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316.義母に近づく弟の罠
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扉をそっと開けると、皆の視線が向けられた。
あぁ……ついに、お義母さんが類に会っちゃったんだ。
じっとりと背中が汗で濡れる。
「ミュー!! おかえりぃ」
類がにっこりと美羽に微笑みかけた。もう、彼からは怒りは感じられない。安堵しつつ、「ただいま……」と返した。
「美羽、ひとりで行かせて済まなかったな。ご両親は、お元気だったか?」
「う、ん……変わり、ないよ」
義昭も、機嫌がいいようだ。自分ひとりだけ蚊帳の外にいるような気がして立ち尽くしていると、琴子が美羽に歩み寄り、ダイニングテーブルへと導いた。
「美羽さん、せっかくご両親に会えたんだから、もっとゆっくりしてきても良かったのよ?
ほらほら、座って。今、お茶入れるわねぇ」
「そんな、お義母さん! 私が……」
「大丈夫だから、ゆっくりしていて」
諭されるように言われ、美羽は大人しく座った。自分の家なのにお客様扱いされて、居心地悪く感じる。
「ヨシママ、僕も手伝うよ」
「あらぁん、悪いわねぇ、類くん♪」
ぇ。ヨシママって……お義母さんのこと!?
出会ったばかりのはずなのに、もうそんな呼び方をしているの!?
琴子は目尻をぐっと下げ、類に微笑んでいた。
類と琴子の様子が気になりつつ、義昭とふたり取り残された美羽は、口を開いた。
「類、いつ帰ってきたの?」
予定では、明日の夜に帰ってくるはずだったのに……
「今朝早く、帰ってきたんだ。僕も驚いたよ」
その言葉を聞き、美羽は息を呑んだ。
まさか、私たちの関係がバレて居づらくなって帰ってきた、なんてことはないよね? 類のことだから、なんとか上手く誤魔化してるはずだよね?
でも……あの時の類の怒りようは、異常だった。
そこで、スマホの電源を教団に預けた時からずっと落としたままで、返してもらってからもつけていなかったことに気づいた。
「ちょ、ちょっと……お手洗いに」
美羽はテーブルの下に置かれたボストンバッグから素早くスマホを抜き取るとポケットに入れ、そそくさとお手洗いに向かった。
電源を入れると、立ち上がる音が大きく響き、慌てて美羽は水を流して誤魔化した。
LINEには、30件以上のメッセージが入っていた。一番遠い過去の未読から遡り、丁寧にメッセージを追っていく。
やはり、美羽との電話の後、類はかなり荒れていたようで、誰とも口を聞かなかったらしい。スキーやスノーボードに誘っても部屋に閉じこもったきりで、食事すら摂らなかったのだとか。
それほどまでに自分と隼斗が一緒にいたことにショックを受け、嫉妬していたのかと思うと嬉しい気持ちが湧き上がったが、それ以上に不安な気持ちも掻き立てられた。
『類くんって美羽さんのこと、大好きなんすね』
『ちょっとー、類くん。いくら弟とはいえ、心配し過ぎじゃない?』
『むー、類たん帰っちゃったん。萌たん、つまんないたーん!! 美羽たん、なんとかしてぇっっ!!』
そんなメッセージを読む度に、胃がキュゥッと縮まっていき、キリキリと絞られる。
そうだよね……こんなの、普通の姉弟の反応じゃない。
みんな、私たちの関係に気付き始めてるかもしれない。疑われてるかもしれない。
どう、しよう。どんな顔をして、仕事に行けばいいの?
悶々としながらお手洗いを出て席に戻ると、琴子がお茶と茶菓子を運んできた。
「すみません、お義母さん……」
恐縮しながらお辞儀すると、視界に芋羊羹が映った。美羽の視線に気づいた琴子が頰を緩める。
「これねぇ、類くんが買ってきてくれたのよ。私が芋羊羹が好きだってこと、美羽さんが類くんに話してくれたんですってねぇ? フフッ」
「ぇ……」
そんな、こと……話したことないどころか、お義母さんの話すらしたことないのに。
それ、だけじゃない。どうして類は、義昭さんの家にお義母さんがいることを知っていたの!?
「えぇ、まぁ……」
美羽は、引き攣った笑いを浮かべながら、恐怖に慄いた。
いったい類は、どこまで私と周囲のことを知っているの? 全ての行動を何年も……もしかしたら、義昭さんと出会う前から把握していたの?
