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276.類の言えない過去
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類の声が、儚く漏れた。
『ごめん、ミュー……
あの頃の僕は、全てをシャットアウトするしか道はなかったんだ』
シャットアウト……って、何? 私を心配させたくなくて、類はわざと私に心を閉じたってことなの?
それほどに、お父さんは類に酷い苦しみを与えていたの?
お願い、答えて!!
どう、して……どうして、あんなに優しかったお父さんは、変わってしまったの!?
美羽には未だ、あの優しかった父親が母親のように虐待をしていたという事実が受け入れ難かった。だからこそ、アメリカで父親による虐待の告白を類から聞いても、詳しく尋ねることができなかった。その事実から、目を逸らさそうとしていた。
けれど、類を過去の苦しみから救いたいと願うのなら、避けて通ることは出来ないのだと痛感した。
わた、しは……類がどうしているか、知りたかった。たとえ、それが父親からの虐待という、受け止め難いことであっても。
類の悲しみを、辛さを……分かち合いたかったよ。
そして二人で、そこから解放されたかった。
今更言ったところで仕方ないと分かっていても、伝えずにいられない。
『ミュー、ごめんね……それだけは、言えない』
類の闇はどこまでも深く、それでいて強固に閉ざされている。そこに踏み入れようとする美羽を、頑なに拒んでいる。
お願い。どんな答えだっていい。受け入れるから!
だから、本当のことを話して!!
必死に懇願する美羽の叫びに、フッと類が力なく笑った。
『受け入れる、って……
ありのままの僕を、受け入れてくれないくせに』
ッッ!!
そ、れは……意味が、違うよ。
普通の姉弟として弟を受け入れようとする美羽と、恋人である弟として受け入れて欲しい類。
類は悲しげに、フッと吐息を漏らした。
『ねぇ、ミュー?
弟しての僕を、あの頃のように本気で愛してくれるなら……僕を、まるごと受け入れてくれるのなら……
その時、僕はすべてをミューに曝け出すよ。
ミューに、その覚悟はある?』
覚、悟……
それは、世間のモラルから外れ、類とふたりきりで生きていくということだ。もし、大学を卒業した時の自分なら、迷いはなかった。
だが、今の美羽には応えられない。
類。わた、しは……
言い淀んだ美羽の言葉を、類が遮る。
『いいんだ、分かってるよ。今のミューじゃ、僕を受け入れてもらえないってことは……』
ごめんなさい、類……
もっと、類に何か出来たはず、出来るはず……けれど、ただ謝ることしか出来ない。そんな自分が、美羽は腹立たしかった。
『分かってる。分かってるんだ……
僕こそ……ごめんね、ミュー』
深く傷ついた類の声と感情が小さくなり、美羽の元から離れていく。
類の感覚が、完全に美羽の中から消えた。
「ッグ」
喉奥が、熱く焼け付く。
類を、また傷つけてしまった……!
先ほどの類の言葉が、別れの挨拶のように思えてならない。もう弟としてでさえも一緒にいられないような、切ない彼の声が耳にこびり付いて離れない。
それでも、もう美羽には類を受け入れることは出来なかった。
苦しいけれど……どうせ一緒になれないのなら、その方がいいのかもしれない。
これで、良かったんだ……
追い縋りたい心を必死に押さえつけ、美羽は自身を説き伏せた。
『ごめん、ミュー……
あの頃の僕は、全てをシャットアウトするしか道はなかったんだ』
シャットアウト……って、何? 私を心配させたくなくて、類はわざと私に心を閉じたってことなの?
それほどに、お父さんは類に酷い苦しみを与えていたの?
お願い、答えて!!
どう、して……どうして、あんなに優しかったお父さんは、変わってしまったの!?
美羽には未だ、あの優しかった父親が母親のように虐待をしていたという事実が受け入れ難かった。だからこそ、アメリカで父親による虐待の告白を類から聞いても、詳しく尋ねることができなかった。その事実から、目を逸らさそうとしていた。
けれど、類を過去の苦しみから救いたいと願うのなら、避けて通ることは出来ないのだと痛感した。
わた、しは……類がどうしているか、知りたかった。たとえ、それが父親からの虐待という、受け止め難いことであっても。
類の悲しみを、辛さを……分かち合いたかったよ。
そして二人で、そこから解放されたかった。
今更言ったところで仕方ないと分かっていても、伝えずにいられない。
『ミュー、ごめんね……それだけは、言えない』
類の闇はどこまでも深く、それでいて強固に閉ざされている。そこに踏み入れようとする美羽を、頑なに拒んでいる。
お願い。どんな答えだっていい。受け入れるから!
だから、本当のことを話して!!
必死に懇願する美羽の叫びに、フッと類が力なく笑った。
『受け入れる、って……
ありのままの僕を、受け入れてくれないくせに』
ッッ!!
そ、れは……意味が、違うよ。
普通の姉弟として弟を受け入れようとする美羽と、恋人である弟として受け入れて欲しい類。
類は悲しげに、フッと吐息を漏らした。
『ねぇ、ミュー?
弟しての僕を、あの頃のように本気で愛してくれるなら……僕を、まるごと受け入れてくれるのなら……
その時、僕はすべてをミューに曝け出すよ。
ミューに、その覚悟はある?』
覚、悟……
それは、世間のモラルから外れ、類とふたりきりで生きていくということだ。もし、大学を卒業した時の自分なら、迷いはなかった。
だが、今の美羽には応えられない。
類。わた、しは……
言い淀んだ美羽の言葉を、類が遮る。
『いいんだ、分かってるよ。今のミューじゃ、僕を受け入れてもらえないってことは……』
ごめんなさい、類……
もっと、類に何か出来たはず、出来るはず……けれど、ただ謝ることしか出来ない。そんな自分が、美羽は腹立たしかった。
『分かってる。分かってるんだ……
僕こそ……ごめんね、ミュー』
深く傷ついた類の声と感情が小さくなり、美羽の元から離れていく。
類の感覚が、完全に美羽の中から消えた。
「ッグ」
喉奥が、熱く焼け付く。
類を、また傷つけてしまった……!
先ほどの類の言葉が、別れの挨拶のように思えてならない。もう弟としてでさえも一緒にいられないような、切ない彼の声が耳にこびり付いて離れない。
それでも、もう美羽には類を受け入れることは出来なかった。
苦しいけれど……どうせ一緒になれないのなら、その方がいいのかもしれない。
これで、良かったんだ……
追い縋りたい心を必死に押さえつけ、美羽は自身を説き伏せた。
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