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353.居づらい空間
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香織が腕時計に視線を落とす。
「ちょっと早いけど、食べちゃう? 私も、見てたらお腹空いてきちゃった」
「あっ、その前に萌たん、ゆうたんと写真撮りたいたーん!」
萌の声に、芳子が反応する。
「いいわね、それ! 私も写真撮っとこ。カメラ持ってくるわ!」
「それじゃあ、せっかくだから私も萌の後に裕樹くん抱っこして、写真撮ってもらおうかな」
芳子が立ち上がると同時に、美羽も立ち上がった。
「じゃあ私、その間にランチの用意するね。キッチン借りてもいいかな?」
「えっ、そんなのお客さんにやらせたら悪いからいいわよぉ。私、やるから!」
「でもよっしー、いつも赤ちゃんや娘さんのお世話で大変でしょ。今日ぐらい、私が手伝うからゆっくりして」
芳子は一瞬間を置いてから、ニコッと笑顔を見せた。
「じゃあ……甘えちゃおうかしら。台所のもの、適当に使ってくれていいから。ありがとね」
「うん」
「あ、美羽もあとで写真撮らせてね!」
芳子の言葉に曖昧な笑みを浮かべ、美羽は頷いた。キッチンへと向かいながら、心の中で安堵の息を吐く。
決して赤ちゃんが嫌いなわけではないのだが、萌のようなテンションで無邪気な反応はできないし、どう対応していいか分からない。また、唯一の既婚者であることで以前のように芳子に子供のことをあれこれ聞かれそうで居辛かった。
リビングからダイニング、キッチンは一続きになっている。
裕樹を囲んで盛り上がっている姿はすぐ近くにあるし、はしゃぐ声が耳を揺らしているのに、美羽からはとても遠く感じた。
キッチンの作業場にはまな板と包丁が置かれたままになっており、シンクには朝ご飯を食べ終えた後のコーヒーのマグカップやパン屑のついた平皿、ヨーグルトカップ、スプーンやフォーク、フライパンや鍋が突っ込まれていた。
容器をレンジに入れてそのまま出すことも出来るが、せっかくだから芳子に少しでもカフェの気分を味わって欲しかった。
美羽は容器を開けると、冷たいものと温かいものに分けた。鍋を洗ってコンソメスープを温め、サラダを少しでも冷やすために冷蔵庫に入れる。冷蔵庫はこれでもかというぐらい隙間なく食材がパンパンに詰められており、サラダの容器を入れる場所の確保に苦労した。
パエリアは魚介類を除いてレンジで温め、その間にシンクに溜まった洗い物を手早く済ませていく。
「ゆうたん、こっち見てぇぇ!! うきゃぁ、その笑顔ずるかわたーん❤️❤️」
「裕樹ー、ほら今度はママよぉ」
先ほどからリビングでは、裕樹の撮影会で盛り上がっていた。香織が裕樹を抱き、にこやかな笑顔をカメラに向けている。実家に兄夫婦が住んでいて甥っ子や姪っ子がいるので、子供の扱いには慣れているのだろう。
あの場で戸惑いを浮かべる自分を想像して、美羽はホッと息を吐いた。
調理が終える頃を見計らって、サラダを冷蔵庫から取り出した。食器棚から皿を選び、綺麗に盛り付けていく。料理自体が美味しそうなので、盛り付けるだけでプロフェッショナルな仕上がりに見える。
コンソメスープを運ぶと香織が立ち上がって手伝ってくれ、小皿に盛ったサラダ、そしてパエリアとスペイン風オムレツ、オリーブと生ハムのピンチョスが載ったメインディッシュが揃うと、芳子が感激の声を上げた。
「うわぁ、ほんとにデタントにいるみたーい!!」
美味しいランチを食べながら、話題は自然と芳子の出産話になっていた。
「そりゃもう、大変だったわよー。だってさぁ、切迫早産のおそれがあるからって入院させられて、やっと退院しても自宅療養でしょ? でも、恵美がいるからずっと寝込んだままでなんていられないし、幼稚園のお迎えだってあるし、旦那は使えないじゃない?
