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438.嫌な胸騒ぎ
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引き戸の向こう側から、先ほどの店員の声が小さく聞こえてきた。
「こちらです」
スッと引き戸が開けられ、スーツにカチッとしたビジネスバッグを手にした義昭が現れた。幾分、固い表情をしている。
類は、柔らかい笑みで義昭を迎えた。
「ヨシ、時間通りだね」
「ぁ、あぁ。いきなりルイから電話が来て、驚いたよ……3人で外食しようなんて、珍しいな」
義昭の言葉に、美羽の胃がキューッと絞られる。何か疑われているのではと、考えが先に立つ。
「僕たち、今日は休みだったし、たまにはいいかなぁと思って。ほら、突っ立ってないで座ってよ」
「あぁ……」
類に促され、義昭はぽっかりと空いていた向かい側の席に座った。特に不審に思うような様子は見られず、美羽はホッと安堵の息を吐いた。
「じゃ、まずは飲み物から決めよ」
類がテーブルに置かれているタブレットの1台を義昭に渡し、もう1台を美羽と共有するようにして躰ごと寄せてきた。
美羽に向かって首を傾げ、甘えるように尋ねる。
「ねぇ、ミューは何が飲みたい?」
ち、近いよ……類っっ。
喉が焼けついて、言葉が出てこない。ここに来る前に飲んできた水は既に、干上がってしまったようだ。
美羽の心の声をスルーし、類は更に躰を寄せてきた。
「えっとねー、僕のお勧めは生ゆずチューハイ。ミュー、好きでしょ?」
「う、うん……」
「じゃ、僕も同じの頼むね。はい、注文完了!」
義昭が、弾かれたように焦った声を上げた。
「あっと! 僕、注文がまだ……」
「早く決めなよ」
類が、明らかにトーンの下がった声で答える。
義昭は顔を真っ赤にしながら慌ててビールを選択し、注文ボタンを押した。
そんなふたりの様子を見ながら、美羽は嫌な胸騒ぎがしてならない。
いったい類は、何を企んでいるの?
「じゃ、食べ物も注文しようよ。今日、朝からなんも食べてないからお腹空いてんだよね」
そう言われて、美羽も急に空腹を感じた。
そう、だ……私も。今日、何も食べてない。それ、なのに……あんな、激しい……ッッお腹空いてるのも、何もかも忘れて、貪り合ってたなんて。
「え。今日いちにち休みだったのに、何も食べてないのか?」
義昭が、目を大きく見開いた。
「うん。色々と……忙しくて。
ね、ミュー?」
類に爽やかな笑顔を向けられても、答えることなんてできない。美羽は僅かにコクリと頷くと、メニューに視線を落とした。
類がタブレットを操作し、美羽にメニューを見せていく。
店の雰囲気に見合った和食メニューが中心で、サラダ、海鮮刺身、焼き物、揚げ物、串焼き、野菜、創作料理、ご飯もの、鍋物、甘味ものと豊富な種類が揃っていた。
最後の甘味もののページまでくると、類が美羽に問いかける。
「ミューが食べたいの、あった?」
「えっと……豆腐サラダと刺身の盛り合わせ、お願いしていいかな?」
「りょーかい。えっと、サラダ……っと、刺身だよね」
類が豆腐サラダと刺身の盛り合わせを選択し、顔を上げて義昭を見た。
「ヨシは、別になんでもいいよね?」
「へ? あ、あぁ……類が、適当に頼んでくれていい」
タブレットのページを捲っていた義昭の手が止まり、タブレットをテーブルへと戻した。
「……っと、こんなとこかな」
注文ボタンを送信してから、類が美羽に微笑んだ。
「ミューの次の飲み物も、ついでに頼んどいたよ」
「えっ、まだ1杯目の飲み物も来てないのに!?
