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一抹の不安
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ようやくシェーンブルン宮殿内の見学を終えて3人は外に出ると、庭園を散策することにした。宮殿の後ろには真っ直ぐな道が伸び、その両脇に壮大で美しい庭園が広がっていた。
『キンキラキンの室内歩いて頭がクラクラしちゃってたから、生き返るよー!』
ザックはうーん、と言いながら伸びをした。
『ふふっ、そうですね……』
きらびやかで豪勢な調度品や内装は素晴らしかったが、外の空気を吸って美姫は新鮮な気持ちになった。
真っ直ぐに伸びた先にあるグロリエッテという建物へと向かって歩く。途中、斜めに伸びた通路には左右に高い街路樹が植えられていて、通路側だけが垂直の壁のように剪定されていた。通路の左右には花壇が広がり、曲線や丸など種類によって形作られ、よく手入れされていて芸術作品としても素晴らしかった。
『ずっと歩き回ってたから疲れてない?この丘の裏にカフェがあるからさぁ、そこで休もうよぉ』
『そう言って、本当は始めからカフェが目的で歩いていたのではないですか?』
『あっ、バレた?』
『貴方の考えることなどすぐ分かります』
ザックが指をパチン、と鳴らした。
『さっすがシューイチ!言わなくても心で通じてるってことだね♪』
二人のやりとりに、美姫はフフッと笑みが溢れた。
道の行き止まりにネプチューン像があり、グロリエッテの建物はその先にある。ここからは丘になっていて、約10分程の登山道になっていた。
『あぁーーーっ、疲れたー。早くメランジェ飲みたぁい!!!』
ザックは自分でカフェに行くと決めたにも関わらず、丘を少し登っただけで弱音を上げていた。
メランジェって何だろう……
美姫がそう考えていると、手の甲に何かが触れる感触がした。
ハッとして横を見ると、隣を歩いていた秀一の手に偶然当たってしまったのだった。秀一の手が僅かにピクッと震え、当たってしまったことは気づいたはずなのに、何事もなかったかのように素知らぬ顔で、美姫から自然に半歩離れた距離を開けて歩いた。
触れた手の甲が、胸の痛みと共にジンジンする。
どうし、て……いつもの秀一さんならそんなこと、しないのに……
美姫はその理由を深く考えたくなかった。
きっと、ザックが一緒だから…気を遣ってるんだよね……
そんな筈はないと分かっていたが、無理やり理由をこじつけて自分を納得させ、置かれた距離に気づかないフリをして歩いた。
心が……波立ってくるのが分かる。考えないようにしようとするのに、どうしても気になってしまう……
だめ…考えちゃ、だめだ……
少しでも気を抜くと昨夜のことが思い返され、先程の出来事と結びつけようとするその考えを、美姫は必死で打ち消していった。
考え、過ぎ……だめ…自分で勝手に結論づけたら……自分で勝手に悪い方に想像して後悔するような過ちは、もう繰り返したくない。
かつて、秀一が一時帰国した際に熱愛報道の雑誌を見て、ショックのあまりに咄嗟に起こしてしまった行動を思い起こす。あの時のことを思うと、まだ胸が痛む。
秀一さんの表情も言葉も愛情に満ちている。大丈夫…大丈夫。
美姫は呪文のように、繰り返し自分に言い聞かせ、不安を心の奥に押し込めた。だが、グロリエッテに着くまで、美姫と秀一の半歩の距離が縮まることはなかった。
『キンキラキンの室内歩いて頭がクラクラしちゃってたから、生き返るよー!』
ザックはうーん、と言いながら伸びをした。
『ふふっ、そうですね……』
きらびやかで豪勢な調度品や内装は素晴らしかったが、外の空気を吸って美姫は新鮮な気持ちになった。
真っ直ぐに伸びた先にあるグロリエッテという建物へと向かって歩く。途中、斜めに伸びた通路には左右に高い街路樹が植えられていて、通路側だけが垂直の壁のように剪定されていた。通路の左右には花壇が広がり、曲線や丸など種類によって形作られ、よく手入れされていて芸術作品としても素晴らしかった。
『ずっと歩き回ってたから疲れてない?この丘の裏にカフェがあるからさぁ、そこで休もうよぉ』
『そう言って、本当は始めからカフェが目的で歩いていたのではないですか?』
『あっ、バレた?』
『貴方の考えることなどすぐ分かります』
ザックが指をパチン、と鳴らした。
『さっすがシューイチ!言わなくても心で通じてるってことだね♪』
二人のやりとりに、美姫はフフッと笑みが溢れた。
道の行き止まりにネプチューン像があり、グロリエッテの建物はその先にある。ここからは丘になっていて、約10分程の登山道になっていた。
『あぁーーーっ、疲れたー。早くメランジェ飲みたぁい!!!』
ザックは自分でカフェに行くと決めたにも関わらず、丘を少し登っただけで弱音を上げていた。
メランジェって何だろう……
美姫がそう考えていると、手の甲に何かが触れる感触がした。
ハッとして横を見ると、隣を歩いていた秀一の手に偶然当たってしまったのだった。秀一の手が僅かにピクッと震え、当たってしまったことは気づいたはずなのに、何事もなかったかのように素知らぬ顔で、美姫から自然に半歩離れた距離を開けて歩いた。
触れた手の甲が、胸の痛みと共にジンジンする。
どうし、て……いつもの秀一さんならそんなこと、しないのに……
美姫はその理由を深く考えたくなかった。
きっと、ザックが一緒だから…気を遣ってるんだよね……
そんな筈はないと分かっていたが、無理やり理由をこじつけて自分を納得させ、置かれた距離に気づかないフリをして歩いた。
心が……波立ってくるのが分かる。考えないようにしようとするのに、どうしても気になってしまう……
だめ…考えちゃ、だめだ……
少しでも気を抜くと昨夜のことが思い返され、先程の出来事と結びつけようとするその考えを、美姫は必死で打ち消していった。
考え、過ぎ……だめ…自分で勝手に結論づけたら……自分で勝手に悪い方に想像して後悔するような過ちは、もう繰り返したくない。
かつて、秀一が一時帰国した際に熱愛報道の雑誌を見て、ショックのあまりに咄嗟に起こしてしまった行動を思い起こす。あの時のことを思うと、まだ胸が痛む。
秀一さんの表情も言葉も愛情に満ちている。大丈夫…大丈夫。
美姫は呪文のように、繰り返し自分に言い聞かせ、不安を心の奥に押し込めた。だが、グロリエッテに着くまで、美姫と秀一の半歩の距離が縮まることはなかった。
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