨシ、よく覚えてたね」
「まぁな」
したり顔の義昭に、美羽はどうしても嫌悪感を抱かずにいられない。
自分たちでちょうど席が埋まり、後から入った客は待たされていた。
「いいタイミングで入れて良かったねー」
「そうだね」
類の呼びかけに、美羽は弱々しく微笑んだ。
席に座ってすぐにラーメンが運ばれてきた。こういった店は回転率が命だから、注文してから料理がくるのが早いのはありがたいが、急かされているような気持ちになってしまう。
それでも、目の前に置かれた豚骨醤油ラーメンとトッピングで加えた半熟卵を目にし、食欲が一気に掻き立てられる。類は濃厚味噌チャーシュー麺を、義昭はつけ麺を頼んでいた。
『美味しそう!』
類と同時にハモり、ふたりして顔を見合わせて笑い合う。こんな瞬間がよくあって、それがふたりの絆を強く感じさせてくれて嬉しかったことを思い出す。
「さすが双子だな」
すかさず義昭に声を掛けられ、ふたりの世界を邪魔されたような気持ちになった。
「よく1つのラーメンをシェアして食べてたよねー。ほら、利き手が違うから一緒に食べても邪魔にならないんだよね」
「そうなのか……」
義昭の反応に、美羽はギクリとした。
「そ、それは! 昔の話、だから。小さい頃、ラーメンを一人で食べられないからって分け合って食べてたんだよね?」
焦って必死に言い訳する美羽に、類がクスリと意味深な笑みを深めた。
「そうだったっけ?」
「そう!」
美羽は箸を手に取り、ラーメンを食べ始めた。
食べ応えのある縮れ太麺が濃厚な豚骨醤油スープに絡まり、口の中で広がっていく。レンゲを手に取りスープを啜ると、後を引く美味しさで、何度も味わいたくなる。絶妙な半熟具合いの卵は味がよく染み込んでいて、それと一緒に食べる豚の薄切り肉からはジュワーっとスープと豚肉の旨味が溶け合い、幸せに浸る。
「美味しい……」
と、横から箸が伸び、麺を啜った。
「うん、醤油も美味しい」
「るいっ!!」
慌てて箸を離した美羽に、類は完璧な笑みを浮かべた。
「別にいいじゃん、姉弟なんだから。それとも、もう僕と食べ物シェアするのは嫌?」
蠱惑的な表情で瞳を覗き込まれ、美羽は慌てて視線を逸らした。
「そんなこと、ないけど」
「ねぇ、ミューも味噌食べてみる?」
「わ、たしは……大丈夫」
「えぇー、こっちも美味しいのに」
不満げな言葉を述べながらも、類は気にすることなく楽しそうに食べている。
そんなふたりを見て、義昭がグイと首を伸ばして美羽越しに類に話しかけた。
「ルイ、こっちのつけ麺食べてみるか? これも美味しいぞ」
だが、ルイは思いっきり顔を顰めた。
「なんか今日は、つけ麺って気分じゃないんだよね。しかも、他人が箸つけた食べ物に自分の箸つけたくないし」
それから、人懐っこい笑顔を義昭に向けた。
「ごめんね、でもありがとう!」
「ぁ。あぁ……」
義昭はカーッと顔を真っ赤にさせて唇を噛み締めた。初めて見る夫の表情に美羽が驚いていると、義昭は一瞬チラリと美羽のラーメンを見下ろしてから、ボソッと呟いた。
「ほんと、ふたりは仲良いな」
「でしょ♪」
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