類の考えていることが、全然分からない……
考えれば考えるほどに、出口のない迷路に閉じ込められているような気持ちになる。
あぁ……ついに、お義母さんが類に会っちゃったんだ。
じっとりと背中が汗で濡れる。
「ミュー!! おかえりぃ」
類がにっこりと美羽に微笑みかけた。もう、彼からは怒りは感じられない。安堵しつつ、「ただいま……」と返した。
「美羽、ひとりで行かせて済まなかったな。ご両親は、お元気だったか?」
「う、ん……変わり、ないよ」
義昭も、機嫌がいいようだ。自分ひとりだけ蚊帳の外にいるような気がして立ち尽くしていると、琴子が美羽に歩み寄り、ダイニングテーブルへと導いた。
「美羽さん、せっかくご両親に会えたんだから、もっとゆっくりしてきても良かったのよ?
ほらほら、座って。今、お茶入れるわねぇ」
「そんな、お義母さん! 私が……」
「大丈夫だから、ゆっくりしていて」
諭されるように言われ、美羽は大人しく座った。自分の家なのにお客様扱いされて、居心地悪く感じる。
「ヨシママ、僕も手伝うよ」
「あらぁん、悪いわねぇ、類くん♪」
ぇ。ヨシママって……お義母さんのこと!?
出会ったばかりのはずなのに、もうそんな呼び方をしているの!?
琴子は目尻をぐっと下げ、類に微笑んでいた。
類と琴子の様子が気になりつつ、義昭とふたり取り残された美羽は、口を開いた。
「類、いつ帰ってきたの?」
予定では、明日の夜に帰ってくるはずだったのに……
「今朝早く、帰ってきたんだ。僕も驚いたよ」
その言葉を聞き、美羽は息を呑んだ。
まさか、私たちの関係がバレて居づらくなって帰ってきた、なんてことはないよね? 類のことだから、なんとか上手く誤魔化してるはずだよね?
でも……あの時の類の怒りようは、異常だった。
そこで、スマホの電源を教団に預けた時からずっと落としたままで、返してもらってからもつけていなかったことに気づいた。
「ちょ、ちょっと……お手洗いに」
美羽はテーブルの下に置かれたボストンバッグから素早くスマホを抜き取るとポケットに入れ、そそくさとお手洗いに向かった。
電源を入れると、立ち上がる音が大きく響き、慌てて美羽は水を流して誤魔化した。
LINEには、30件以上のメッセージが入っていた。一番遠い過去の未読から遡り、丁寧にメッセージを追っていく。
やはり、美羽との電話の後、類はかなり荒れていたようで、誰とも口を聞かなかったらしい。スキーやスノーボードに誘っても部屋に閉じこもったきりで、食事すら摂らなかったのだとか。
それほどまでに自分と隼斗が一緒にいたことにショックを受け、嫉妬していたのかと思うと嬉しい気持ちが湧き上がったが、それ以上に不安な気持ちも掻き立てられた。
『類くんって美羽さんのこと、大好きなんすね』
『ちょっとー、類くん。いくら弟とはいえ、心配し過ぎじゃない?』
『むー、類たん帰っちゃったん。萌たん、つまんないたーん!! 美羽たん、なんとかしてぇっっ!!』
そんなメッセージを読む度に、胃がキュゥッと縮まっていき、キリキリと絞られる。
そうだよね……こんなの、普通の姉弟の反応じゃない。
みんな、私たちの関係に気付き始めてるかもしれない。疑われてるかもしれない。
どう、しよう。どんな顔をして、仕事に行けばいいの?
悶々としながらお手洗いを出て席に戻ると、琴子がお茶と茶菓子を運んできた。
「すみません、お義母さん……」
恐縮しながらお辞儀すると、視界に芋羊羹が映った。美羽の視線に気づいた琴子が頰を緩める。
「これねぇ、類くんが買ってきてくれたのよ。私が芋羊羹が好きだってこと、美羽さんが類くんに話してくれたんですってねぇ? フフッ」
「ぇ……」
そんな、こと……話したことないどころか、お義母さんの話すらしたことないのに。
それ、だけじゃない。どうして類は、義昭さんの家にお義母さんがいることを知っていたの!?
「えぇ、まぁ……」
美羽は、引き攣った笑いを浮かべながら、恐怖に慄いた。
いったい類は、どこまで私と周囲のことを知っているの? 全ての行動を何年も……もしかしたら、義昭さんと出会う前から把握していたの?
類の考えていることが、全然分からない……
考えれば考えるほどに、出口のない迷路に閉じ込められているような気持ちになる。
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