243 / 1,014
初対面
2
しおりを挟む
シェーンブルン宮殿からそう遠く離れていない路上にて、ザックの車が停車した。
『はい、着いたよぉ』
秀一のエスコートで美姫は車から降りた。
『あの薄いピンクの建物の左隣がモルテッソーニの自宅になります』
広大な土地にポツンと佇むお屋敷が門から遠く離れた所に建っているようなイメージを想像していた美姫は、それを見て少し驚いた。
門も無ければ庭もなく、また隣同士の家の隙間もない。ただ、建物は大きく、3階建てで広さもかなりありそうだった。塗装された壁はシェーンブルン宮殿で見たテレジアンイエローを思わせるような濃く気品のある黄色だった。扉は薄いクリームイエローで、扉の幅と同じくらいのクリスマスリースが掛けられている。
ここが、秀一さんが2年間住んでいたモルテッソーニの自宅、なんだ……
そう思うと緊張して、美姫はゴクリと喉を鳴らした。
ザックが鍵穴に挿すより早く、クリスマスリースに飾られた鐘の音と共に内側から扉が開いた。
『シューイチ!!!』
そう言って、秀一の胸に飛び込んだ少年。
プラチナブロンドのサラサラな髪の毛、そして横顔から覗く真っ白と言いたくなるほど血管さえ見えそうな透き通るような白い肌にほんのり紅く染まった頬と柔らかく口角の上がった艶やかな唇。そして、何より印象的なのは……
吸い込まれてしまいそう……
クリスタルブルーのような透明感を持ったアクアマリンの瞳。プラチナブロンドの美しい髪を更に際立たせる胸元までしっかりボタンの留められた黒シャツに同色のベスト、極めて白に近いシャイニーライトグレーの長めのネクタイを締めた彼は、美しい人形が何かの仕掛けで動いているのでは……という気持ちにさえもさせられてしまうぐらい人間離れした顔立ちだった。
『レオ、お久しぶりです…』
秀一の言葉に、美姫は一瞬で躰が硬直する。
レオ…レオ…レオ……
予想もしていなかった突然告げられた名前に、美姫は激しく動揺する。秀一の言葉がグワングワンと脳に共鳴しながら鐘のように響き渡る。
冷や汗が…震えが……鼓動、が……わわわかってる……あ、あ、あの、礼音じゃ…ないいいって……わわかって、るのに……その響き、だけで……躰が、反応してしまう……拒否反応を…示してしまう……
「美姫、大丈夫ですか!?」
『ミキ!?』
秀一が美姫の様子に気付き、慌ててレオを引き離して美姫の肩を抱いた。ザックも美姫を気遣うように心配そうに見つめる。秀一の温もりに次第に落ち着きを取り戻すと、美姫はようやく頷いた。
『えぇ……すみま、せん……』
ど、どうしよう……初対面なのに、あんな醜態晒してしまって恥ずかしい……
『あ、あの…すみま…』
『あのさぁ、あんた何なの?折角のシューイチとの再会を邪魔するとか。姪だかなんだか知らないけど、シューイチは僕のだから、邪魔しないでよね』
奪い返すかのように、秀一の腕に自分の腕を絡ませたレオが美姫を睨んだ。横顔でも美しいと思ったが、真正面に向かれると髪の毛と同じプラチナブロンドの眉毛と睫毛により、更に迫力が増した。エレガントなイギリス英語の発音でズケズケと物を言う、人間離れした美しい少年を目の前に、美姫の思考が止まってしまう。
え……今……何て言ったの?
