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321.かおりの異変
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今日から再び、カフェでの仕事が始まる。類は、仕込みの手伝いがあるからと美羽より早くに家を出て行った。
美羽が教団施設から帰って以来、類の様子がおかしい。
いつものように優しいし、家事も手伝ってくれるし、気遣いも見せてくれる。けれど、美羽を熱の籠った目で見つめなくなった。彼の情欲を、感じなくなった。
そう。おかしいのは自分で、これが普通なのだ。分かっている。分かっているけれど……
美羽は、寂しくて堪らなかった。類の匂いを嗅ぐだけで、甘い声を聞くだけで、子宮が疼く。彼を求めたくなる。
こんな淫らな思いを抱えているのは自分だけなのかと、悲しくなる。類を恨めしく思ってしまう。
美羽は鏡に映る自分を見つめ、両頬をパチンと叩いた。
こんなこと、考えてちゃダメ。
今日から仕事なんだから、ちゃんとしないと。
「おはようございます!」
バックヤードから厨房の扉を開けると、食欲をそそる匂いが鼻腔に入ってきた。隼斗は寸胴鍋でデミグラスソースを煮詰め、浩平は鶏肉を捌き、類はじゃがいもの皮を剥いているところだった。
「あぁ、おはよう。早くから済まないな」
いつもより1時間早く出勤した美羽に、隼斗が声を掛ける。
「そんな! 厨房の隼斗兄さんたちに比べたら、申し訳ないぐらい遅いよ」
「美羽さーん! はよーっす!!」
浩平が顔を上げ、笑顔で包丁を振り回した。昨日の夜コテージから帰ってきたばかりだというのに、元気いっぱいだ。
「コラッ。包丁を振り回すんじゃない」
早速隼斗に怒られ、浩平が首を竦めて謝っている。美羽は相変わらずなふたりに思わず笑いが溢れた。浩平にどんな顔で会ったらいいだろうなんて心配は、まったくいらなかった。
笑みを見せた美羽に、隼斗が優しい表情を向ける。
「義昭くんは、大丈夫だったか?」
「うん。同じ時間に出勤したから」
今日、美羽が家を出たタイミングで義昭も出たため、駅まで一緒に歩くことになり、途中まで同じ電車で来たのだった。そこでも、類がいないことを寂しく思う自分がいた。
類とは挨拶を交わしたものの、すぐに作業に戻ってしまった。美羽は気持ちを振り切るように、控室へと向かった。
ジャケットを羽織り、カフェ周辺の掃除を始める。香織も同じ時間に出勤のはずだが、まだ来ていない。
いつも時間には正確なはずのかおりんが来ないなんて……珍しいな。
少し心配になりつつも、開店作業が二倍に増えたことで、美羽は追われるように忙しく動き回った。
開店時間があと30分に迫った頃、萌が出勤してきた。真っ赤な着物ドレスを纏い、髪を高く上げて盛っている。まるで、これから新年パーティーにでも行くような装いだ。
「美羽たーん、あっけおめたーん! ことよろなのー♪」
元気な萌に、美羽の顔が綻んだ。どうやら失恋の痛手からは完全に吹っ切れたようだ。コテージで類に先に帰られたことも、気にしていないように見える。
自分で考えるほど、他人は私たちのことなんて気にしてないのかもしれない。取り越し苦労だったのかな。
そういえば……みんなとは、新年明けて初めて会うんだった。
「萌たん、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」
言いながら、類とはまだ新年の挨拶を交わしていなかったことに気づいた。そんなことを忘れるほど、類との関係に思い悩んでいた自分にも。
萌は、きょろきょろと店内を見回した。
「はれれー? かおたんはー?」
「それが……まだ、来てないの」
香織に電話したし、LINEもしたのに、連絡がこないのは珍しい。というか、初めてかもしれない。
どうしたんだろう……
心配しているところに、遠くから香織が走ってくるのが見えた。香織が来たのを認めて安心した萌は、着替えるために中に入っていった。
美羽のいるところまで駆けてきた香織は、肩で荒く息を吐いている。
「ハァッ、ハァッ……ご、ごめっ……美羽!! ひと、りで……ッッ。やらせ、ちゃって……ハァッ」
「だ、大丈夫だから。落ち着きなよ」
美羽は香織を椅子に座らせ、水の入ったグラスを持ってきて渡した。必要な開店作業は既に終わらせたし、萌も着替えてすぐに来るはずなので、香織を落ち着かせ、事情を聞くことにしたのだ。
「良かった、かおりんが来て。何かあったんじゃないかって、心配してたところだったの。電話も、LINEも繋がらないんだもん」
