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448.苦手な人
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まかないが載ったトレイを手に、美羽は祈るような気持ちで控室の扉のノブに手を掛けた。
どうか、隼斗兄さんがいますように……
ノブを回してカチャッと扉を開け、中を恐る恐る覗くと、龍也が座っていた。
あぁ、龍也さんだった……
「おつかれさんどしたな」
「お疲れ様です……」
緊張しながら龍也の向かい側にトレイを置き、腰を下ろす。そんな美羽の様子に、龍也がクスッと笑った。
「あんな、そんな取って食わへんさかい、ビクビクしーひんで。仲良うしようや」
「は、はい。
あ、の……私がいない間、ヘルプで入ってくださってありがとうございました」
「あぁ、かまへんかまへん。やることのうて暇やったし、お金も入るし、かえって助かったわ」
その言葉を聞いてホッとしていると、龍也がじっと美羽を見つめてきた。
「自分、おとんが亡くなりよって、アメリカ行っとったらしいやん。大変やったね」
「ぁ、はい……」
そうだ。あの時、私はお父さんの葬儀でアメリカに行き、そこで類に再会したんだった。
ほんの半年ほど前の出来事なのに、随分昔のことに感じる。葬儀の時には、父を失った悲しみと痛みでいっぱいだったのに、そんなことを考えなくなっている自分にショックを受けた。
「それにしても、驚いたで。自分、結婚しとったなんてな。どないな旦那はんなん?」
義昭のことを尋ねられ、美羽の頬が引き攣る。
「別に……普通の、会社員ですよ」
そうだ。私は、世間的には夫のいる身。義昭さんの妻、なんだ……
「自分だけ、のうのうと幸せになるなんてな」
ボソッと小さく呟いた龍也の言葉を、考え事をしていた美羽は聞き取れず、「ぇ?」と聞き返した。
「なんでもない。こっちの話や」
「そんで、アメリカから双子の弟を連れてきたっちゅーわけか。なんや、美しい姉弟愛やな」
そんなんじゃ、ない……
そう否定することなど当然できず、美羽は曖昧に微笑むしかなかった。
「なんや、自分。歯切れ悪いのう」
「ご、めんなさい……龍也さんに会うの、高校生以来なんで、その時の気持ちが戻っちゃって」
「俺、そんな自分に意地悪なことしとったか? かんにんな。
そや、今度みんなでお花見でもしようや。ちょうど桜も咲いてるしな。隼斗に、ようさんお弁当作ってもろうて。お稲荷さんは、入れてもらわんとな」
ぇ、みんなで……ってことは、類とかおりんが一緒にいるところを見ないといけなくなるんだよね。
美羽が黙っていると、龍也が顔を覗き込んできた。
「俺の歓迎会すんの、嫌なん?」
「そ、そんなことないです!」
「せやったら、よかったわ。
あんな、自分とはずっと話したいことがあってん。ゆっくり話しよな」
そう言った龍也は口角は上がって笑った表情を見せているのに、目が笑っていない。彼の心がそこに入っていないように思えて、美羽はコクリと喉を鳴らして躰を硬らせた。
「自分、ほんまにお狸はんの置物なるつもりか?」
「ぇ」
「早う食べな、休憩終わんで」
「あ。はい……」
美羽はハッとして、まかないを食べ始めた。
こういう龍也さんの言い回し……やっぱり、苦手。
龍也が、まかないの中にあった1つを指差す。
「あんな、これ、俺のリクエストで隼斗に作ってもろうてん。食べよし」
それは、マグロのたたきと長芋と紫蘇の葉を湯葉で巻いたものに山葵を混ぜた醤油がソースとしてかけられている1品だった。太巻きのようにも見えるが、フレンチのアペタイザーにも見える、和洋折衷を思わせる1品だった。
「湯葉を使おた前菜が食べたい言うたら、こんなん作らはってん。隼斗、腕あげたなぁ」
ほんと、これデタントの新メニューとしてお客様に出したいぐらい、美味しい……
と、そこに控室の扉が開いた。
「おはよーたーん!」
どこかのお嬢様学校の制服にも見えるようなワインレッドに白いセーラ・カラーに細いリボンがついたギャザーがたっぷりついたフリルワンピースに、もこもこのうさぎポシェットを斜めがけにしたツインテールの萌が元気よく入ってきたが、龍也の顔を見た途端に蒼褪め、「ぎゃふん!」と叫んだ。
