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聖夜のプレゼント

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 帰りのタクシーの中では誠一郎と凛子は興奮冷めやらぬ様子で、モルテッソーニ主催のクリスマスコンサートや王宮礼拝堂でのクリスマスミサについて話が弾んでいた。

「今日は素敵なクリスマスイブの夜を過ごせましたわ。秀一さん、ありがとうございました」
「あぁ、コンサートもクリスマスミサも素晴らしかったな」

 そんなふたりに秀一は微笑んだ。

「兄様達に喜んで頂けて光栄です」
「カミルの『アヴェ・マリア』も素敵でしたけど、教会での賛美歌の合唱は美しい音が折り重なって空にまで響くようで...素敵でした......」

 美姫の言葉に、秀一は少し影を帯びた笑みを見せた。

「実はカミルも以前、あの合唱団に所属していたのですよ」
「えぇっ!!そう、だったんですか......」
「えぇ。彼はソプラノパートを担当していたのですが、あの合唱団は変声するかギムナジウムというヨーロッパの中高一貫校に相当する学校を卒業する年になると退団しなければならないのです。
 カミルはその後声楽家ではなくピアニストとしての道を選び、国立音楽大学に入学し、プロのピアニストとして成功したので幸運でしたが、合唱団に所属していた生徒のうち音楽関係の仕事に就けるのはわずか2割程度だと聞いています」

 そんなに厳しい世界なんだ......

 穏やかで愛くるしいカミルにそんな過去があったことを驚きつつも、皆それぞれ若いながらも自分の夢に向かって前進していることを思うと、立ち止まっている自分を心苦しく思う美姫だった。

 ホテルのエレベーターに全員で乗り、美姫が先に降りる。

「では、また明日......」
「えぇ。美姫、お休みなさい。ゆっくり休んで下さいね」
「またな」

 美姫に声を掛けるふたりの後ろに立ち、秀一は沈黙したまま優艶な笑みを彼女に送った。美姫は緩みそうになる頬を引き締め、3人を見送った。

 エレベーターの扉が閉まると、一気に緊張感が解け、先ほどの秀一の笑みを思い出し、引き締めていた頬が緩んだ。

 もぉ、あんな笑み...反則......

 エレベーターはなかなか来ず、ジリジリとした思いで待ち続け、ようやく乗り込むと美姫の気持ちが高揚してくる。

 最上階で降り、早足で廊下を渡ると電子キーで扉をそっと開けた。
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