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293.大祈祷祭
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部屋に分かれて入る直前、美羽の耳元に囁いた隼斗の言葉が脳裏に蘇る。
『気を確かに持て。惑わされるな』
大祈祷祭後は毎回疲弊し、家に帰ってくると熱を出して倒れてしまう美羽を心配しての言葉だった。それでも、隼斗が一緒に来るようになってからは、その症状も軽くなっていた。
大広間で聞いた『幸福阿吽教』の唱和をBGMに、スクリーンいっぱいに高槻の姿が映し出される。
毎年、流される映像はだいたい同じだった。
高槻が生まれてからこれまでに起こしてきた奇跡の数々の歴史を辿り、信者たちの体験談、そして高槻からのありがたいお言葉の後に彼女が作詞作曲したオリジナルの歌を彼女自身が歌い、『幸福阿吽教』の唱和が夜明けまで延々と流される。
スクリーンに高槻とは似ても似つかないほど可愛らしい女の子が映り、行方不明になった猫の居場所を当ててみせていた。
『三角公園のジャングルジムの下にいるわ。私には、はっきり見えるの』
暫くして部屋の扉がノックされた。中から監視役の信者が扉を開け、『幸福阿吽』とラベルのついた大きな樽酒を受け取る。お神酒だ。
ここにいるスタッフは全員女性のため、数人で苦労して部屋へと運び込む。彼女たちは出家信者の中でも新参にあたり、ここでの頑張りが認められれば上へと上がるチャンスをもらえる。
幹部になるまでには、10段階レベルを上げなくてはならない。華江や拓斗も出家してすぐの頃は、監視役や整備役などの雑用をやらされていた。
そう考えると、入って幾許もない『オカダリョウジ』という男が幹部に抜擢されたのは、異例中の異例といえるだろう。
大祈祷祭が行われている間、部屋から出ることは許されない。監視役の信者たちが常に目を見張らせて全員を監視し、子供以外寝ているところを見つけたら起こされる。
樽酒がドンとテーブルに置かれると、スタッフたちが集まった。樽酒が勢いよく開けられ、柄杓で大きな枡にお神酒が注がれた。
「このお神酒は、正月の大祈祷祭にのみ配られる特別なお酒で、高槻先生の力が込められた聖なるものです。感謝して頂いてください」
スタッフが説明した後、端から順に枡が回されていく。
美羽の元に、お神酒が回ってきた。お酒は強くないが、飲めないわけではない。それに、ここで配られるお神酒は水で薄められているのか、それほど強くないので飲みやすい。
だが、枡を両手に持ち、口につけて傾けると、美羽は思わず眉を顰めそうになった。
これ、いつもの味じゃない……
少しえぐみがあり、漢方茶のような味が混ざっている。
昔の美羽なら気づかずに飲んでいただろうが、隼斗と一緒に暮らし、カフェで働くようになってから、繊細な味の違いが分かるようになっていた。
もし隼斗も同じものを飲んでいるのなら、間違いなく気づくだけでなく、これに何が入っているのかも分かるだろう。だが、美羽にはそこまでは分からない。
いったい、何が入っているの。
不安な気持ちで、回されていく枡の行方を見つめた。
美羽はスクリーンに集中している振りをしながらも、慎重に視線をチラチラと泳がせた。
もし、お神酒に何か含まれているのなら、飲んだ人たちに何らかの変化があるはず。
暫くして周りを見回すと、数人の女性が舟を漕いでゆらゆらしていた。
確かに映画を見ていると眠くなることはあるが、監視されているという環境下にあり、時間もまだそれほど経っていない中、こんなに早くから既に眠くなる人が現れるのは、例年にないことだ。
素早くスタッフが彼女らの肩を揺さぶり、起こしにかかる。
……睡眠薬、なの!?
