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暴かれる過去
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秀一、さん……
美姫は、以前祖父が秀一の母親のために建てたというコンサートホールで、秀一が初めて美姫に自分の過去について話した時のことを思い出した。
『あの人と私を繋いでいたものは、血でもましてや情でもなく……ピアノ、でした……』
そう話した時の、秀一の脆く、繊細で寂しげな表情。それは、父親に愛されることのなかった孤独な少年時代の影を思わせた。
けれど、真実は違ったのだ。
秀一さんは、どんな形であれ……お祖父様に愛されていたんだ。お祖父様は、秀一さんに無関心なふりをすることで、彼を守ろうとしていた。そして秘かに、自分の後継者に据えることすら考えていたなんて。
けれど、幼かった秀一さんには、そんなお祖父様の真意に気づくことなど到底出来るはずなかった。
ずっと、ずっと、寂しい思いをしていたんだ……
美姫の目尻から熱い涙が溢れ、頬を伝っていた。
お父様は、そんな秀一さんに嫉妬しつつも、彼のピアニストとしての道が開けるように祈っていたんだ。父親に愛されずに苦しみ、その父親に愛されている弟に嫉妬と羨望を抱きながらも、それでも秀一さんを弟として愛していただなんて……
胸が痛くて、息が出来ない。
人を愛するって、幸せな感情だけじゃない。
辛くて、悲しくて……時には、憎しみさえ伴うこともあるんだ。
なんて、切なく、苦しいんだろう。
「……ック。そんな話、到底信じられません。
私は、あの人に愛されてなどいませんでした。そんなこと、ありえません……ッ」
秀一はそう言って、再び喉を詰まらせた。心の中で葛藤し、混乱しているようだ。
そんな秀一に確信を突くように、誠一郎がはっきりと告げた。
「お前に『秀一』という名前がつけられているのもそうだ。父様は、自分の名前『嘉一』に因んだ名前をお前に授けた。単に、次男であるお前に『一』が使われているというだけではない。『嘉』には、立派で優れているという意味があり、『秀』は、優れている人やものを表す。
望まれて生まれてきたのは私じゃない。秀一、お前なんだ」
誠一郎の低い呻き声が漏れた。
「私は、父様からも母様からも愛されることなく育った。母様が私に向けていたのは愛情では、なかった。来栖財閥の後継者を産むことにより、自分の居場所をより強固にするための、私は単なる道具にすぎなかった。
そして、私は守ってやりたい、大切にしたい……と思っていたはずの弟のお前にさえも嫉妬と羨望を抱き、避けるようになり……空虚だった私の心を、凛子が救ってくれた。
私には、彼女しかいない。凛子と、どうしても一緒になりたかったんだ……
荒木さんを止めなければ、ふたりに告げなければ、どうなるかは分かっていた。だが、悪魔が私に囁いたのだ。
『このまま放っておけば、おまえは幸せになれる。全てうまくいく』、と」
そ、んな……
秀一の言葉を聞いてすら、子供が親に殺意を抱くだなんて、しかもそれがあの優しく穏やかで愛情深い父だなんて嘘だ……という思いが、美姫の心のどこかにまだ残っていた。
だが、父から祖父母に対する殺意を聞かされ、美姫の心は打ち砕かれた。
美姫は、以前祖父が秀一の母親のために建てたというコンサートホールで、秀一が初めて美姫に自分の過去について話した時のことを思い出した。
『あの人と私を繋いでいたものは、血でもましてや情でもなく……ピアノ、でした……』
そう話した時の、秀一の脆く、繊細で寂しげな表情。それは、父親に愛されることのなかった孤独な少年時代の影を思わせた。
けれど、真実は違ったのだ。
秀一さんは、どんな形であれ……お祖父様に愛されていたんだ。お祖父様は、秀一さんに無関心なふりをすることで、彼を守ろうとしていた。そして秘かに、自分の後継者に据えることすら考えていたなんて。
けれど、幼かった秀一さんには、そんなお祖父様の真意に気づくことなど到底出来るはずなかった。
ずっと、ずっと、寂しい思いをしていたんだ……
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お父様は、そんな秀一さんに嫉妬しつつも、彼のピアニストとしての道が開けるように祈っていたんだ。父親に愛されずに苦しみ、その父親に愛されている弟に嫉妬と羨望を抱きながらも、それでも秀一さんを弟として愛していただなんて……
胸が痛くて、息が出来ない。
人を愛するって、幸せな感情だけじゃない。
辛くて、悲しくて……時には、憎しみさえ伴うこともあるんだ。
なんて、切なく、苦しいんだろう。
「……ック。そんな話、到底信じられません。
私は、あの人に愛されてなどいませんでした。そんなこと、ありえません……ッ」
秀一はそう言って、再び喉を詰まらせた。心の中で葛藤し、混乱しているようだ。
そんな秀一に確信を突くように、誠一郎がはっきりと告げた。
「お前に『秀一』という名前がつけられているのもそうだ。父様は、自分の名前『嘉一』に因んだ名前をお前に授けた。単に、次男であるお前に『一』が使われているというだけではない。『嘉』には、立派で優れているという意味があり、『秀』は、優れている人やものを表す。
望まれて生まれてきたのは私じゃない。秀一、お前なんだ」
誠一郎の低い呻き声が漏れた。
「私は、父様からも母様からも愛されることなく育った。母様が私に向けていたのは愛情では、なかった。来栖財閥の後継者を産むことにより、自分の居場所をより強固にするための、私は単なる道具にすぎなかった。
そして、私は守ってやりたい、大切にしたい……と思っていたはずの弟のお前にさえも嫉妬と羨望を抱き、避けるようになり……空虚だった私の心を、凛子が救ってくれた。
私には、彼女しかいない。凛子と、どうしても一緒になりたかったんだ……
荒木さんを止めなければ、ふたりに告げなければ、どうなるかは分かっていた。だが、悪魔が私に囁いたのだ。
『このまま放っておけば、おまえは幸せになれる。全てうまくいく』、と」
そ、んな……
秀一の言葉を聞いてすら、子供が親に殺意を抱くだなんて、しかもそれがあの優しく穏やかで愛情深い父だなんて嘘だ……という思いが、美姫の心のどこかにまだ残っていた。
だが、父から祖父母に対する殺意を聞かされ、美姫の心は打ち砕かれた。
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