それで結局さぁ、恵美の育児やら家事やら色々ストレスが溜まっちゃったのか、またお腹が痛くなって出血しちゃって入院だったからね。ほんっと、あのまま病院にいればよかったわよー。
で、それからはうちの母に来てもらって恵美の面倒みてもらって、私は食っちゃ寝生活だからさぁ、もう太る太る……ハハハ。入院中に15キロ太って、お医者さんに怒られちゃったわよぉ」
プレイマットに寝かせられていた裕樹の様子を見て、すぐ隣に座っていた萌が口を挟んだ。
「ゆうたん、なんかむずがってるたーん」
「あっ、そろそろおっぱいの時間かも! 裕樹ぃ、ごめんねぇ。裕樹もお腹空いてたねぇ」
芳子は躊躇いなくべろんと服を引っ張り上げ、萌から祐樹を片手で受け取ると乳首にあてがった。
赤ん坊が母親からの母乳を飲んで育つということは頭で理解できるのだが、そういった光景を見慣れていない美羽にとっては、こういったことを目の前でされることになんとなく居心地悪さを感じてしまう。
せめて見えないようにしてくれればいいのだが、芳子の着ている伸縮性のあるカットソーは上に伸びきったままおりないので、母乳をあげているのが丸見えだった。
芳子は裕樹を左腕で支えて母乳を与えながら、右手で休むことなく食事を続けている。美羽にとっては器用に感じるが、芳子にとってはこれが日常茶飯事なのだろう。
「ちょっと早いけど、食べちゃう? 私も、見てたらお腹空いてきちゃった」
「あっ、その前に萌たん、ゆうたんと写真撮りたいたーん!」
萌の声に、芳子が反応する。
「いいわね、それ! 私も写真撮っとこ。カメラ持ってくるわ!」
「それじゃあ、せっかくだから私も萌の後に裕樹くん抱っこして、写真撮ってもらおうかな」
芳子が立ち上がると同時に、美羽も立ち上がった。
「じゃあ私、その間にランチの用意するね。キッチン借りてもいいかな?」
「えっ、そんなのお客さんにやらせたら悪いからいいわよぉ。私、やるから!」
「でもよっしー、いつも赤ちゃんや娘さんのお世話で大変でしょ。今日ぐらい、私が手伝うからゆっくりして」
芳子は一瞬間を置いてから、ニコッと笑顔を見せた。
「じゃあ……甘えちゃおうかしら。台所のもの、適当に使ってくれていいから。ありがとね」
「うん」
「あ、美羽もあとで写真撮らせてね!」
芳子の言葉に曖昧な笑みを浮かべ、美羽は頷いた。キッチンへと向かいながら、心の中で安堵の息を吐く。
決して赤ちゃんが嫌いなわけではないのだが、萌のようなテンションで無邪気な反応はできないし、どう対応していいか分からない。また、唯一の既婚者であることで以前のように芳子に子供のことをあれこれ聞かれそうで居辛かった。
リビングからダイニング、キッチンは一続きになっている。
裕樹を囲んで盛り上がっている姿はすぐ近くにあるし、はしゃぐ声が耳を揺らしているのに、美羽からはとても遠く感じた。
キッチンの作業場にはまな板と包丁が置かれたままになっており、シンクには朝ご飯を食べ終えた後のコーヒーのマグカップやパン屑のついた平皿、ヨーグルトカップ、スプーンやフォーク、フライパンや鍋が突っ込まれていた。
容器をレンジに入れてそのまま出すことも出来るが、せっかくだから芳子に少しでもカフェの気分を味わって欲しかった。
美羽は容器を開けると、冷たいものと温かいものに分けた。鍋を洗ってコンソメスープを温め、サラダを少しでも冷やすために冷蔵庫に入れる。冷蔵庫はこれでもかというぐらい隙間なく食材がパンパンに詰められており、サラダの容器を入れる場所の確保に苦労した。
パエリアは魚介類を除いてレンジで温め、その間にシンクに溜まった洗い物を手早く済ませていく。
「ゆうたん、こっち見てぇぇ!! うきゃぁ、その笑顔ずるかわたーん❤️❤️」
「裕樹ー、ほら今度はママよぉ」
先ほどからリビングでは、裕樹の撮影会で盛り上がっていた。香織が裕樹を抱き、にこやかな笑顔をカメラに向けている。実家に兄夫婦が住んでいて甥っ子や姪っ子がいるので、子供の扱いには慣れているのだろう。
あの場で戸惑いを浮かべる自分を想像して、美羽はホッと息を吐いた。
調理が終える頃を見計らって、サラダを冷蔵庫から取り出した。食器棚から皿を選び、綺麗に盛り付けていく。料理自体が美味しそうなので、盛り付けるだけでプロフェッショナルな仕上がりに見える。
コンソメスープを運ぶと香織が立ち上がって手伝ってくれ、小皿に盛ったサラダ、そしてパエリアとスペイン風オムレツ、オリーブと生ハムのピンチョスが載ったメインディッシュが揃うと、芳子が感激の声を上げた。
「うわぁ、ほんとにデタントにいるみたーい!!」
美味しいランチを食べながら、話題は自然と芳子の出産話になっていた。
「そりゃもう、大変だったわよー。だってさぁ、切迫早産のおそれがあるからって入院させられて、やっと退院しても自宅療養でしょ? でも、恵美がいるからずっと寝込んだままでなんていられないし、幼稚園のお迎えだってあるし、旦那は使えないじゃない?
それで結局さぁ、恵美の育児やら家事やら色々ストレスが溜まっちゃったのか、またお腹が痛くなって出血しちゃって入院だったからね。ほんっと、あのまま病院にいればよかったわよー。
で、それからはうちの母に来てもらって恵美の面倒みてもらって、私は食っちゃ寝生活だからさぁ、もう太る太る……ハハハ。入院中に15キロ太って、お医者さんに怒られちゃったわよぉ」
プレイマットに寝かせられていた裕樹の様子を見て、すぐ隣に座っていた萌が口を挟んだ。
「ゆうたん、なんかむずがってるたーん」
「あっ、そろそろおっぱいの時間かも! 裕樹ぃ、ごめんねぇ。裕樹もお腹空いてたねぇ」
芳子は躊躇いなくべろんと服を引っ張り上げ、萌から祐樹を片手で受け取ると乳首にあてがった。
赤ん坊が母親からの母乳を飲んで育つということは頭で理解できるのだが、そういった光景を見慣れていない美羽にとっては、こういったことを目の前でされることになんとなく居心地悪さを感じてしまう。
せめて見えないようにしてくれればいいのだが、芳子の着ている伸縮性のあるカットソーは上に伸びきったままおりないので、母乳をあげているのが丸見えだった。
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