上 下
34 / 108
不慮の事故

しおりを挟む
「どうして、直がここに……」

 ショックを受ける僕同様、直もまた、ショックを受けていた。

「ゆ……き、お兄……ちゃ、ま……その、格好……」

 直に言われ、僕は初めて自分が裸で手を拘束され、コックリングをつけた状態でいたことを思い出した。

 勝太、ロイヤル、ダリア、創一様とは躰を重ねているけど、僕は直に対してはプラトニックな純愛を貫いている。

 体格がいいからといって、直は10歳だ。いくら僕が淫らで快楽に弱いからと言って、直の躰を抱こうとは思わない。

 直は僕の天使だから。厭らしくて穢れている自分を見せないようにしてたんだ。直には、いつまでも清くて純粋で、僕の隣で優しく笑っていて欲しかったから。

「な、に……こ、れ……」

 直の顔が蒼白になっていく。

「……誰かに、酷いことされたの?」
「ち、違うんだ、直……」

 上擦った声で聞く直に、カラカラに乾いて引っ付きそうな喉から声を絞り出して答える。

 どう、しよう……また、直が壊れちゃう。
 創一様はどこに行っちゃったの? あの時みたいに、助けてよ。

 早く、早く……僕の元に、現れて……

 直は、全身を震わせた。

「お母さん……お母さんに、されたんだ」
「違う!これは、虐待なんかじゃない! 僕は……ただ、遊んでただけなんだ」
「僕が、いい子じゃないから……それで、お母さんが怒って……お母さんが、僕なんか産まなければよかったって」

 直は僕の目の前にいるのに、僕を通り越して過去の自分を見ていた。全身を震わせ、恐怖に怯えている。

 僕は急いで縄を外そうと藻掻いたけど、しっかりと結ばれたそれは安易には解くことが出来ない。

 直の傍に行き、安心させるように笑顔を見せた。

「ほら、僕は全然痛いことなんてされてないよ。大丈夫だよ、直。安心して?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、お母さん……いい子にするから、僕いい子にするから……ぶたないで、お願い……」

 直は躰を小さくし、自らの躰を抱き締めた。

「直、お願いだから落ち着いて……病院に、病院に行こう?」

『病院』という言葉を聞き、直は大きく躰を震わせた。

「や、やだ……こ、こわ……病院、行きたくない……ウッウッ……ヒクッ」

 やがて直は床に倒れると、激しく痙攣し始めた。空いた口をパクパクさせ、泡を吹き出している。

「直!直!しっかりして!!直ーーっっ!!」

 必死で呼びかけるけど、直は白目を剥いたまま痙攣し続けた。

「ウッ……ウゥッ……ゃ、やだ……直……ウゥッ」

 助けて。
 誰でもいいから、助けてよ……
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

子供を産めない妻はいらないようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,093pt お気に入り:274

あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,820pt お気に入り:1,657

巻き添えで異世界召喚されたおれは、最強騎士団に拾われる

BL / 連載中 24h.ポイント:4,462pt お気に入り:8,538

本好きウサギは巣穴で眠る

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:157

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,053pt お気に入り:3,090

BLゲームのモブ(俺)は誰にも見つからないはずだった

BL / 連載中 24h.ポイント:376pt お気に入り:5,023

処理中です...