も、萌たん。今、確かに『ぎゃふん』って言ったよね……
どうか、隼斗兄さんがいますように……
ノブを回してカチャッと扉を開け、中を恐る恐る覗くと、龍也が座っていた。
あぁ、龍也さんだった……
「おつかれさんどしたな」
「お疲れ様です……」
緊張しながら龍也の向かい側にトレイを置き、腰を下ろす。そんな美羽の様子に、龍也がクスッと笑った。
「あんな、そんな取って食わへんさかい、ビクビクしーひんで。仲良うしようや」
「は、はい。
あ、の……私がいない間、ヘルプで入ってくださってありがとうございました」
「あぁ、かまへんかまへん。やることのうて暇やったし、お金も入るし、かえって助かったわ」
その言葉を聞いてホッとしていると、龍也がじっと美羽を見つめてきた。
「自分、おとんが亡くなりよって、アメリカ行っとったらしいやん。大変やったね」
「ぁ、はい……」
そうだ。あの時、私はお父さんの葬儀でアメリカに行き、そこで類に再会したんだった。
ほんの半年ほど前の出来事なのに、随分昔のことに感じる。葬儀の時には、父を失った悲しみと痛みでいっぱいだったのに、そんなことを考えなくなっている自分にショックを受けた。
「それにしても、驚いたで。自分、結婚しとったなんてな。どないな旦那はんなん?」
義昭のことを尋ねられ、美羽の頬が引き攣る。
「別に……普通の、会社員ですよ」
そうだ。私は、世間的には夫のいる身。義昭さんの妻、なんだ……
「自分だけ、のうのうと幸せになるなんてな」
ボソッと小さく呟いた龍也の言葉を、考え事をしていた美羽は聞き取れず、「ぇ?」と聞き返した。
「なんでもない。こっちの話や」
「そんで、アメリカから双子の弟を連れてきたっちゅーわけか。なんや、美しい姉弟愛やな」
そんなんじゃ、ない……
そう否定することなど当然できず、美羽は曖昧に微笑むしかなかった。
「なんや、自分。歯切れ悪いのう」
「ご、めんなさい……龍也さんに会うの、高校生以来なんで、その時の気持ちが戻っちゃって」
「俺、そんな自分に意地悪なことしとったか? かんにんな。
そや、今度みんなでお花見でもしようや。ちょうど桜も咲いてるしな。隼斗に、ようさんお弁当作ってもろうて。お稲荷さんは、入れてもらわんとな」
ぇ、みんなで……ってことは、類とかおりんが一緒にいるところを見ないといけなくなるんだよね。
美羽が黙っていると、龍也が顔を覗き込んできた。
「俺の歓迎会すんの、嫌なん?」
「そ、そんなことないです!」
「せやったら、よかったわ。
あんな、自分とはずっと話したいことがあってん。ゆっくり話しよな」
そう言った龍也は口角は上がって笑った表情を見せているのに、目が笑っていない。彼の心がそこに入っていないように思えて、美羽はコクリと喉を鳴らして躰を硬らせた。
「自分、ほんまにお狸はんの置物なるつもりか?」
「ぇ」
「早う食べな、休憩終わんで」
「あ。はい……」
美羽はハッとして、まかないを食べ始めた。
こういう龍也さんの言い回し……やっぱり、苦手。
龍也が、まかないの中にあった1つを指差す。
「あんな、これ、俺のリクエストで隼斗に作ってもろうてん。食べよし」
それは、マグロのたたきと長芋と紫蘇の葉を湯葉で巻いたものに山葵を混ぜた醤油がソースとしてかけられている1品だった。太巻きのようにも見えるが、フレンチのアペタイザーにも見える、和洋折衷を思わせる1品だった。
「湯葉を使おた前菜が食べたい言うたら、こんなん作らはってん。隼斗、腕あげたなぁ」
ほんと、これデタントの新メニューとしてお客様に出したいぐらい、美味しい……
と、そこに控室の扉が開いた。
「おはよーたーん!」
どこかのお嬢様学校の制服にも見えるようなワインレッドに白いセーラ・カラーに細いリボンがついたギャザーがたっぷりついたフリルワンピースに、もこもこのうさぎポシェットを斜めがけにしたツインテールの萌が元気よく入ってきたが、龍也の顔を見た途端に蒼褪め、「ぎゃふん!」と叫んだ。
も、萌たん。今、確かに『ぎゃふん』って言ったよね……
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