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 大和にそう言われれば言われるほど、美姫の罪悪感は募っていく。

「私に、大和の子供を産む資格なんて、ないよ。大和を、裏切ってしまった……
 ごめ……ッグ。ごめ、なさ……ウッ、ウッ」

 大和はハンドルに両肘を乗せ、頭を抱え込んだ。

 嫌だ。嫌だ……
 このまま美姫を、失いたくない。あいつには、絶対に渡さねぇ……

 大和は顔だけを上げ、美姫に向けた。

「お前がそう言うなら。
 俺を裏切ったと思うのなら、だからこそ俺との子供を産んでくれ。

 もう、あいつのことは考えるな。これからは、俺とこれから産まれてくる子供の為に生きてくれ」

 美姫は眉を寄せ、苦しみに満ちた表情で大和を見つめた。

「な、に……言ってるの。
 無理、だよ……」

 これ程に深い秀一への想いを抱えたまま、子供を産むことなど美姫には考えられなかった。
   
 例え、秀一さんに軽蔑されて嫌われてしまっても……

 秀一の目の前で大和と口づけたことにより、彼の怒りと嫉妬を買ってしまった。大和が口づけたのも、秀一が迫ってきたのも彼らからだが、その引き金を引いたのは自分なのだ。

 大和にも秀一にも愛される資格などないと、美姫は自分を責めていた。

「美姫は、お父さんに孫の顔を見せたいって言ってたんじゃなかったのか!?
 お父さんは、もう長くないかもしれないんだぞ!」
「ッッ……」

 父のことを引き合いに出され、美姫は反論出来なくなった。

 大和は眉を下げ、美姫に言い聞かせるように話しかけた。

「俺たちは、これから夫婦として新たな道を歩んでいくんだ。お互い、過去のことは忘れよう。
 子供を作って、幸せな家庭を築くんだ。それが、お父さんもお母さんも、望んでることなんだ」

 美姫は唇を震わせ、俯いた。

 1週間後に行われた誠一郎の2回目の手術は無事成功した。1ヶ月もすれば、退院出来るという。だが、医師の話ではまた発作を起こせば、今度こそ命の危険に関わるとのことだった。

 美姫はもう、自分の意思など考えている場合ではないと思った。

 一刻も早く父に孫の顔を見せてあげたい。
 そして、父の夢を叶えてあげたい。

 たとえ、忘れられない人が心の中にいても……

 もう、秀一とは仕事以外では会うべきではない。叶うことのない恋ならば、心の奥底にその想いは沈めるしかないのだ。

 美姫は、苦渋の決断をするしかなかった。

 それ以外の道が、考えられなかった……
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