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After Story2 ー夢のようなプロポーズー
黒薔薇の花言葉−2
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秀一がフゥーッと溜息を吐く。
「少し目を離すとこれですから……まったく、安心出来ませんね。
大丈夫でしたか、美姫?」
秀一は守るように、美姫の肩を抱いた。
普段の生活でRTS(レイプトラウマ症候群)の症状が出ることはなくなり、もう薬を飲む必要もなくなった。礼音に凌辱された事実を受け止められるようになったことで、男性への不信感も小さくなり、握手やハグも普通に交わせるようになっていた。
けれど、男性に厭らしい目つきで見られたり、危険を感じるような状況になると、9年の月日を経てもあの時の恐怖がまざまざと蘇り、躰が硬直し、声が出なくなる。美姫の心の傷が完全に癒されることは、一生ないだろう。
「すみ、ません……大丈夫です」
美姫はいつも自分の身を案じ、守ってくれる秀一に対して申し訳なくなり、肩を竦めた。
そうしながらも、秀一が相手の男性から『私の妻』だと言って守ってくれたことが、堪らなく嬉しかった。
秀一は気を取り直すと、美姫の目の前に花束を差し出した。
「結婚の、記念に……」
渡されたのは美姫の好きな薔薇だったが、それは今まで見たことのない種類のものだった。
「黒薔薇、ですか?」
まるで闇を纏っているかのような、ベルベットの質感をした黒味の強い濃い薔薇だった。動脈を思わせる赤黒さは毒々しくありながらも、心奪われる神秘的な魅力を放っている。
「えぇ。ブラック・バカラという種類の黒薔薇です」
美姫が見つめていると、秀一が耳元に唇を寄せた。
「花言葉には『恨み』や『憎しみ』もありますが、私が込めたのは……
『貴女はあくまで私のもの』そして、『決して滅びることのない、永遠の愛』です」
黒薔薇に込められた花言葉は、まさに秀一の愛そのものだと美姫は感じた。
執着と独占欲を感じさせるその花言葉に恐ろしさを感じる女性は、決して少なくないだろう。
けれど美姫にとって秀一という黒薔薇は、棘を含んでいてさえも美しく、華やかでいて、誇りと気高さを持ちながら孤高で……抗えないほどに惹きつけられる魔力を持っている。
ブラック・バカラに鼻を近づけると、ほんのりと香りが漂ってきた。
「ありがとうございます。大切に、しますね」
秀一は微笑んで頷くと、美姫の肩に腕を回した。
「では、また良からぬ輩に貴女の美しさが触れぬうちに、ふたりの住処へ戻りましょうか」
「はい……」
通り過ぎてしまった車まで引き返し、秀一の開けてくれた助手席に乗り込んだ。
「少し目を離すとこれですから……まったく、安心出来ませんね。
大丈夫でしたか、美姫?」
秀一は守るように、美姫の肩を抱いた。
普段の生活でRTS(レイプトラウマ症候群)の症状が出ることはなくなり、もう薬を飲む必要もなくなった。礼音に凌辱された事実を受け止められるようになったことで、男性への不信感も小さくなり、握手やハグも普通に交わせるようになっていた。
けれど、男性に厭らしい目つきで見られたり、危険を感じるような状況になると、9年の月日を経てもあの時の恐怖がまざまざと蘇り、躰が硬直し、声が出なくなる。美姫の心の傷が完全に癒されることは、一生ないだろう。
「すみ、ません……大丈夫です」
美姫はいつも自分の身を案じ、守ってくれる秀一に対して申し訳なくなり、肩を竦めた。
そうしながらも、秀一が相手の男性から『私の妻』だと言って守ってくれたことが、堪らなく嬉しかった。
秀一は気を取り直すと、美姫の目の前に花束を差し出した。
「結婚の、記念に……」
渡されたのは美姫の好きな薔薇だったが、それは今まで見たことのない種類のものだった。
「黒薔薇、ですか?」
まるで闇を纏っているかのような、ベルベットの質感をした黒味の強い濃い薔薇だった。動脈を思わせる赤黒さは毒々しくありながらも、心奪われる神秘的な魅力を放っている。
「えぇ。ブラック・バカラという種類の黒薔薇です」
美姫が見つめていると、秀一が耳元に唇を寄せた。
「花言葉には『恨み』や『憎しみ』もありますが、私が込めたのは……
『貴女はあくまで私のもの』そして、『決して滅びることのない、永遠の愛』です」
黒薔薇に込められた花言葉は、まさに秀一の愛そのものだと美姫は感じた。
執着と独占欲を感じさせるその花言葉に恐ろしさを感じる女性は、決して少なくないだろう。
けれど美姫にとって秀一という黒薔薇は、棘を含んでいてさえも美しく、華やかでいて、誇りと気高さを持ちながら孤高で……抗えないほどに惹きつけられる魔力を持っている。
ブラック・バカラに鼻を近づけると、ほんのりと香りが漂ってきた。
「ありがとうございます。大切に、しますね」
秀一は微笑んで頷くと、美姫の肩に腕を回した。
「では、また良からぬ輩に貴女の美しさが触れぬうちに、ふたりの住処へ戻りましょうか」
「はい……」
通り過ぎてしまった車まで引き返し、秀一の開けてくれた助手席に乗り込んだ。
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