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187.ぶつかりあう嫉妬
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疑問と不安が入り混じる中、角を曲がったところで類は停車している黒塗りの高級車に向かって手を挙げた。すると、類とサイドミラー越しに目の合った運転手が降りてきて、後部座席の扉を開ける。
「ご予約いただいた内山様ですね。どうぞお乗り下さいませ」
類は美羽を促し、座席に座らせると自らも美羽の隣に座った。
「どうして、タクシーにしたの?」
「タクシーじゃなくてハイヤーだよ。もう遅いから電車の本数少なくなってるし、この時期この時間帯の電車は忘年会とか飲み会帰りの厄介な乗客が多そうでしょ。だから、こっちで帰る方がいいと思って」
ハイヤーに乗ったことなど今までなかったが、確かに一般的なタクシーとは違って高級車だし、乗る時の対応も異なるし、車内の内装も重厚感を感じる。
白髪の上品そうな男性運転手がハンドルを握り、穏やかな口調で話しかけた。
「では、出発致します」
自分がワンランク上の世界の住人のような扱いをされ、嬉しくなるというより恐縮してしまう。もしかしたら、帰りの運賃だけで今日1日分のバイト代が飛んでしまうのではないかなんて、染み付いた貧乏じみた考えが浮かんでしまう。
ウィーンと運転席と後部座席の間に分厚いプラスチック板のような仕切りが上がってきた。
「これで、僕たちの会話は聞かれることないから安心して」
類の艶っぽい声が耳に響き、美羽の背中がゾクリと震えた。
まさか、その為にハイヤーを手配したの?
「フフッ、警戒してるの? 大丈夫……約束は、ちゃんと守るから」
類が美羽の首筋に指をたててチェーンを引っ掛け、するすると引き寄せた。
「ミューも、ちゃんと僕との約束守ってくれてるしね」
フッと首元に息を吹きかけられ、「ンクッ」と出そうになった声を必死に押し留めた。長い帰路になりそうな予感がした。
類は長い脚を持て余すように大きく組むと、美羽の腰を引き寄せた。
「ねぇ、ミューはお店で働いてる時、いつもあんな風に客から声かけられてるの?」
「ぇ、どういう意味?」
首を傾げた美羽に、類は苛立ちを見せて歯をギリッと鳴らした。
「ほら、親子ぐらい年の差が離れてたサラリーマン二人とかさ、あと他にもミューに色目使ってた奴いたし、カフェタイムの時なんかカップルで来てたくせに、美羽のことボーッと見つめてた大学生もいたじゃん! それにディナーの時、なんか手紙みたいなの渡されてなかった?」
類の観察力に感心しつつ、美羽はクスッと笑った。
「大川さんと水井さんは常連客で私が結婚してるの知ってるし、私のこと見てたって言っても別に口説かれたり誘われたわけじゃないし、ディナーの時は……えっと、携帯の番号渡されたけど、ちゃんと結婚してますからってお断りしたよ?」
「ねぇ、そんなこと日常的にあるの?」
「日常的ってわけじゃ……ない、けど」
美羽は言葉を濁した。結婚してからはぐんと減ったものの、美羽が結婚していると知らずにデートに誘ってくる客もいるし、知っていても色目を使ってくるような客もいる。けれど、それを正直に話したところで、いい結果に繋がらないのは分かっている。
「心配しないで。私だって子供じゃないんだから、それぐらいの客あしらいは身につけてるし、ちゃんと断ってるから」
幼い子供を諭すような美羽の言い草に、類が激昂した。
「ミューは全然分かってないよ! だから前にストーカーに付き纏われたんでしょ? ミューは警戒心が足りないんだよ!!
