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243.母からの通告 ー過去編ー
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*この章より、過去編に入ります。
久しぶりに家族が揃った席でのこと。4人で囲む食卓。和気藹々とは程遠い空気の中、華江が声高に告げた。
「私たち、福岡に移ることにしたの。もちろん、美羽も連れていくわよ……監視のために、ね。
そういうわけで、隼斗さんはこれから一人暮らしになるからよろしくね」
「そ、そんな……」
顔を蒼褪めさせた美羽に顔を向けてから、隼斗は華江に渋い表情を見せた。
「どうして、美羽まで連れていく必要があるんですか。美羽にはまだ、大学だってあるんですよ」
「そんなの行く必要なんてないって私は最初から言ってたし、この3年半、十分堪能したからもういいでしょ」
冷たく言い放つ華江に、美羽が涙ながらに訴える。
「大学は奨学金もらってるし、残りは学生ローン組んで私が払ってるじゃない! お母さんには迷惑かけないからって条件で、通わせてくれる約束したはずなのに……」
大学卒業まで、ようやくあと半年というこの時に。それが、母の策略であることを美羽はよく分かっていた。
類と離れ離れになる際に父と交わした約束。
『大学を卒業したら、親は干渉しない。もしふたりの気持ちが変わらなければ、類と一緒になってもいい』
その言葉だけを心の支えにして、美羽は生きてきた。
華江の再婚に伴って引っ越しし、父との連絡手段が断たれてしまった今、美羽の希望は大学卒業後に類が迎えにきてくれることだけだった。それがあったからこそ、今まで酷い母の仕打ちにも耐えてこられたというのに。
華江は美羽と類が再会して一緒になるのを阻止しようと、福岡への引越しを企てたのだ。そこへ連れて行かれれば、美羽は軟禁生活を強いられ、類と会える望みは断ち切られてしまう。
あの時、約束したはずなのに……お母さんに期待はしてなかったけど、ここまでするなんて、酷い。
怒りで肩を震わせて睨みつけた美羽に対し、華江はフンと鼻を鳴らし、威圧するような目つきで言い放った。
「あなたにそんなこと言う権利あるの?」
それを言われれば、美羽はもう何も言い返せない。ただ俯いて、唇を強く噛みしめるだけだ。
「横暴すぎるだろ!」
隼斗がバンッと机を叩き、声を上げた。
自分の為を思って庇おうとしてくれる隼斗の優しさが、心に沁みた。無口でぶっきらぼうで、何を考えているか分からないと、最初は距離を置いていたが、今では実の兄のように隼斗を感じていた。
福岡に行きたくないのは、バイトしているデタントで働き続けたいからという理由もあった。
そのカフェは隼斗が雇われ店長をしており、隼斗の恋人であり美羽が姉のように慕っている絵麻や同じ大学で親友の香織、明るくて人懐っこい浩平もいて、美羽はそこにいると一番心が安らぐのを感じた。今では常連客とも顔馴染みになり、毎日の会話をするのも楽しみのひとつになっている。
それさえも、華江は奪おうとしているのだ。
隼斗が顔を上げた。
「知ってると思うが、美羽は今俺が店長を務めるカフェで働いてくれている。大事な妹であると共に、貴重な働き手でもあるんだ。美羽がいなければ、店は成り立たない。
俺が美羽の後見人になるから、ここにいさせてくれ」
頭を下げた隼斗に、美羽の目頭が熱くなる。
隼斗、兄さん……私のために、そこまでしてくれるなんて。
ありがとう。
華江はそんな隼斗の言動に目を丸くし、それから軽蔑するような視線を美羽に投げつけた。
「あんた、どうやって隼斗さん丸め込んだの? やっぱりあなたにも悪魔の血が流れてるのねぇ、兄さんを誘惑するなんて」
美羽は怒りで肩を震わせた。
「そんなこと!! するはずないでしょ!!」
「フッ……どうだか」
「いい加減にしてください!!」
隼斗の太く低いドスの効いた声が家の壁にまで響き、華江がギョッと目を見開いた。
「言っていいことと悪いことがある」
「こ、この子はねぇ。言われても仕方のない子なのよっ!!」
怯えながらも、華江は悔しそうに反論した。
父と類がアメリカへ発ち、母と二人暮らしになってから美羽は華江から度々虐待を受けるようになった。それは言葉の暴力だけではなく、髪の毛を引っ張られたり、腕を抓られたり、風呂の中に顔を沈められたりといった身体的暴力にも及んだ。
華江が再婚してからも続いたが、隼斗がそれを見つけて止めに入り、以降は隼斗の前ではそういった行動はなくなった。隼斗が社会人となった今でも一人暮らしをせず、自分の職場で美羽を働かせるようにしたのもそういった経緯からだった。
