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初対面

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『どうしてまた貴方が来たのですか……』

 まるで花婿のように上下純白のスーツに身を包み、ロビーの肘掛けチェアに慣れた仕草で美姫と秀一を待つザックを目の端に見つけ、呆れたように秀一が大きく溜息を吐いた。

『なんだよぉ、シューイチ!こっちは昨日あの後めちゃめちゃ練習でこってり絞られてさぁ大変な中来てあげたってのに、冷たいなぁ。ね、美姫ちゃん?って…
 ヒューッ!!今日は一段と綺麗だね、エスコートさせてよ!!』

 クリスマスパーティーに合わせ、深みのあるワインレッドの少し胸元の開いたカクテルドレスにパールのネックレスに身を包んだ美姫を見て、こんな場所でも構わず口笛を鳴らして感嘆の声を上げるザックに嬉しさよりも恥ずかしい気持ちで赤面してしまう。

 ザックってほんとに周りの目を気にしないんだな……

『エスコートは私の役目ですので。さ、美姫……』

 細身の黒ストライプスーツにベストを合わせ、深いワインレッドに細かい水玉模様の入ったネクタイを締め、後ろにひとつに髪を結い、ティアドロップ型のサングラスをかけた秀一がスッと腕を差し出した。

 いつもは無地のスーツを着ることの多い秀一だが、遠目には無地のように見えるその柄は彼のエレガントさとシャープさを引き立てていて、よく似合っていた。さり気なく美姫のドレスとネクタイの色が同じであることに気がつき、美姫はドキドキした。

 一瞬、いいのかな…という思いが美姫の中を掠めて、秀一の顔を見上げる。

 薄く色の入ったサングラスの向こうから優しさの滲み出た眼差しに絡め取られ、美姫はそっと腕を絡めた。細身のスーツを通して感じるその温もりが昨夜の秘事を思い起こさせ、今度は違う意味でますます火照る顔を隠すように俯いた。

 秀一さんはいつもの調子に戻っているのに、私だけ過剰に意識して、反応しちゃって……恥ずかしい……

『わぁっ、いつもシューイチだけ、ズルい!!ズルい!!』

 ジタバタと地団駄を踏むザックを尻目に、秀一が歩き出した。

『皆が待ってますよ……行きましょう』

 3人はザックの赤のフォルクスワーゲン、ゴルフに乗り込み、一路モルテッソーニの家へと向かっていた。

『ザック、車持ってたんですね』
『こっちで生活するには車ないと不便だからね。中古で買ったんだぁ。俺ん家さぁ、貧乏だったからなんか高いのとか買うのすっげぇ勿体なく思っちゃうんだよね。シューイチなんてさ、こっち住んでた時めちゃめちゃ高い新車買っておいて2年たったらもういらないからってモルテッソーニにあげちゃったんだよ!!あのじーさん、滅多に車なんて運転しないのに。俺にくれればよかったのにさっ』

 思い出してザックがプリプリ怒りながら言った。

 オーストリアでの秀一の話は聞くと嬉しいと思う反面、美姫はやはりどうしても寂しい気持ちにさせられてしまう。

 秀一がふわりと広がったドレスの下に美姫の手を引き込み、手を握った。

 秀一を見上げると、愛しさの籠もった熱を帯びた視線とぶつかった。安心させるように握った手に力が加えられ、秀一が小さく頷いた。

 大丈夫……過去の、話なんだから……
 今、私は秀一さんの隣にいる。

 美姫も秀一に小さく頷き返し、微笑んだ。
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