レオのアクアマリンの瞳には明らかな美姫への敵意が籠もっている。
こ、れは……秀一さんを恋愛の対象として好きってこと、だよね……
美姫はそう、確信した。
『美姫、紹介がまだでしたね。彼は……レナードです』
Leonaldだから、そう…呼ばれてたんだ……
秀一が愛称ではなく、本当の名前で紹介してくれた気遣いを美姫は嬉しく思いつつも、そのことにますますイライラしたように不服を募らせ、睨みつけるレナードにドキドキする。
美少年って、怒っていても美しいんだ……
『あの、美姫です。どうぞよろしく、レ…ナード』
やっぱり、呼べない……
喉の奥に詰まってしまう言葉を誤魔化すように、愛称ではなく、本来の名前で呼んだ。レナードは秀一を引っ張り込むように腕を絡ませ、フンッと美姫にソッポを向いた。秀一が困ったように眉を寄せる。
『レ…ほら、ちゃんと挨拶して下さい?』
美姫は、以前オーストリア料理のレストランにて兄弟弟子の方の話をしていた時の会話を思い出した。凄く若くて才能があるけど、気分屋で我儘なところがあるって話してたのは、レナードのことだったんだ……
『はい、着いたよぉ』
秀一のエスコートで美姫は車から降りた。
『あの薄いピンクの建物の左隣がモルテッソーニの自宅になります』
広大な土地にポツンと佇むお屋敷が門から遠く離れた所に建っているようなイメージを想像していた美姫は、それを見て少し驚いた。
門も無ければ庭もなく、また隣同士の家の隙間もない。ただ、建物は大きく、3階建てで広さもかなりありそうだった。塗装された壁はシェーンブルン宮殿で見たテレジアンイエローを思わせるような濃く気品のある黄色だった。扉は薄いクリームイエローで、扉の幅と同じくらいのクリスマスリースが掛けられている。
ここが、秀一さんが2年間住んでいたモルテッソーニの自宅、なんだ……
そう思うと緊張して、美姫はゴクリと喉を鳴らした。
ザックが鍵穴に挿すより早く、クリスマスリースに飾られた鐘の音と共に内側から扉が開いた。
『シューイチ!!!』
そう言って、秀一の胸に飛び込んだ少年。
プラチナブロンドのサラサラな髪の毛、そして横顔から覗く真っ白と言いたくなるほど血管さえ見えそうな透き通るような白い肌にほんのり紅く染まった頬と柔らかく口角の上がった艶やかな唇。そして、何より印象的なのは……
吸い込まれてしまいそう……
クリスタルブルーのような透明感を持ったアクアマリンの瞳。プラチナブロンドの美しい髪を更に際立たせる胸元までしっかりボタンの留められた黒シャツに同色のベスト、極めて白に近いシャイニーライトグレーの長めのネクタイを締めた彼は、美しい人形が何かの仕掛けで動いているのでは……という気持ちにさえもさせられてしまうぐらい人間離れした顔立ちだった。
『レオ、お久しぶりです…』
秀一の言葉に、美姫は一瞬で躰が硬直する。
レオ…レオ…レオ……
予想もしていなかった突然告げられた名前に、美姫は激しく動揺する。秀一の言葉がグワングワンと脳に共鳴しながら鐘のように響き渡る。
冷や汗が…震えが……鼓動、が……わわわかってる……あ、あ、あの、礼音じゃ…ないいいって……わわかって、るのに……その響き、だけで……躰が、反応してしまう……拒否反応を…示してしまう……
「美姫、大丈夫ですか!?」
『ミキ!?』
秀一が美姫の様子に気付き、慌ててレオを引き離して美姫の肩を抱いた。ザックも美姫を気遣うように心配そうに見つめる。秀一の温もりに次第に落ち着きを取り戻すと、美姫はようやく頷いた。
『えぇ……すみま、せん……』
ど、どうしよう……初対面なのに、あんな醜態晒してしまって恥ずかしい……
『あ、あの…すみま…』
『あのさぁ、あんた何なの?折角のシューイチとの再会を邪魔するとか。姪だかなんだか知らないけど、シューイチは僕のだから、邪魔しないでよね』
奪い返すかのように、秀一の腕に自分の腕を絡ませたレオが美姫を睨んだ。横顔でも美しいと思ったが、真正面に向かれると髪の毛と同じプラチナブロンドの眉毛と睫毛により、更に迫力が増した。エレガントなイギリス英語の発音でズケズケと物を言う、人間離れした美しい少年を目の前に、美姫の思考が止まってしまう。
え……今……何て言ったの?
レオのアクアマリンの瞳には明らかな美姫への敵意が籠もっている。
こ、れは……秀一さんを恋愛の対象として好きってこと、だよね……
美姫はそう、確信した。
『美姫、紹介がまだでしたね。彼は……レナードです』
Leonaldだから、そう…呼ばれてたんだ……
秀一が愛称ではなく、本当の名前で紹介してくれた気遣いを美姫は嬉しく思いつつも、そのことにますますイライラしたように不服を募らせ、睨みつけるレナードにドキドキする。
美少年って、怒っていても美しいんだ……
『あの、美姫です。どうぞよろしく、レ…ナード』
やっぱり、呼べない……
喉の奥に詰まってしまう言葉を誤魔化すように、愛称ではなく、本来の名前で呼んだ。レナードは秀一を引っ張り込むように腕を絡ませ、フンッと美姫にソッポを向いた。秀一が困ったように眉を寄せる。
『レ…ほら、ちゃんと挨拶して下さい?』
美姫は、以前オーストリア料理のレストランにて兄弟弟子の方の話をしていた時の会話を思い出した。凄く若くて才能があるけど、気分屋で我儘なところがあるって話してたのは、レナードのことだったんだ……
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
329
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる