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焦燥 ー秀一視点ー

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 呼出音が鳴る間、落ち着かない。

 『もしもし……』

 暫くして、ようやく電話が繋がった。

 「羽鳥、大和ですね」

 『来栖秀一……なんであんたが俺の番号を…』

 そんなことに答えている余裕などあるはずなく、早口で捲し立ててきた。

 「詳しいことを話している暇は今はありません。一刻を争う事態なのです。美姫に……危険が迫っているかもしれません。私は名古屋にいて、直ぐに新幹線に乗ったとしても間に合いません。貴方が今から言う住所に行って下さい」

 『え、ちょ…美姫が危ないって……そ、それより、警察には…』

 「警察に何と話せと?来栖家令嬢が襲われた、なんて世間に知られたらマスコミの格好の餌食になるでしょうね」
 
 『っっ……!!!てか、なんで、じゃああんたは俺に美姫の救出を頼むんだよ。分かってんのかよ、俺が美姫を好きだってこと』

 確かに普通の状況で考えれば、美姫の救出を羽鳥大和に頼むなど、ありえない。

 「えぇ…だから、貴方に頼んでいるのですよ。貴方なら何があろうと、命に替えても美姫を守るでしょうから。
  それに、貴方は美姫を傷付けることなど出来るはずないですし......美姫が、私の次に信頼をおいている男は...貴方、のようですので。
  もちろんこれは本意ではありませんが、この状況での最上の選択肢と言わざるをえないでしょう。つべこべ言っている時間はありませんよ。やりますか?やらないのですか?」

 美姫がそれ程の危機に直面していると感じたのか、グッと押し殺した声が耳に響いた。

 『ック……やるよ』

 「そう言うと思っていましたよ。では、これから言う住所に向かって下さい。裏稼業専門の鍵屋を手配しましたので、彼が鍵を開けてくれるはずです」

 住所と家主の名前を告げる。

 「頼みましたよ……」

 『あんたの為じゃない、美姫の為だ……』

 「分かっています。では後ほど、貴方の家に美姫を引き取りに伺います」

 電話を切ると、深い溜息が漏れた。

 美姫、どうか無事で……
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