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289.誘惑の香り
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リョウジの視線がテーブルに落とされる。
「あの……お酒、の」
「あぁ、お酒ね。お酒……」
良い匂いというのは自分のことではなく、お酒なのだと知って安堵と落胆を感じつつ、同時にしまったと思った。出家信者にはお酒を飲むことは基本的に禁じている。テーブルの上にはワインのボトルが置かれたままだった。
「こ、これは……」
「先生は特別な女性ですから、お酒も飲まれますよね」
『特別』という言葉に、大槻の胸が高鳴る。いつでも特別扱いされているはずなのに、なぜリョウジの言葉はこんなにも自分の胸を打つのだろう。
「ところで、高槻先生……どうして僕のことを呼び出してくださったんですか?」
「ぁ。今回、あなたがお布施金額が一番多かったから、ご褒美をあげようと思って。それに、システム関連にも力を入れてくれて助かっているし」
最も成績が良かった幹部を呼び出し、ご褒美を与えるのは毎回していることだ。その信者にとって自分が教祖の特別であると認識させ、やる気を引き出し、周りのモチベーションを上げることにも繋がる。
それなのに、こうしてリョウジとふたりきりで会っている状況にときめいている自分がいた。
「僕、は……」
リョウジが高槻の元へ歩み寄る。ゴクリと生唾を飲み込む高槻の前で、リョウジは片膝をついた。
「僕は、こうして先生にお呼び出しいただいて、ふたりきりでお話させていただけたことが、最大のご褒美です」
黒縁の眼鏡を外し、リョウジが高槻を見上げる。漆黒に濡れた瞳が電灯の光に反射してキラキラと揺らめている。普段は色味のない薄い唇がほんのりと色づき、頬もピンクく染まっている。
けれど、これはいつも大勢の信者たちから差し向けられる尊敬や憧憬の眼差しとは異なっている。そこはかとなく感じる色気、熱をもった視線が高槻を飲み込もうとしている。
この男は、私に欲情を抱いている……!!
優越感が興奮と共に高まってくる。好みでないと思っていた陰鬱で冴えない顔立ちも、華奢で頼りない白い肌も、アンニュイでセクシーで魅力的だと思えてしまう。
「リョウジ。乾杯、しましょうか」
高槻からの誘いに、リョウジは微笑んだ。
「はい、ぜひ」
「これ、開けて頂戴」
高槻に渡されたボトルをリョウジが器用に開け、グラスに半分ほど注ぐ。赤黒い官能的な色と空気に触れてすぐに香る濃厚な匂いが、淫美な雰囲気を纏っている。
「どうぞ」
リョウジは細く華奢な指でグラスを支え、高槻に献げるように手渡した。
「ありがと」
平静を装う高槻だが、子宮の奥がジンと疼き、リョウジを見つめる瞳がうっとりと濡れている。
「乾杯」
「えぇ、乾杯」
グラスを重ね、高槻がワインを口にする。熟成した香りと酸味が口の中に広がり、舌にまったりと絡まりつく。極上の愛撫を受けているのような感覚に、胸がざわめく。
「リョウジ、私には貴方がこれからも必要よ」
甘ったるい口調でリョウジを見上げると、彼は重い前髪を無造作に掻き上げ、睫毛を揺らした。
「僕は、尊敬する先生の為なら、どんなことでも奉仕しますよ?」
どんなことでも、奉仕って……
エロティックな妄想に取り憑かれ、高槻は頬を赤らめながらワイングラスをテーブルに置いた。欲情を隠そうともせず、リョウジに豊満な躰を擦り寄せようとする。
その刹那、リョウジは跪き、高槻の肉厚な手の甲に口づけを落とした。
「僕は……先生の、僕ですから」
高槻の背筋がゾクゾクと戦慄いた。
「その言葉、悪くないわね……フフッ」
舌なめずりをし、リョウジの華奢な手を掴む。
そこに、コンコンと扉を叩く音がした。リョウジはピクンとして立ち上がり、眼鏡を掛けた。
「ぼっ、僕ごときが大槻先生に大変な失礼を……申し訳ありませんでした!」
深々とお辞儀をし、慌てて扉へと向かう。開けたその先には、小宮が立っていた。
小宮はリョウジにだけ見えるよう威嚇の表情を向けてから、今度は申し訳なさそうに高槻に告げる。
「先生、そろそろ次の儀式の準備を……」
