264 / 1,014
憂慮
3
しおりを挟む
誠一郎と凛子は同じホテルに滞在することになった。もちろんふたりには美姫と秀一が別の部屋に滞在していることにし、実際に両親が滞在している間は美姫は別に部屋をとってもらっており、荷物もそこに置かれていた。
今日からは、秀一さんと別の部屋なんだ......
そう思うと、美姫の胸は寂しさで引き裂かれそうだった。
あの事件があって以来、一人になったことはなかった。昼間は一人でいてもなんとか寂しさを紛らわすことが出来そうだが、夜眠るときに恐怖が心の奥底から這い上がってきそうで、それを考えるだけで身が竦んだ。だからと言って、何も状況を知らない両親に一緒の部屋で寝てほしいと頼むことも出来ない。
チェックインを済ませた秀一が誠一郎に鍵を渡した。
「ポーターが荷物を部屋に持って行きますが、一緒に部屋を見に行かれますか。それとも、すぐに観光されますか。
私はこの後仕事があるので、これで失礼しますが」
「どんな部屋か見てから、すぐに下りて観光するとするか。美姫も一緒に来るか?」
誠一郎に聞かれ、美姫は首を振った。
「いいえ、私はここで待ってますね」
両親の部屋がどんな感じなのか興味はあったが、たとえ僅かでも秀一とふたりきりの時間が欲しかった。
「秀一、またな。美姫、すぐ戻るから待っててくれ。じゃ、凛子。行くか」
「えぇ。では、秀一さん、また......」
美姫は寄り添って歩くふたりを見送った。
両親が去った後、秀一は『恋人』のパーソナルスペースへと侵入し、美姫の耳元で優しく囁いた。
「今日、観光が終わって帰って来たら、私の元へ戻って来て下さいね」
「え...」
美姫は秀一を見上げた。フレームの奥の瞳は優艶な輝きを放っていた。
「昼間貴女に会えない寂しさを、夜の貴女を独占することで癒して下さいませんか」
その言葉に、美姫はカーッと顔を真っ赤に染めた。
「わ、たしも...夜の秀一さんを......独占、したいです......」
緊張して詰まりそうになる言葉を必死に紡いで秀一に伝える。
「では、その時を楽しみに......行ってきますね」
秀一は美姫の華奢な手を取ると、手の甲に口づけを落とし、さっと身を翻して去って行った。美姫の鼓動は、秀一がエントランスを抜けて視界から消えてもまだ、落ち着くことはなかった。
今日からは、秀一さんと別の部屋なんだ......
そう思うと、美姫の胸は寂しさで引き裂かれそうだった。
あの事件があって以来、一人になったことはなかった。昼間は一人でいてもなんとか寂しさを紛らわすことが出来そうだが、夜眠るときに恐怖が心の奥底から這い上がってきそうで、それを考えるだけで身が竦んだ。だからと言って、何も状況を知らない両親に一緒の部屋で寝てほしいと頼むことも出来ない。
チェックインを済ませた秀一が誠一郎に鍵を渡した。
「ポーターが荷物を部屋に持って行きますが、一緒に部屋を見に行かれますか。それとも、すぐに観光されますか。
私はこの後仕事があるので、これで失礼しますが」
「どんな部屋か見てから、すぐに下りて観光するとするか。美姫も一緒に来るか?」
誠一郎に聞かれ、美姫は首を振った。
「いいえ、私はここで待ってますね」
両親の部屋がどんな感じなのか興味はあったが、たとえ僅かでも秀一とふたりきりの時間が欲しかった。
「秀一、またな。美姫、すぐ戻るから待っててくれ。じゃ、凛子。行くか」
「えぇ。では、秀一さん、また......」
美姫は寄り添って歩くふたりを見送った。
両親が去った後、秀一は『恋人』のパーソナルスペースへと侵入し、美姫の耳元で優しく囁いた。
「今日、観光が終わって帰って来たら、私の元へ戻って来て下さいね」
「え...」
美姫は秀一を見上げた。フレームの奥の瞳は優艶な輝きを放っていた。
「昼間貴女に会えない寂しさを、夜の貴女を独占することで癒して下さいませんか」
その言葉に、美姫はカーッと顔を真っ赤に染めた。
「わ、たしも...夜の秀一さんを......独占、したいです......」
緊張して詰まりそうになる言葉を必死に紡いで秀一に伝える。
「では、その時を楽しみに......行ってきますね」
秀一は美姫の華奢な手を取ると、手の甲に口づけを落とし、さっと身を翻して去って行った。美姫の鼓動は、秀一がエントランスを抜けて視界から消えてもまだ、落ち着くことはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる