【R18】退廃的な接吻を ー美麗な双子姉弟が織りなす、切なく激しい禁断愛ー

奏音 美都

文字の大きさ
379 / 498

373.思い出のバレンタイン

しおりを挟む
 助手席に座ると、類との距離がいつもより近く感じる。けれど、なんだか照れ臭くて横を向くことが出来なかった。

 マフラーに顔を埋めると、仄かな薔薇の香りに混じった類自身の甘く艶やかな匂いを感じ、泣きたい気分になる。

 類が溢れそうな大きな瞳で美羽の顔を覗き込み、にっこりと首を傾げた。

「じゃ、いこっか?」
「お願い、します……」

 ますます恥ずかしくなって熱くなる顔をマフラーで隠し、つい敬語になってしまった自分を可笑しく思う。浮かれていると、自覚していた。

 カーオーディオから流れているのは、懐かしい邦楽。ふたりが学生だった頃に流行っていた曲が、自然とあの頃の思い出へと導き、鮮やかに蘇って映し出す。

 愛する恋人を失った気持ちを歌った、この曲。大好きだったのに、類と離れてからは辛くて聞けなくなった。どうしても、歌詞と自分を重ねてしまうから。涙が溢れて、止まらなくなるから。

『どんなに想ったって 君は もういない』

 分かってるのに、認めたくなくて。

 行きたくても、行けなくて。
 届かない想いを空に祈っても、遠すぎて。

 ずっと、封印してた。耳を、塞いでた。

ーーそれを、こうして類の隣で再び聴くことになるなんて。

「……何度目かな」

 信号で車が停まり、ふと類が呟いた。

「えっ?」

 慌ててマフラーで涙を拭った美羽が、類の横顔を見つめると、彼の顔が美羽の正面へと向けられる。瑞々しい唇から甘さが溶け出す予感に、脊髄がビリリと痺れる。

「ミューと、バレンタインを過ごすのは」



 それって……私からのチョコレートを期待、してるってこと?



 美羽の心臓が、トクンと音を立てる。

 信号が青になり、躰が僅かに前傾し、車が緩やかに走り出す。類の視線は逸れたものの、美羽の心は鷲掴みされたままだった。

『「ねえ、大好きな君へ」 笑わないで聞いてくれ』

 ふたりで聴いた曲と共に、類の口から甘い思い出が語られる。

「いつもミューからもらったチョコ、分け合って食べたよね」

 抗えない。思い出の波に攫われ、引き寄せられる。辛かった、苦しかった時代を飛び越え、甘さと幸福と情熱しかなかったあの頃に心が強く引き戻される。

「うん……」

「ミューさ、初めて手作りのチョコ作った時、湯煎にかける意味がわかんなくて、チョコを鍋に直接入れて焦がしてたよね。
 フフッ、あれは、おかしかったなー」
「ちょっっ、やだっ! そんなこと覚えてなくていいからっ!!」

 顔がボッと熱くなり、美羽はシートに深く身を縮こませた。

 あれは美羽にとって、消し去りたい恥ずかしい過去だった。

 小学3年生の時、どうしても類に手作りのチョコを渡したくて、図書館で本を借りてきた。世界で一番美味しいチョコレートを作って、類に喜んでもらうはずだったのに……できたのは、鍋にこびり付いた真っ黒焦げの、得体の知れない未知の物体だった。

 慌てて換気扇を回し、焦げた鍋を隠した。それから、使った用具を全て洗って片付けて、何も作ってない風を装った。

 自転車を走らせてチョコを買いに行き、類には市販のものを渡した。

 それなのに……類は、『僕は、こっちがいい』と言って、美羽が隠していた鍋を見つけ、焦げたチョコを舐めた。それから無邪気に笑って、美羽にキスをしたのだった。

 でも……あの時、類の唇から感じたのは、苦さだけじゃなかった。

 苦味と甘味の混ざった濃厚なチョコレートの味が舌に蘇り、コクリとそれを飲み下す。

「中学ん時さ、靴箱に入ってたチョコを仕方なく持って帰ったら、怒って口きいてくれなかったよね。それで、気付いたらぜーんぶミューが食べちゃっててさ、ハハッ」
「だ、だって、類に食べてほしくなかったから……」

 中学生になってから、モテ始めた類。1年の時は真正面から渡した生徒はことごとく玉砕したため、2年のバレンタインではせめて受け取ってほしいという気持ちから、大量のチョコレートが靴箱や机の中に入れられていた。

 類としては捨てるつもりだったのが、教師から学校で捨てることはしないようにと言われ、仕方なく持って帰ってきたことも知っていた。

 けれど、やっぱり類には、好きという想いが込められたチョコレートを食べてほしくなかった。本当は全てゴミ箱に捨てるつもりだったのだが、渡した女の子の気持ちを考えるとできなかった。

 それでも類に食べてほしくない一心で、無理やりひとりで全部食べたのだった。

 次の日、大量のニキビがおでこにできて、鏡の前で落ち込んだのを覚えてる。

 必死に手で隠していたのに、類に手首を取られ、逃げられないように壁に押し付けられて、額に口付けされたのだった。

『嫉妬するミュー、ほんっと可愛い』

 耳元に囁かれたあの言葉は、どんなチョコレートよりも甘く美羽を溶かした。

『泣き笑いと悲しみ喜びを 共に分かち合い 生きて行こう』

 思い出と曲が混ざり合って胸を打たれ、感情が溢れ出す。

 いつだって、一緒だった。
 泣いて、笑って、悲しんで、喜んで……同じ感情を共有した。

 いくつもの朝を迎えて、いくつもの夜を超えて。

 ずっと……ずっとふたりで、愛を奏でていけると信じてた。

 ふたりの思い出が眩しすぎて。
 愛おしすぎて……胸が、痛い。心臓が、苦しい。 

「あの時のミューとのキス、めちゃめちゃ甘かったな」

 類、も……覚えてたんだ。

 高鳴る鼓動が、止まらない。その甘い囁きに、蕩かされてしまう。

「ミューと、チョコ食べたその口でキスするのが好きだった。
 舌に甘味が残ってて、チョコレートの匂いが充満してて、柔らかくて熱くて……蕩かされそうだった」

 類の言葉に呼び覚まされる。

 あの味が、匂いが、感触が、熱が……

 忘れられるはずない。
 あんなに甘くて幸せな時間。

 ふたりの笑顔が溶け合い、交わったあの瞬間。

 お互いの存在こそが、生きる意味だった。

「ねぇ」

 車がデタントの駐車場に停止し、類の大きく魅惑的なダークブラウンの瞳がしっかりと美羽を捕らえる。



「今年のバレンタインは、どうなるかな」



 鼓動が打ち震え、類の瞳から抜け出せない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...