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愛の為に
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それから、直貴の瞳を覗き込んだ。
「でもね……直貴の過去は……楽しいことばかりじゃないよ? 辛くて、苦しくて……忘れたくて忘れたことも、いっぱいあるんだ。
それでも、知りたいの?」
僕は、直貴に辛い過去を思い出させたくない……
そんな僕の思いとは裏腹に、直貴は黙って頷いた。
それを認めた僕は、盛大な溜息を吐いた。
「そっち、行ってもいい?」
直貴の意思を確認すると、僕は彼のすぐ隣に椅子を移動させ、腰掛けた。
直貴の手を握り、深呼吸してから重い口を開く。
「僕が……直貴の痣に初めて気がついたのは、まだ僕たちが小等部に入る前だった。肘だけじゃなく、裾捲ったら膝とかにも赤黒い痣があったの、覚えてる?」
直貴は無言で首を振った。彼の躰が緊張しているのが、指先から伝わって来る。
「そっか……」
ーー直貴はお母さんから、虐待を受けてたんだよ。
そう言いかけて、踏みとどまった。
ずっと直貴に秘密にしていた言葉を、僕の口は言いたくないと駄々を捏ねる。僕は、直貴が覚えていそうな事実を拾っていくことにした。
「小等部の時にさ、僕が間違って直貴の更衣室開けちゃったことあったの、覚えてる?」
「そんなこと、あったっけ? なんか、僕の中の記憶が曖昧で……よく、覚えてないんだ。夕貴といつも一緒にいたって、その感覚だけしか」
直貴は少し寂しそうに微笑んだ。
「そん時さ、見ちゃったんだよね……直貴の手首のとこにリストカットがあったの」
「ぇ……」
直貴は蒼白になり、それから僕が握っていた手を解いて反対側の長袖を少し捲った。手首に残った、昔つけられたリストカットの痕は白く浮き上がってミミズ腫れとなり、それが何本も並んでいた。
「何……こ、れ……」
直貴は、まるで初めて見たかのようにビックリし、さらに袖を上に捲る。手首と肘の間には、赤い線が入っている。かさぶたになっている生々しいものもあった。と同時に、そこにあった鬱血した痣が幾つもあるのを見て、ビクッと震えた。
「ヒッ!! ……ウッ、ウッウッうぁぁああああああああ!!」
直貴が頭を抱えて力任せに首を振り、全身を震わせた。
「痛いっ!! 痛い!! お願い、ぶたないで!! ……ッごめ、ごめ、な……さ……ヒック」
「直貴! 直貴!!」
直貴を抱き締め、安心させるように背中を撫でた。
「もう、終わったんだ……直貴……終わったんだよ……」
「ぼ、僕が……いい子じゃないから……ウッウッ……」
「直貴はいい子だよ。僕は知ってる……直貴は優しくて、いい子だって」
「やだ……やだ……痛いのは、やだ……お母さん、お願い……ぶたないで……ごめん、ごめんな、さ……」
「直貴……」
「ぅわぁぁぁぁぁぁんっっ!!」
僕の腕の中で、涙が枯れ果てるかと思うぐらい泣いて泣いて泣いて……それは、直貴なのか、直なのか……僕にもよく分からなかった。
それから直貴は痙攣を起こし、意識を失った。
こ、んな……辛い事思い出させて、苦しませて……本当にこれは、必要なの?