久しぶりに家族が揃った席でのこと。4人で囲む食卓。和気藹々とは程遠い空気の中、華江が声高に告げた。
「私たち、福岡に移ることにしたの。もちろん、美羽も連れていくわよ……監視のために、ね。
そういうわけで、隼斗さんはこれから一人暮らしになるからよろしくね」
「そ、そんな……」
顔を蒼褪めさせた美羽に顔を向けてから、隼斗は華江に渋い表情を見せた。
「どうして、美羽まで連れていく必要があるんですか。美羽にはまだ、大学だってあるんですよ」
「そんなの行く必要なんてないって私は最初から言ってたし、この3年半、十分堪能したからもういいでしょ」
冷たく言い放つ華江に、美羽が涙ながらに訴える。
「大学は奨学金もらってるし、残りは学生ローン組んで私が払ってるじゃない! お母さんには迷惑かけないからって条件で、通わせてくれる約束したはずなのに……」
大学卒業まで、ようやくあと半年というこの時に。それが、母の策略であることを美羽はよく分かっていた。
類と離れ離れになる際に父と交わした約束。
『大学を卒業したら、親は干渉しない。もしふたりの気持ちが変わらなければ、類と一緒になってもいい』
その言葉だけを心の支えにして、美羽は生きてきた。
華江の再婚に伴って引っ越しし、父との連絡手段が断たれてしまった今、美羽の希望は大学卒業後に類が迎えにきてくれることだけだった。それがあったからこそ、今まで酷い母の仕打ちにも耐えてこられたというのに。
華江は美羽と類が再会して一緒になるのを阻止しようと、福岡への引越しを企てたのだ。そこへ連れて行かれれば、美羽は軟禁生活を強いられ、類と会える望みは断ち切られてしまう。
あの時、約束したはずなのに……お母さんに期待はしてなかったけど、ここまでするなんて、酷い。
怒りで肩を震わせて睨みつけた美羽に対し、華江はフンと鼻を鳴らし、威圧するような目つきで言い放った。
「あなたにそんなこと言う権利あるの?」
それを言われれば、美羽はもう何も言い返せない。ただ俯いて、唇を強く噛みしめるだけだ。
「横暴すぎるだろ!」
隼斗がバンッと机を叩き、声を上げた。
自分の為を思って庇おうとしてくれる隼斗の優しさが、心に沁みた。無口でぶっきらぼうで、何を考えているか分からないと、最初は距離を置いていたが、今では実の兄のように隼斗を感じていた。
福岡に行きたくないのは、バイトしているデタントで働き続けたいからという理由もあった。
そのカフェは隼斗が雇われ店長をしており、隼斗の恋人であり美羽が姉のように慕っている絵麻や同じ大学で親友の香織、明るくて人懐っこい浩平もいて、美羽はそこにいると一番心が安らぐのを感じた。今では常連客とも顔馴染みになり、毎日の会話をするのも楽しみのひとつになっている。
それさえも、華江は奪おうとしているのだ。
隼斗が顔を上げた。
「知ってると思うが、美羽は今俺が店長を務めるカフェで働いてくれている。大事な妹であると共に、貴重な働き手でもあるんだ。美羽がいなければ、店は成り立たない。
俺が美羽の後見人になるから、ここにいさせてくれ」
頭を下げた隼斗に、美羽の目頭が熱くなる。
隼斗、兄さん……私のために、そこまでしてくれるなんて。
ありがとう。
華江はそんな隼斗の言動に目を丸くし、それから軽蔑するような視線を美羽に投げつけた。
「あんた、どうやって隼斗さん丸め込んだの? やっぱりあなたにも悪魔の血が流れてるのねぇ、兄さんを誘惑するなんて」
美羽は怒りで肩を震わせた。
「そんなこと!! するはずないでしょ!!」
「フッ……どうだか」
「いい加減にしてください!!」
隼斗の太く低いドスの効いた声が家の壁にまで響き、華江がギョッと目を見開いた。
「言っていいことと悪いことがある」
「こ、この子はねぇ。言われても仕方のない子なのよっ!!」
怯えながらも、華江は悔しそうに反論した。
父と類がアメリカへ発ち、母と二人暮らしになってから美羽は華江から度々虐待を受けるようになった。それは言葉の暴力だけではなく、髪の毛を引っ張られたり、腕を抓られたり、風呂の中に顔を沈められたりといった身体的暴力にも及んだ。
華江が再婚してからも続いたが、隼斗がそれを見つけて止めに入り、以降は隼斗の前ではそういった行動はなくなった。隼斗が社会人となった今でも一人暮らしをせず、自分の職場で美羽を働かせるようにしたのもそういった経緯からだった。
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