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決裂

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 だが、久美の企みは、彼女の意図せぬ方向へと流れていた。

 美姫にとって、秀一は絶対者だ。

 父にふたりの関係が露呈した際......両親への裏切り、来栖財閥への多大な影響を突きつけられ、父に別れを迫られてすら、美姫は迷いながらも秀一を選んだ。

 礼音への酷い制裁が発覚したところで、いや、どんなことが露呈しようとも、美姫の秀一への気持ちが揺るぐことなど、ありえなかった。

 美姫に湧き上がる感情。

 それは秀一への嫌悪、失望、恐怖などではなく。
 自分という存在が、秀一を狂わせていることへの落胆と絶望だった。

 秀一さんの残酷な行動は、私への深い愛情によるもの。私こそが、秀一さんを狂気へと駆り立てている張本人なんだ......

 脳裏に焼きついた礼音の凄惨な姿が浮かび上がり、悪魔のような所業を秀一にさせてしまったことに対して、美姫は深い自責の念にかられた。

 久美は、自分はなんでも分かっているんだというように猫なで声を出した。

「......控室での、行為の写真。あれは、来栖秀一に無理やりさせられたんでしょ?美姫が、望んでするはずないって、私は分かってる。
 あの男は、美姫の愛情を手玉にとって弄んでるんだけなのよ!さっさと別れないと、そのうち、美姫にまで手を出してくるかもしれないのよ!」

 なんとしてでも、美姫をあの悪魔から引き離したい......
 
 優しい言葉の裏に隠された爪は、今にも鋭く引き裂こうと待ち構えていた。

「そ、んなこと......絶対、に......ない」

 美姫は声を震わせながらも、それだけは揺るぎない自信を見せた。

 秀一さんが礼音を傷つけたのは、私を襲った礼音に対して制裁を下し、二度と襲うことのないように私から守る為だった。そんな秀一さんが、私に対して刃を向けることなど、ありえない。

 美姫は、控室での激しい行為を思い出していた。

 ......あれは、私から秀一さんに激しく乞い、求めた結果の行為。秀一さんはただ、それに応えてくれただけ。

 だが、それを説明するには、あまりにも複雑な事情が絡み過ぎていた。

 久美は大袈裟に溜息を吐いた。

「......どっちにしても、美姫。あなたはもう、来栖 秀一とは別れるしかなくなる。
 明日......この週刊誌が、発売される時にはね」

 明日......!!!

 美姫は愕然とした。

 送りつけられたものが週刊誌のコピーだと分かっていても......

 それは単なる脅しではないのか。
 本当に週刊誌に載せる気などないのではないか。

 そんな僅かな希望を美姫は持っていた。

 だがそれは、久美の言葉によって粉々に打ち砕かれた。

「久、美......お、ねがっ、お願い... だ、から......そんな、こと......しない、で」

 美姫の悲痛な声を聞き、久美の良心の呵責が呼び覚まされそうになる。それを抑えつけるように喉を鳴らす音が、美姫の耳に響いた。

 久美にとって私は、ただの憎しみの相手でしかないの!?

 美姫は、絶望に打ち拉がれた。

 突然、美姫の手から受話器が取り上げられた。


「何が望みですか。金でしたら、あなたが仰る金額を用意しましょう」


 頭上から降り注いだその声を聞き、美姫は後ろを振り仰いだ。
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