香織は受け取ったグラスの水を一気に飲み干し、申し訳なさそうに肩を竦めた。
「ごめん……」
「何か、あった……?」
「うん……」
美羽が教団施設から帰って以来、類の様子がおかしい。
いつものように優しいし、家事も手伝ってくれるし、気遣いも見せてくれる。けれど、美羽を熱の籠った目で見つめなくなった。彼の情欲を、感じなくなった。
そう。おかしいのは自分で、これが普通なのだ。分かっている。分かっているけれど……
美羽は、寂しくて堪らなかった。類の匂いを嗅ぐだけで、甘い声を聞くだけで、子宮が疼く。彼を求めたくなる。
こんな淫らな思いを抱えているのは自分だけなのかと、悲しくなる。類を恨めしく思ってしまう。
美羽は鏡に映る自分を見つめ、両頬をパチンと叩いた。
こんなこと、考えてちゃダメ。
今日から仕事なんだから、ちゃんとしないと。
「おはようございます!」
バックヤードから厨房の扉を開けると、食欲をそそる匂いが鼻腔に入ってきた。隼斗は寸胴鍋でデミグラスソースを煮詰め、浩平は鶏肉を捌き、類はじゃがいもの皮を剥いているところだった。
「あぁ、おはよう。早くから済まないな」
いつもより1時間早く出勤した美羽に、隼斗が声を掛ける。
「そんな! 厨房の隼斗兄さんたちに比べたら、申し訳ないぐらい遅いよ」
「美羽さーん! はよーっす!!」
浩平が顔を上げ、笑顔で包丁を振り回した。昨日の夜コテージから帰ってきたばかりだというのに、元気いっぱいだ。
「コラッ。包丁を振り回すんじゃない」
早速隼斗に怒られ、浩平が首を竦めて謝っている。美羽は相変わらずなふたりに思わず笑いが溢れた。浩平にどんな顔で会ったらいいだろうなんて心配は、まったくいらなかった。
笑みを見せた美羽に、隼斗が優しい表情を向ける。
「義昭くんは、大丈夫だったか?」
「うん。同じ時間に出勤したから」
今日、美羽が家を出たタイミングで義昭も出たため、駅まで一緒に歩くことになり、途中まで同じ電車で来たのだった。そこでも、類がいないことを寂しく思う自分がいた。
類とは挨拶を交わしたものの、すぐに作業に戻ってしまった。美羽は気持ちを振り切るように、控室へと向かった。
ジャケットを羽織り、カフェ周辺の掃除を始める。香織も同じ時間に出勤のはずだが、まだ来ていない。
いつも時間には正確なはずのかおりんが来ないなんて……珍しいな。
少し心配になりつつも、開店作業が二倍に増えたことで、美羽は追われるように忙しく動き回った。
開店時間があと30分に迫った頃、萌が出勤してきた。真っ赤な着物ドレスを纏い、髪を高く上げて盛っている。まるで、これから新年パーティーにでも行くような装いだ。
「美羽たーん、あっけおめたーん! ことよろなのー♪」
元気な萌に、美羽の顔が綻んだ。どうやら失恋の痛手からは完全に吹っ切れたようだ。コテージで類に先に帰られたことも、気にしていないように見える。
自分で考えるほど、他人は私たちのことなんて気にしてないのかもしれない。取り越し苦労だったのかな。
そういえば……みんなとは、新年明けて初めて会うんだった。
「萌たん、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」
言いながら、類とはまだ新年の挨拶を交わしていなかったことに気づいた。そんなことを忘れるほど、類との関係に思い悩んでいた自分にも。
萌は、きょろきょろと店内を見回した。
「はれれー? かおたんはー?」
「それが……まだ、来てないの」
香織に電話したし、LINEもしたのに、連絡がこないのは珍しい。というか、初めてかもしれない。
どうしたんだろう……
心配しているところに、遠くから香織が走ってくるのが見えた。香織が来たのを認めて安心した萌は、着替えるために中に入っていった。
美羽のいるところまで駆けてきた香織は、肩で荒く息を吐いている。
「ハァッ、ハァッ……ご、ごめっ……美羽!! ひと、りで……ッッ。やらせ、ちゃって……ハァッ」
「だ、大丈夫だから。落ち着きなよ」
美羽は香織を椅子に座らせ、水の入ったグラスを持ってきて渡した。必要な開店作業は既に終わらせたし、萌も着替えてすぐに来るはずなので、香織を落ち着かせ、事情を聞くことにしたのだ。
「良かった、かおりんが来て。何かあったんじゃないかって、心配してたところだったの。電話も、LINEも繋がらないんだもん」
香織は受け取ったグラスの水を一気に飲み干し、申し訳なさそうに肩を竦めた。
「ごめん……」
「何か、あった……?」
「うん……」
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