僕の腕の中でぐったりする直貴を見て、心が重くなった。
それまでずっと静観していたカウンセラーが、僕の元に歩み寄った。
「直貴くんは、過去に自分が虐待を受けていた事を知り、悲しみ、憤り、怒り……様々な感情が溢れ出し、処理しきれない状態にあります。一時期は鬱状態が酷く続くかもしれません。けれど、それを乗り越える事が出来れば、虐待体験を自分の中に取り入れ、過去の痛みを背負わせていた素直くんと統合出来るようになるのです。
夕貴くんにとっても辛いことかもしれないけど、今の直貴くんにとって君が大きな支えになってるんだ。協力してくれないかな?」
僕は迷いつつも、「分かった……」と答えた。
それが、本当に直貴と直の為になるなら……
「でもね……直貴の過去は……楽しいことばかりじゃないよ? 辛くて、苦しくて……忘れたくて忘れたことも、いっぱいあるんだ。
それでも、知りたいの?」
僕は、直貴に辛い過去を思い出させたくない……
そんな僕の思いとは裏腹に、直貴は黙って頷いた。
それを認めた僕は、盛大な溜息を吐いた。
「そっち、行ってもいい?」
直貴の意思を確認すると、僕は彼のすぐ隣に椅子を移動させ、腰掛けた。
直貴の手を握り、深呼吸してから重い口を開く。
「僕が……直貴の痣に初めて気がついたのは、まだ僕たちが小等部に入る前だった。肘だけじゃなく、裾捲ったら膝とかにも赤黒い痣があったの、覚えてる?」
直貴は無言で首を振った。彼の躰が緊張しているのが、指先から伝わって来る。
「そっか……」
ーー直貴はお母さんから、虐待を受けてたんだよ。
そう言いかけて、踏みとどまった。
ずっと直貴に秘密にしていた言葉を、僕の口は言いたくないと駄々を捏ねる。僕は、直貴が覚えていそうな事実を拾っていくことにした。
「小等部の時にさ、僕が間違って直貴の更衣室開けちゃったことあったの、覚えてる?」
「そんなこと、あったっけ? なんか、僕の中の記憶が曖昧で……よく、覚えてないんだ。夕貴といつも一緒にいたって、その感覚だけしか」
直貴は少し寂しそうに微笑んだ。
「そん時さ、見ちゃったんだよね……直貴の手首のとこにリストカットがあったの」
「ぇ……」
直貴は蒼白になり、それから僕が握っていた手を解いて反対側の長袖を少し捲った。手首に残った、昔つけられたリストカットの痕は白く浮き上がってミミズ腫れとなり、それが何本も並んでいた。
「何……こ、れ……」
直貴は、まるで初めて見たかのようにビックリし、さらに袖を上に捲る。手首と肘の間には、赤い線が入っている。かさぶたになっている生々しいものもあった。と同時に、そこにあった鬱血した痣が幾つもあるのを見て、ビクッと震えた。
「ヒッ!! ……ウッ、ウッウッうぁぁああああああああ!!」
直貴が頭を抱えて力任せに首を振り、全身を震わせた。
「痛いっ!! 痛い!! お願い、ぶたないで!! ……ッごめ、ごめ、な……さ……ヒック」
「直貴! 直貴!!」
直貴を抱き締め、安心させるように背中を撫でた。
「もう、終わったんだ……直貴……終わったんだよ……」
「ぼ、僕が……いい子じゃないから……ウッウッ……」
「直貴はいい子だよ。僕は知ってる……直貴は優しくて、いい子だって」
「やだ……やだ……痛いのは、やだ……お母さん、お願い……ぶたないで……ごめん、ごめんな、さ……」
「直貴……」
「ぅわぁぁぁぁぁぁんっっ!!」
僕の腕の中で、涙が枯れ果てるかと思うぐらい泣いて泣いて泣いて……それは、直貴なのか、直なのか……僕にもよく分からなかった。
それから直貴は痙攣を起こし、意識を失った。
こ、んな……辛い事思い出させて、苦しませて……本当にこれは、必要なの?
僕の腕の中でぐったりする直貴を見て、心が重くなった。
それまでずっと静観していたカウンセラーが、僕の元に歩み寄った。
「直貴くんは、過去に自分が虐待を受けていた事を知り、悲しみ、憤り、怒り……様々な感情が溢れ出し、処理しきれない状態にあります。一時期は鬱状態が酷く続くかもしれません。けれど、それを乗り越える事が出来れば、虐待体験を自分の中に取り入れ、過去の痛みを背負わせていた素直くんと統合出来るようになるのです。
夕貴くんにとっても辛いことかもしれないけど、今の直貴くんにとって君が大きな支えになってるんだ。協力してくれないかな?」
僕は迷いつつも、「分かった……」と答えた。
それが、本当に直貴と直の為になるなら……
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