浩平くんにパフェ作ってもらったり、隼斗兄さんに特別扱いされたりしてるのが、どんな意味があるか考えたことないの?」
「何、言ってるの、類……」
耳を疑うような発言に、美羽は開いた口が塞がらなかった。
「浩平くんはずっと一緒に働いてきた大切な仲間で、隼斗兄さんは義理とはいえ兄妹なんだよ? 類が疑うような恋愛感情なんて、あるはずないじゃない」
類が自嘲的な笑みを浮かべた。
「何言ってんの、僕たちだって姉と弟で惹かれあってる。血の繋がらない隼斗兄さんがミューを好きになってもおかしくないでしょ」
「やめてよ!! そんなの、考えたくもないよ!!」
美羽は両手を耳で塞ぎ、頭を振った。
義理とはいえ、兄として慕っている隼斗が自分に恋心だなんて感じたこともないし、考えたことすらない。言われただけで寒気がした。
「類の方がおかしいよ、そんなこと考えるなんて……私はずっとあそこで働いてるの。みんな家族みたいに大切な人たちなの。そんな風に言わないで」
「美羽が鈍感だから、気づいてないだけだよ」
美羽が今日1日ずっと抱えていた嫉妬や嫌悪や怒りや寂しさ、孤立感がごちゃ混ぜになって心の中でぐるぐると渦を巻き、爆発する。
「自分だって、萌たんと仲良くしてたくせに!!」
「ご予約いただいた内山様ですね。どうぞお乗り下さいませ」
類は美羽を促し、座席に座らせると自らも美羽の隣に座った。
「どうして、タクシーにしたの?」
「タクシーじゃなくてハイヤーだよ。もう遅いから電車の本数少なくなってるし、この時期この時間帯の電車は忘年会とか飲み会帰りの厄介な乗客が多そうでしょ。だから、こっちで帰る方がいいと思って」
ハイヤーに乗ったことなど今までなかったが、確かに一般的なタクシーとは違って高級車だし、乗る時の対応も異なるし、車内の内装も重厚感を感じる。
白髪の上品そうな男性運転手がハンドルを握り、穏やかな口調で話しかけた。
「では、出発致します」
自分がワンランク上の世界の住人のような扱いをされ、嬉しくなるというより恐縮してしまう。もしかしたら、帰りの運賃だけで今日1日分のバイト代が飛んでしまうのではないかなんて、染み付いた貧乏じみた考えが浮かんでしまう。
ウィーンと運転席と後部座席の間に分厚いプラスチック板のような仕切りが上がってきた。
「これで、僕たちの会話は聞かれることないから安心して」
類の艶っぽい声が耳に響き、美羽の背中がゾクリと震えた。
まさか、その為にハイヤーを手配したの?
「フフッ、警戒してるの? 大丈夫……約束は、ちゃんと守るから」
類が美羽の首筋に指をたててチェーンを引っ掛け、するすると引き寄せた。
「ミューも、ちゃんと僕との約束守ってくれてるしね」
フッと首元に息を吹きかけられ、「ンクッ」と出そうになった声を必死に押し留めた。長い帰路になりそうな予感がした。
類は長い脚を持て余すように大きく組むと、美羽の腰を引き寄せた。
「ねぇ、ミューはお店で働いてる時、いつもあんな風に客から声かけられてるの?」
「ぇ、どういう意味?」
首を傾げた美羽に、類は苛立ちを見せて歯をギリッと鳴らした。
「ほら、親子ぐらい年の差が離れてたサラリーマン二人とかさ、あと他にもミューに色目使ってた奴いたし、カフェタイムの時なんかカップルで来てたくせに、美羽のことボーッと見つめてた大学生もいたじゃん! それにディナーの時、なんか手紙みたいなの渡されてなかった?」
類の観察力に感心しつつ、美羽はクスッと笑った。
「大川さんと水井さんは常連客で私が結婚してるの知ってるし、私のこと見てたって言っても別に口説かれたり誘われたわけじゃないし、ディナーの時は……えっと、携帯の番号渡されたけど、ちゃんと結婚してますからってお断りしたよ?」
「ねぇ、そんなこと日常的にあるの?」
「日常的ってわけじゃ……ない、けど」
美羽は言葉を濁した。結婚してからはぐんと減ったものの、美羽が結婚していると知らずにデートに誘ってくる客もいるし、知っていても色目を使ってくるような客もいる。けれど、それを正直に話したところで、いい結果に繋がらないのは分かっている。
「心配しないで。私だって子供じゃないんだから、それぐらいの客あしらいは身につけてるし、ちゃんと断ってるから」
幼い子供を諭すような美羽の言い草に、類が激昂した。
「ミューは全然分かってないよ! だから前にストーカーに付き纏われたんでしょ? ミューは警戒心が足りないんだよ!!
浩平くんにパフェ作ってもらったり、隼斗兄さんに特別扱いされたりしてるのが、どんな意味があるか考えたことないの?」
「何、言ってるの、類……」
耳を疑うような発言に、美羽は開いた口が塞がらなかった。
「浩平くんはずっと一緒に働いてきた大切な仲間で、隼斗兄さんは義理とはいえ兄妹なんだよ? 類が疑うような恋愛感情なんて、あるはずないじゃない」
類が自嘲的な笑みを浮かべた。
「何言ってんの、僕たちだって姉と弟で惹かれあってる。血の繋がらない隼斗兄さんがミューを好きになってもおかしくないでしょ」
「やめてよ!! そんなの、考えたくもないよ!!」
美羽は両手を耳で塞ぎ、頭を振った。
義理とはいえ、兄として慕っている隼斗が自分に恋心だなんて感じたこともないし、考えたことすらない。言われただけで寒気がした。
「類の方がおかしいよ、そんなこと考えるなんて……私はずっとあそこで働いてるの。みんな家族みたいに大切な人たちなの。そんな風に言わないで」
「美羽が鈍感だから、気づいてないだけだよ」
美羽が今日1日ずっと抱えていた嫉妬や嫌悪や怒りや寂しさ、孤立感がごちゃ混ぜになって心の中でぐるぐると渦を巻き、爆発する。
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