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After Story2 ー夢のようなプロポーズー
祝福の旋律ー1
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家に戻り、贈られた黒薔薇を花瓶に生けていると、一息吐く間もなくベルが鳴らされた。
誰、だろう……
美姫が玄関に向かおうとすると、秀一が制する。
「今日はふたりきりでゆっくりと過ごすと決めたのですから、気にしなくてもいいですよ」
「でも……」
反論の言葉は秀一の唇によって阻まれた。
「ンッ……ハァッ」
外の冷気で冷やされた唇が重なり合うたびに熱を持ち、熱くなってくる。
互いの躰を寄せ合い、更に深く口づけたところで、2度目のベルが鳴らされた。と、思ったら、3度目、4度目……と、連続でベルが鳴らされる。
唇が離れ、秀一がフーッと大きく溜息を吐く。
「まったく……」
秀一が立ち上がった。
「こんな真似をするのは、一人しか考えられませんね。
少し、お灸を据えてきます」
彼の背中にどす黒いオーラを感じ、美姫は未だにベルを鳴らし続ける主を不憫に思った。
秀一が大きな溜息と共に扉を開けると、そこには予想通りの人物が立っていた。
『シューイチー!
正式に夫婦になったんだって!?おめでとーーっっ!!』
ザックはクラッカーまで用意しており、威勢良くパーンと放ったが、秀一の反応は芳しくないものだった。
『ありがとうございます。では、失礼します』
『ちょちょちょ、ちょっと待ってよー!!せっかくわざわざお祝いに来たってのに、それはないでしょー。まだミキにも会ってないし!』
閉まりかけた扉に半身を突っ込み、ザックは必死に秀一に呼び掛けた。
そこへ、美姫が玄関に現れた。
『もしかして、って思ったけど、やっぱりザックだったんですね。
わざわざお祝いに来てくれたんですか?ありがとうございます』
笑顔で応対する美姫に、ザックの顔がパァーッと明るくなる。
『ほらほら、ミキは僕のこと待ってたんだよー。ねぇねぇ、今日はふたりとも休みなんでしょ? だったらさぁ、これからみんなで楽しいとこ出かけようよー!』
ザック、相変わらず元気だな……
ザックは美姫と秀一がウィーンに暮らし始めた頃には既にモルテッソーニの家から出て、ダウンタウンで一人暮らししていた。現在モルテッソーニの家に住んでいるのは、カミルだけだ。
この5年の間にザックに彼女がいたこともあったが、残念ながらどの人ともいい結果には実らず、未だ独身だ。そんなこともあってか、ザックはしょっちゅう秀一と美姫の家に入り浸っている。
とは言っても大抵秀一に素気無く帰されるのだが、美姫の説得により5回に1度は家に入れてもらえていた。
『どうして記念すべきこの日に、あなたと一緒に過ごさなくてはならないのですか。
迷惑ですので、今すぐ帰って下さい』
取り付く島もない秀一の言葉を聞き、ザックはよく諦めずに秀一の後を追いかけているものだと美姫は感心した。
そう、ザックがこんな秀一の言動で諦めるはずがなかった。
『ミキー! シューイチを説得してよー!!
僕だってさ、大事なふたりをお祝いしたいんだよ!これまでずーっと応援してきたんだからさぁ!!』
ザックに言われ、美姫は彼に対して強く言えなかった。
ウィーンに住んでから一番お世話になったのがザックだった。ウィーン滞在歴が長く、情報通で顔が広いザックはふたりが現在住んでいる家を紹介してくれ、ファッションの専門学校の情報も教えてくれた。
演奏会には必ず招待し、ふたりが非難されることのないよう、心配りをしてくれる。
何より彼には、いつだってその明るさと鷹揚さで救われてきた。
秀一とふたりだけの生活は甘く幸せに満ちたものではあったが、やはり周囲のこともあり、心苦しくなる時もあった。そんな時にザックの底抜けの明るさと楽天的な性格は、美姫にとってありがたかった。
美姫はおずおずと秀一を見上げた。
『せっかくザックがお祝いしてくれるって言ってますし、一緒に出かけませんか。
今日は1日予定を入れてませんし、まだ時間はたっぷりありますから……』
『さっすがミキ! 話が分かるねー』
ザックは上機嫌だったが、秀一は憮然とした表情を崩さない。
美姫は、今度は日本語で秀一にお願いした。
「ザックには色々とお世話になりましたし、私からもお礼がしたいんです。
お願いします……」
さすがの秀一も、美姫の頼みを断ることは出来なかった。
「分かりました……
けれど、その分夜の貴女は私が独占しますから、そのつもりで」
美姫の胸がトクンと跳ね、顔が赤く染まる。
ザックには理解出来ないと分かっていても、目の前で言われると恥ずかしい……
「分、かりました……」
誰、だろう……
美姫が玄関に向かおうとすると、秀一が制する。
「今日はふたりきりでゆっくりと過ごすと決めたのですから、気にしなくてもいいですよ」
「でも……」
反論の言葉は秀一の唇によって阻まれた。
「ンッ……ハァッ」
外の冷気で冷やされた唇が重なり合うたびに熱を持ち、熱くなってくる。
互いの躰を寄せ合い、更に深く口づけたところで、2度目のベルが鳴らされた。と、思ったら、3度目、4度目……と、連続でベルが鳴らされる。
唇が離れ、秀一がフーッと大きく溜息を吐く。
「まったく……」
秀一が立ち上がった。
「こんな真似をするのは、一人しか考えられませんね。
少し、お灸を据えてきます」
彼の背中にどす黒いオーラを感じ、美姫は未だにベルを鳴らし続ける主を不憫に思った。
秀一が大きな溜息と共に扉を開けると、そこには予想通りの人物が立っていた。
『シューイチー!