明日はみんな仕事だし、義昭さんだって忙しいみたいだから、あんまり飲まない方がいいと思うけど……」
「えーっ、いいじゃん。ねぇ、ヨシ?」
同意を求める類に、義昭が慌てて返す。
「あ、あぁ。せっかくの外食なんだ。僕も、飲むよ」
「ヨシのも、もう頼んどいたよ」
「そ、そうか……あり、がとう」
義昭は先日の腹痛を思い出したのか、類を見てブルッと震え、喉仏をゴクリと上下させた。
「こちらです」
スッと引き戸が開けられ、スーツにカチッとしたビジネスバッグを手にした義昭が現れた。幾分、固い表情をしている。
類は、柔らかい笑みで義昭を迎えた。
「ヨシ、時間通りだね」
「ぁ、あぁ。いきなりルイから電話が来て、驚いたよ……3人で外食しようなんて、珍しいな」
義昭の言葉に、美羽の胃がキューッと絞られる。何か疑われているのではと、考えが先に立つ。
「僕たち、今日は休みだったし、たまにはいいかなぁと思って。ほら、突っ立ってないで座ってよ」
「あぁ……」
類に促され、義昭はぽっかりと空いていた向かい側の席に座った。特に不審に思うような様子は見られず、美羽はホッと安堵の息を吐いた。
「じゃ、まずは飲み物から決めよ」
類がテーブルに置かれているタブレットの1台を義昭に渡し、もう1台を美羽と共有するようにして躰ごと寄せてきた。
美羽に向かって首を傾げ、甘えるように尋ねる。
「ねぇ、ミューは何が飲みたい?」
ち、近いよ……類っっ。
喉が焼けついて、言葉が出てこない。ここに来る前に飲んできた水は既に、干上がってしまったようだ。
美羽の心の声をスルーし、類は更に躰を寄せてきた。
「えっとねー、僕のお勧めは生ゆずチューハイ。ミュー、好きでしょ?」
「う、うん……」
「じゃ、僕も同じの頼むね。はい、注文完了!」
義昭が、弾かれたように焦った声を上げた。
「あっと! 僕、注文がまだ……」
「早く決めなよ」
類が、明らかにトーンの下がった声で答える。
義昭は顔を真っ赤にしながら慌ててビールを選択し、注文ボタンを押した。
そんなふたりの様子を見ながら、美羽は嫌な胸騒ぎがしてならない。
いったい類は、何を企んでいるの?
「じゃ、食べ物も注文しようよ。今日、朝からなんも食べてないからお腹空いてんだよね」
そう言われて、美羽も急に空腹を感じた。
そう、だ……私も。今日、何も食べてない。それ、なのに……あんな、激しい……ッッお腹空いてるのも、何もかも忘れて、貪り合ってたなんて。
「え。今日いちにち休みだったのに、何も食べてないのか?」
義昭が、目を大きく見開いた。
「うん。色々と……忙しくて。
ね、ミュー?」
類に爽やかな笑顔を向けられても、答えることなんてできない。美羽は僅かにコクリと頷くと、メニューに視線を落とした。
類がタブレットを操作し、美羽にメニューを見せていく。
店の雰囲気に見合った和食メニューが中心で、サラダ、海鮮刺身、焼き物、揚げ物、串焼き、野菜、創作料理、ご飯もの、鍋物、甘味ものと豊富な種類が揃っていた。
最後の甘味もののページまでくると、類が美羽に問いかける。
「ミューが食べたいの、あった?」
「えっと……豆腐サラダと刺身の盛り合わせ、お願いしていいかな?」
「りょーかい。えっと、サラダ……っと、刺身だよね」
類が豆腐サラダと刺身の盛り合わせを選択し、顔を上げて義昭を見た。
「ヨシは、別になんでもいいよね?」
「へ? あ、あぁ……類が、適当に頼んでくれていい」
タブレットのページを捲っていた義昭の手が止まり、タブレットをテーブルへと戻した。
「……っと、こんなとこかな」
注文ボタンを送信してから、類が美羽に微笑んだ。
「ミューの次の飲み物も、ついでに頼んどいたよ」
「えっ、まだ1杯目の飲み物も来てないのに!?
明日はみんな仕事だし、義昭さんだって忙しいみたいだから、あんまり飲まない方がいいと思うけど……」
「えーっ、いいじゃん。ねぇ、ヨシ?」
同意を求める類に、義昭が慌てて返す。
「あ、あぁ。せっかくの外食なんだ。僕も、飲むよ」
「ヨシのも、もう頼んどいたよ」
「そ、そうか……あり、がとう」
義昭は先日の腹痛を思い出したのか、類を見てブルッと震え、喉仏をゴクリと上下させた。
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