リョウジは小宮に軽くお辞儀をすると彼の背後に周り、そそくさと出て行った。
「あの……お酒、の」
「あぁ、お酒ね。お酒……」
良い匂いというのは自分のことではなく、お酒なのだと知って安堵と落胆を感じつつ、同時にしまったと思った。出家信者にはお酒を飲むことは基本的に禁じている。テーブルの上にはワインのボトルが置かれたままだった。
「こ、これは……」
「先生は特別な女性ですから、お酒も飲まれますよね」
『特別』という言葉に、大槻の胸が高鳴る。いつでも特別扱いされているはずなのに、なぜリョウジの言葉はこんなにも自分の胸を打つのだろう。
「ところで、高槻先生……どうして僕のことを呼び出してくださったんですか?」
「ぁ。今回、あなたがお布施金額が一番多かったから、ご褒美をあげようと思って。それに、システム関連にも力を入れてくれて助かっているし」
最も成績が良かった幹部を呼び出し、ご褒美を与えるのは毎回していることだ。その信者にとって自分が教祖の特別であると認識させ、やる気を引き出し、周りのモチベーションを上げることにも繋がる。
それなのに、こうしてリョウジとふたりきりで会っている状況にときめいている自分がいた。
「僕、は……」
リョウジが高槻の元へ歩み寄る。ゴクリと生唾を飲み込む高槻の前で、リョウジは片膝をついた。
「僕は、こうして先生にお呼び出しいただいて、ふたりきりでお話させていただけたことが、最大のご褒美です」
黒縁の眼鏡を外し、リョウジが高槻を見上げる。漆黒に濡れた瞳が電灯の光に反射してキラキラと揺らめている。普段は色味のない薄い唇がほんのりと色づき、頬もピンクく染まっている。
けれど、これはいつも大勢の信者たちから差し向けられる尊敬や憧憬の眼差しとは異なっている。そこはかとなく感じる色気、熱をもった視線が高槻を飲み込もうとしている。
この男は、私に欲情を抱いている……!!
優越感が興奮と共に高まってくる。好みでないと思っていた陰鬱で冴えない顔立ちも、華奢で頼りない白い肌も、アンニュイでセクシーで魅力的だと思えてしまう。
「リョウジ。乾杯、しましょうか」
高槻からの誘いに、リョウジは微笑んだ。
「はい、ぜひ」
「これ、開けて頂戴」
高槻に渡されたボトルをリョウジが器用に開け、グラスに半分ほど注ぐ。赤黒い官能的な色と空気に触れてすぐに香る濃厚な匂いが、淫美な雰囲気を纏っている。
「どうぞ」
リョウジは細く華奢な指でグラスを支え、高槻に献げるように手渡した。
「ありがと」
平静を装う高槻だが、子宮の奥がジンと疼き、リョウジを見つめる瞳がうっとりと濡れている。
「乾杯」
「えぇ、乾杯」
グラスを重ね、高槻がワインを口にする。熟成した香りと酸味が口の中に広がり、舌にまったりと絡まりつく。極上の愛撫を受けているのような感覚に、胸がざわめく。
「リョウジ、私には貴方がこれからも必要よ」
甘ったるい口調でリョウジを見上げると、彼は重い前髪を無造作に掻き上げ、睫毛を揺らした。
「僕は、尊敬する先生の為なら、どんなことでも奉仕しますよ?」
どんなことでも、奉仕って……
エロティックな妄想に取り憑かれ、高槻は頬を赤らめながらワイングラスをテーブルに置いた。欲情を隠そうともせず、リョウジに豊満な躰を擦り寄せようとする。
その刹那、リョウジは跪き、高槻の肉厚な手の甲に口づけを落とした。
「僕は……先生の、僕ですから」
高槻の背筋がゾクゾクと戦慄いた。
「その言葉、悪くないわね……フフッ」
舌なめずりをし、リョウジの華奢な手を掴む。
そこに、コンコンと扉を叩く音がした。リョウジはピクンとして立ち上がり、眼鏡を掛けた。
「ぼっ、僕ごときが大槻先生に大変な失礼を……申し訳ありませんでした!」
深々とお辞儀をし、慌てて扉へと向かう。開けたその先には、小宮が立っていた。
小宮はリョウジにだけ見えるよう威嚇の表情を向けてから、今度は申し訳なさそうに高槻に告げる。
「先生、そろそろ次の儀式の準備を……」
リョウジは小宮に軽くお辞儀をすると彼の背後に周り、そそくさと出て行った。
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