先ほど、すぐに何かが入っていることに気づけて良かったと思ったが、安心してはいられない。お神酒は、『大祈祷祭』が行われている間中、ずっと回ってくるからだ。
二度目のお神酒が回ってきた。美羽は枡を両手で持って、喉元を隠した。
どうか、飲んでいないことがバレませんように……
枡を傾け、唾を飲み込む。
『気を確かに持て。惑わされるな』
大祈祷祭後は毎回疲弊し、家に帰ってくると熱を出して倒れてしまう美羽を心配しての言葉だった。それでも、隼斗が一緒に来るようになってからは、その症状も軽くなっていた。
大広間で聞いた『幸福阿吽教』の唱和をBGMに、スクリーンいっぱいに高槻の姿が映し出される。
毎年、流される映像はだいたい同じだった。
高槻が生まれてからこれまでに起こしてきた奇跡の数々の歴史を辿り、信者たちの体験談、そして高槻からのありがたいお言葉の後に彼女が作詞作曲したオリジナルの歌を彼女自身が歌い、『幸福阿吽教』の唱和が夜明けまで延々と流される。
スクリーンに高槻とは似ても似つかないほど可愛らしい女の子が映り、行方不明になった猫の居場所を当ててみせていた。
『三角公園のジャングルジムの下にいるわ。私には、はっきり見えるの』
暫くして部屋の扉がノックされた。中から監視役の信者が扉を開け、『幸福阿吽』とラベルのついた大きな樽酒を受け取る。お神酒だ。
ここにいるスタッフは全員女性のため、数人で苦労して部屋へと運び込む。彼女たちは出家信者の中でも新参にあたり、ここでの頑張りが認められれば上へと上がるチャンスをもらえる。
幹部になるまでには、10段階レベルを上げなくてはならない。華江や拓斗も出家してすぐの頃は、監視役や整備役などの雑用をやらされていた。
そう考えると、入って幾許もない『オカダリョウジ』という男が幹部に抜擢されたのは、異例中の異例といえるだろう。
大祈祷祭が行われている間、部屋から出ることは許されない。監視役の信者たちが常に目を見張らせて全員を監視し、子供以外寝ているところを見つけたら起こされる。
樽酒がドンとテーブルに置かれると、スタッフたちが集まった。樽酒が勢いよく開けられ、柄杓で大きな枡にお神酒が注がれた。
「このお神酒は、正月の大祈祷祭にのみ配られる特別なお酒で、高槻先生の力が込められた聖なるものです。感謝して頂いてください」
スタッフが説明した後、端から順に枡が回されていく。
美羽の元に、お神酒が回ってきた。お酒は強くないが、飲めないわけではない。それに、ここで配られるお神酒は水で薄められているのか、それほど強くないので飲みやすい。
だが、枡を両手に持ち、口につけて傾けると、美羽は思わず眉を顰めそうになった。
これ、いつもの味じゃない……
少しえぐみがあり、漢方茶のような味が混ざっている。
昔の美羽なら気づかずに飲んでいただろうが、隼斗と一緒に暮らし、カフェで働くようになってから、繊細な味の違いが分かるようになっていた。
もし隼斗も同じものを飲んでいるのなら、間違いなく気づくだけでなく、これに何が入っているのかも分かるだろう。だが、美羽にはそこまでは分からない。
いったい、何が入っているの。
不安な気持ちで、回されていく枡の行方を見つめた。
美羽はスクリーンに集中している振りをしながらも、慎重に視線をチラチラと泳がせた。
もし、お神酒に何か含まれているのなら、飲んだ人たちに何らかの変化があるはず。
暫くして周りを見回すと、数人の女性が舟を漕いでゆらゆらしていた。
確かに映画を見ていると眠くなることはあるが、監視されているという環境下にあり、時間もまだそれほど経っていない中、こんなに早くから既に眠くなる人が現れるのは、例年にないことだ。
素早くスタッフが彼女らの肩を揺さぶり、起こしにかかる。
……睡眠薬、なの!?
先ほど、すぐに何かが入っていることに気づけて良かったと思ったが、安心してはいられない。お神酒は、『大祈祷祭』が行われている間中、ずっと回ってくるからだ。
二度目のお神酒が回ってきた。美羽は枡を両手で持って、喉元を隠した。
どうか、飲んでいないことがバレませんように……
枡を傾け、唾を飲み込む。
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