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聖夜のプレゼント

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 タクシーを降りた先は昨日訪れたホーフブルク王宮のスイス門の前だった。

「クリスマスミサがもうすぐ始まりますよ」  

 え、ここって......
 あの少年合唱団が賛美歌を歌っている教会、だよね......

 昨日ここに観光に来て、いつかあの歌声を聴いてみたいと思っていたことが、翌日に現実として叶うなんて......夢みたい。

「これが礼拝のチケットになります」

 そう言って、秀一は教会に入る前に皆にチケットを配った。

 クリスマスミサに礼拝するのにチケットがいるというのは宗教行事として考えると不思議な気がしたが、この王宮礼拝堂のクアイア(聖歌隊)は世界でも人気のある少年合唱団が務めているため、チケットを取らなければ席を確保することが出来ないのだった。

 500年以上の伝統をもつこの合唱団は全寮制で徹底して鍛えられた頭声発生の美しさから「天使の歌声」と言われ、世界的にその名が知られている。

 スイス門を抜け、左側にある階段を上った王宮礼拝堂へと向かう。

 秀一が取っていたのは1階の座席だった。チケットの料金は一律ではなく、座席に応じて値段が変わる。座席は普通の椅子であり、教会でよくあるベンチタイプの椅子ではなかった。

 司祭の話や説教はドイツ語だけではなく英語もあり、さすが観光客の多い教会、といった感じだった。

 合唱団は上段後方で歌っていた為、通常の賛美歌の際に姿を見ることは出来なかったが、最後にステージで賛美歌を歌った。その途端、一斉に皆のビデオとカメラのフラッシュが焚きつけられ、教会の厳かな雰囲気を一気に消し去った。

 それでも、少年達の歌声はまさに「天使の歌声」そのもので、透き通るような美しい歌声を躰に浴びているだけで、自分の身も心も洗われていくような気持ちになった。

 感動でまた涙を潤ませる美姫に凛子が微笑み、再びハンカチを渡した。

 それを受け取りながら、美姫は少し心の中で安堵した。

 お母様は私がただの感動屋で、秀一さんが演奏した時にもただ単に感動して涙を溢したのだと思ってくれたかもしれない......

 現に凛子は何も言わず、気にするような素振りすら見せていなかった。
 
 大丈夫、私たちの関係はふたりには知られていない......
 .....お願い、気づかないで...どうか、お願いします......
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