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恋しい……

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 秀一が去ってから暫くして誠一郎と凛子がロビーへと戻り、3人はランチをすることにした。

 ホテル周辺の地理はだいぶ分かってきたので、美姫はホテルから徒歩15分程の場所にある、シュテファン大聖堂に行く際にザックがお勧めだと行っていたパラチンケンが人気のレストランへ行くことにした。パラチンケンとは、肉や野菜、チーズをクレープ生地で包んだ料理のことで、美姫もまだ実際には食べたことがなかった。

「こうして家族で旅行なんて久しぶりだな」

 誠一郎はワクワクした様子で、ウィーン風と頭に名前のついたパラチンケンを口にした。

 美姫は秀一が隣にいない寂しさを感じつつも、夜には会えるのだと思うと、両親への罪悪感を感じながらも、先程までの不安が払拭されていくのを感じていた。

「私も、久々に長く一緒に過ごすお父様とお母様との旅行、楽しみにしていたんですよ」

 誠一郎は可愛い愛娘の言葉に目尻を緩ませた。

「おぉ、旅行の間、どんどん我儘を言っていいんだぞ。美姫にはいつも寂しい思いをさせているからな」
「まぁ、貴方ったら。また秀一さんに美姫を子供扱いしないで下さいって窘められますよ」

 凛子から出た秀一の名前に鼓動が跳ねつつも、美姫は無邪気を装って笑った。

 秀一さんの名前が出るたびにチクリと胸が痛み、罪悪感が募っていく。秘密の関係を続けていくためには、慣れていかないといけないんだよね......

 ランチを済ませた後、ホーフブルク王宮へと向かうことにした。

 フォルクス公園に沿ってホーフブルク王宮へと向かっていると、美姫は一昨日の夜のことが自然に思い出された。

 あの時は秀一さんに避けられている理由が分からなくて、すごく苦しくて、でもそんな自分を誤魔化すようにひたすら秀一さんに喋りかけてたっけ。

 その時の気持ちが蘇り、胸が絞られるように痛みを感じた。

 でも、そのお陰で私たちはお互いの愛情が深まったんだよね......

 美姫の視界の先には両親の姿があった。

 もし、私たちの関係をふたりが知ったら......どうなってしまうんだろう。なにがあっても、知られないようにしなくちゃ。
 私と秀一さんのためにも。そして、ふたりのためにも......誰も、傷つくことのないように......

 考え事をしていて足取りが遅くなった美姫に気づいたふたりが振り向き、足を止めて待っている。美姫は笑顔でふたりの元へと駆け寄った。

 演じるんだ、無邪気で幸せな娘を。なんとしても......
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