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364.歓迎されない訪問
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門扉越しに覗き込むと、雑草が荒れ放題になっている。シンビジウムや水仙の花が萎れて朽ちており、葉っぱは茶色く枯れていた。見上げると、美しく咲いていたであろう梅の花は愛でられることなく、多くが既に散りこぼれていた。
いつも琴子がこまめに雑草を刈り取り、丹精込めて植物を育てていた庭は、見る影もなくなっていた。もしこれを琴子が知ったら、がっかりすることだろう。
インターホンを押すかどうか迷って立ち尽くしていると、不意に背後から声をかけられた。
「あなた、もしかしてここのお嫁さん?」
振り向くと、年配の女性が立っていた。買い物帰りらしく、手に食材の入ったエコバッグを提げている。
「えぇ……そう、ですが」
何か文句を言われるのかもしれないと、美羽は身を固くした。
「最近奥さんを見かけないけど、どうしたのかしらと心配してたのよぉ。もしかして……離婚、されたとか?」
好奇心丸出しの表情は、心配していたとはどうしても思えない。
「いえ……離婚では。ちょっと事情があって、家を離れているだけです」
正確にいえば離婚に向けて別居中なのだが、変な噂をたてられたくなかった。
「そうなのぉ。ところで、旦那さんの方は、お仕事やめられたのかしら? たまにスーパーとかコンビニで見かけるけど、よれよれの着物きてるし、髪の毛も髭もなんだか手入れしてないみたいだし、何かあったのかしらと思って」
山川のような女性は、どこにでもいるのだなと思いながら、どう答えたら早くこの場を去ってくれるのだろうかと考えていると、ガラガラと引き戸が開いた。
「そこで何してる!」
大作のドスのきいた声に、ふたりして躰をビクッと震わせた。
「そ、それでは、また……」
途端に、話しかけていた女性がそそくさと去っていった。残された美羽は逃げ出すことも出来ず、石のように固まっていた。
大作が草履をザッザッと鳴らしながら、こちらに向かってくる。物騒な面構えで、不機嫌なのが全身に表れていた。
ジワリと冷や汗が、美羽の背中を伝う。
「おまえ……何しにきた?」
ここに来なければ良かったと、美羽はたちまち後悔した。
先ほどの女性が言った通り、大作の髪は伸びっぱなしでボサボサで、髭も剃っておらず、皺ひとつ見られなかった着物はあちこちに線が入っている。まるで、病み上がりのようだった。
「ぁ、あの……」
美羽が言い淀んでいると、大作がじろりと睨んできた。
「あいつの差し金か?」
『あいつ』と言われ、すぐに琴子のことだと気がついた。
「い、いえっ。お義母さんに言われて来たのでは、ないです……」
『だったらなんで来た?』と尋ねられても、返答に窮してしまう。
どうして大作を訪ねてしまったのか。
心配したから? 不憫だと思ったから? 助けたかったから?
家に、帰りたくなかったから?
分からない。どちらにしても、今はすぐにでも帰りたい気持ちになっていた。
郵便受けにがっしりと嵌っている新聞を抜き取り、立てかけてあった回覧板を手にすると、美羽は大作におずおずと差し出した。
大作がそれを受け取ると、今度は洋菓子店で買って来た手土産を渡す。
「良かったら、どうぞ。それでは、私はこれで……」
そっと逃げるように背中を向けかけた美羽に、大作が「待てっ!」と制した。
「上がっていけ」
いつも琴子がこまめに雑草を刈り取り、丹精込めて植物を育てていた庭は、見る影もなくなっていた。もしこれを琴子が知ったら、がっかりすることだろう。
インターホンを押すかどうか迷って立ち尽くしていると、不意に背後から声をかけられた。
「あなた、もしかしてここのお嫁さん?」
振り向くと、年配の女性が立っていた。買い物帰りらしく、手に食材の入ったエコバッグを提げている。
「えぇ……そう、ですが」
何か文句を言われるのかもしれないと、美羽は身を固くした。
「最近奥さんを見かけないけど、どうしたのかしらと心配してたのよぉ。もしかして……離婚、されたとか?」
好奇心丸出しの表情は、心配していたとはどうしても思えない。
「いえ……離婚では。ちょっと事情があって、家を離れているだけです」
正確にいえば離婚に向けて別居中なのだが、変な噂をたてられたくなかった。
「そうなのぉ。ところで、旦那さんの方は、お仕事やめられたのかしら? たまにスーパーとかコンビニで見かけるけど、よれよれの着物きてるし、髪の毛も髭もなんだか手入れしてないみたいだし、何かあったのかしらと思って」
山川のような女性は、どこにでもいるのだなと思いながら、どう答えたら早くこの場を去ってくれるのだろうかと考えていると、ガラガラと引き戸が開いた。
「そこで何してる!」
大作のドスのきいた声に、ふたりして躰をビクッと震わせた。
「そ、それでは、また……」
途端に、話しかけていた女性がそそくさと去っていった。残された美羽は逃げ出すことも出来ず、石のように固まっていた。
大作が草履をザッザッと鳴らしながら、こちらに向かってくる。物騒な面構えで、不機嫌なのが全身に表れていた。
ジワリと冷や汗が、美羽の背中を伝う。
「おまえ……何しにきた?」
ここに来なければ良かったと、美羽はたちまち後悔した。
先ほどの女性が言った通り、大作の髪は伸びっぱなしでボサボサで、髭も剃っておらず、皺ひとつ見られなかった着物はあちこちに線が入っている。まるで、病み上がりのようだった。
「ぁ、あの……」
美羽が言い淀んでいると、大作がじろりと睨んできた。
「あいつの差し金か?」
『あいつ』と言われ、すぐに琴子のことだと気がついた。
「い、いえっ。お義母さんに言われて来たのでは、ないです……」
『だったらなんで来た?』と尋ねられても、返答に窮してしまう。
どうして大作を訪ねてしまったのか。
心配したから? 不憫だと思ったから? 助けたかったから?
家に、帰りたくなかったから?
分からない。どちらにしても、今はすぐにでも帰りたい気持ちになっていた。
郵便受けにがっしりと嵌っている新聞を抜き取り、立てかけてあった回覧板を手にすると、美羽は大作におずおずと差し出した。
大作がそれを受け取ると、今度は洋菓子店で買って来た手土産を渡す。
「良かったら、どうぞ。それでは、私はこれで……」
そっと逃げるように背中を向けかけた美羽に、大作が「待てっ!」と制した。
「上がっていけ」
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