正式に夫婦になったんだって!?おめでとーーっっ!!』
ザックはクラッカーまで用意しており、威勢良くパーンと放ったが、秀一の反応は芳しくないものだった。
『ありがとうございます。では、失礼します』
『ちょちょちょ、ちょっと待ってよー!!せっかくわざわざお祝いに来たってのに、それはないでしょー。まだミキにも会ってないし!』
閉まりかけた扉に半身を突っ込み、ザックは必死に秀一に呼び掛けた。
そこへ、美姫が玄関に現れた。
『もしかして、って思ったけど、やっぱりザックだったんですね。
わざわざお祝いに来てくれたんですか?ありがとうございます』
笑顔で応対する美姫に、ザックの顔がパァーッと明るくなる。
『ほらほら、ミキは僕のこと待ってたんだよー。ねぇねぇ、今日はふたりとも休みなんでしょ? だったらさぁ、これからみんなで楽しいとこ出かけようよー!』
ザック、相変わらず元気だな……
ザックは美姫と秀一がウィーンに暮らし始めた頃には既にモルテッソーニの家から出て、ダウンタウンで一人暮らししていた。現在モルテッソーニの家に住んでいるのは、カミルだけだ。
この5年の間にザックに彼女がいたこともあったが、残念ながらどの人ともいい結果には実らず、未だ独身だ。そんなこともあってか、ザックはしょっちゅう秀一と美姫の家に入り浸っている。
とは言っても大抵秀一に素気無く帰されるのだが、美姫の説得により5回に1度は家に入れてもらえていた。
『どうして記念すべきこの日に、あなたと一緒に過ごさなくてはならないのですか。
迷惑ですので、今すぐ帰って下さい』
取り付く島もない秀一の言葉を聞き、ザックはよく諦めずに秀一の後を追いかけているものだと美姫は感心した。
そう、ザックがこんな秀一の言動で諦めるはずがなかった。
『ミキー! シューイチを説得してよー!!
僕だってさ、大事なふたりをお祝いしたいんだよ!これまでずーっと応援してきたんだからさぁ!!』
ザックに言われ、美姫は彼に対して強く言えなかった。
ウィーンに住んでから一番お世話になったのがザックだった。ウィーン滞在歴が長く、情報通で顔が広いザックはふたりが現在住んでいる家を紹介してくれ、ファッションの専門学校の情報も教えてくれた。
演奏会には必ず招待し、ふたりが非難されることのないよう、心配りをしてくれる。
何より彼には、いつだってその明るさと鷹揚さで救われてきた。
秀一とふたりだけの生活は甘く幸せに満ちたものではあったが、やはり周囲のこともあり、心苦しくなる時もあった。そんな時にザックの底抜けの明るさと楽天的な性格は、美姫にとってありがたかった。
美姫はおずおずと秀一を見上げた。
『せっかくザックがお祝いしてくれるって言ってますし、一緒に出かけませんか。
今日は1日予定を入れてませんし、まだ時間はたっぷりありますから……』
『さっすがミキ! 話が分かるねー』
ザックは上機嫌だったが、秀一は憮然とした表情を崩さない。
美姫は、今度は日本語で秀一にお願いした。
「ザックには色々とお世話になりましたし、私からもお礼がしたいんです。
お願いします……」
さすがの秀一も、美姫の頼みを断ることは出来なかった。
「分かりました……
けれど、その分夜の貴女は私が独占しますから、そのつもりで」
美姫の胸がトクンと跳ね、顔が赤く染まる。
ザックには理解出来ないと分かっていても、目の前で言われると恥ずかしい……
「分、かりました……」
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