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綱渡りの会話

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 美姫は凛子がベッドについてからも結局一睡もすることなく、朝を迎えた。

 「美姫...疲れてるみたいですけど、大丈夫ですか」

 凛子に心配そうに聞かれ、美姫は力なく微笑んだ。

 「たぶん、昨日のお酒がまだ残ってるんだと思います。調子に乗って飲み過ぎちゃいました」

 「今日はホテルでゆっくり過ごしますか」

 「いいえ、大丈夫です、お母様」

 凛子はまだ心配そうな表情だったが、スマホが鳴り、「ちょっとごめんなさいね......」そう言うと、別の部屋へと歩いて行った。

 しばらくして帰って来た凛子は、浮かない表情だった。

 「何かあったんですか?」

 今度は美姫が心配そうに覗き込む。

 「え、えぇ...ちょっと仕事のことで......」

 そう言った後、凛子は考え込むようにして沈黙した。

 仕事の話をされても私には分からないけれど、お父様が帰られてからというもの、お母様はずっと気になって仕方がないみたい。

 「......お母様、お父様のところへ行って差し上げて下さい」

 「み、き......」

 「お父様のことが気になって仕方がないのでしょう?私なら大丈夫ですから。
  秀一さんはお仕事で忙しいですけど、だいぶウィーンの地理にも明るくなりましたし、秀一さんのお友達もいますし」

 美姫はひとりになる不安を押し隠し、笑顔で明るく答えた。

 「でも......」

 気が進まない、というように躊躇する凛子に美姫が後押しをした。

 「きっとお父様も今おひとりで不安になってるかもしれませんよ。お母様がいらしたら、心強いと思います」

 その言葉に凛子は曖昧さを残しながらも頷いた。

 「本当に、ごめんなさいね......美姫」

 ウィーンから成田までは1日1本しか便が出ておらず、出発は13時20分だった。運良くキャンセルが出て1席空きがあったため、航空券を確保することが出来た。美姫は昨日の朝、父を見送った時と同じように、凛子をホテルのロビーで見送った。

 「お母様、お気をつけて」

 「本当に、こんなことになってしまってごめんなさいね」

 申し訳なさそうに言った後、考え込むような表情の後、重い口を開いた。

 「美姫...」

 だが、その後の言葉は出ることなく、口を噤んだ。その先を聞くのが怖くて、美姫は母に微笑んだ。

 「お父様によろしく伝えてください」

 「...えぇ......」

 「お母様、フライトに遅れてしまいますよ」

 凛子は美姫に促されるようにしてタクシーに乗り、去って行った。残された美姫は、凛子の乗ったタクシーを見つめていたが、暫くして深い息を吐いた。

 これから、どうしよう......
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