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ハロウィンナイトー吸血鬼に扮した英国子爵は天涯孤独な少女を甘い牙にかけ、陶酔させる

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 今夜、孤児院の院長は孤児院の経営に関して大事な用事があるとかでおらず、明日の朝に帰ってくることになっていた。

 興奮冷めやらぬ子供達をクリスティアンとマドレーヌは手こずりながらもなんとか寝かしつけ、ようやくリビングへと下りてきた。

 ソファに深く腰掛け、はぁーっと大きく息をつく。

 今日はいつも以上に寝かしつけが大変だったな......

 糖分を食べた子供達の異様に高いテンションに振り回されて大変だったものの、心地よい疲れがマドレーヌを包んでいた。

「マドレーヌ、お疲れ様」

 クリスティアンが軽くマドレーヌの頭に触れ、彼女の隣に座った。

「子供達、嬉しそうだったね」
「えぇ」

 マドレーヌは微笑んで頷いた。クリスティアンの大きくて少し冷たい手が、マドレーヌの手を優しく包み込む。

「マドレーヌ、今日はありがとう…」

 突然クリスティアンにお礼を言われて、マドレーヌは戸惑った。

「えっ、お礼を言うのは私の方です。今日は、子供たちのためにハロウィーンのお手伝いをしてくださり、ありがとうございました」
「僕こそ、子供たちと楽しんでいたよ。僕の両親は厳格で、ハロウィーンに近所を回らせてなんてくれなかったから。参加させてもらえて楽しかった」

 そうだったんだ。クリスティアン様にとっても楽しんでいただけたなんて、良かった。

 マドレーヌの胸が、温かくなった。

「マドレーヌ……」

 クリスティアンが、マドレーヌを後ろから抱き締める。

「クリスティアン様……」

 幸せに浸るマドレーヌのうなじにクリスティアンが唇を寄せ、甘く囁いた。

「Trick or Treat?」
「えっ……!?」
「マドレーヌ、Trick or Treat? お菓子くれないと、悪戯するよ?」

 マドレーヌは突然のクリスティアンの言葉に、焦りながら答えた。

「ご、めん……なさい。あの……近所の子供や孤児院の子供達にお菓子は全部あげちゃって、もう何も残ってないんです」
「うん、知ってる……」

 クリスティアンの熱い舌がマドレーヌのうなじをなぞり、ビクビクと首筋が震える。

「んんぅっ……あ、の……子供達が…」
「大丈夫、もう疲れて寝てる」

 マドレーヌがチラリと後ろに視線を向けると、吸血鬼の衣装を身に纏ったクリスティアンの色香を帯びた瞳と視線がぶつかる。

 あ、ダメ……

 薄暗いリビングの暖炉の揺らめく火が、クリスティアンの姿を照らし出す。

 漆黒の髪が煌めき、闇に溶けてしまいそうな白く透けるような滑らかな肌、紺碧色の瞳にはいつものような涼しさはなく、今は欲情という熱を伴って妖しく映し出されていた。

 長い睫毛がその目元に深い影を差し、すっと通った鼻の美しい稜線、薄くて艶のあるマドレーヌを誘う唇はいつもより紅みが増しているかのように見え、今は吸血鬼の証である白い牙が覗いている。そして、すらりとした細見で引き締まった躰に真っ白なシャツに真紅のリボン帯、黒いベスト、立襟の黒いロングマントを纏ったクリスティアンは、この世のものとは思えない程美しい。

 一瞬、クリスティアンが本当に人間ではなくて吸血鬼なのかもしれない…とまで思えてしまう。

 もしクリスティアン様が吸血鬼だったとしても……きっと私は……クリスティアン様に恋してしまうだろう。

 これから始まる甘くて淫らな夜の予感に、マドレーヌの熱が中心から昂ぶるのを感じた。

 クリスティアンは、くすっと笑みを零す。その薄く開いた唇から一瞬白い牙が覗き、キラリと妖しく光った。

「悪戯、してもいい?」

 答えを待つこともなく、クリスティアンはマドレーヌの首筋に甘く歯をたて、きつく吸い上げた。

 もし、僕が吸血鬼だったら……この美しい首筋に牙をたて、マドレーヌの血液を全て吸い尽くしたいという欲望の虜になってしまうだろうな。

 そんな考えがチラリと掠った。

「っ!!」

 ドクドクと聞こえるのは自身の脈打つ鼓動なのか、それとも……

 マドレーヌは、まるで首筋に牙をたてられ、血液を飲み干されているような感覚に陥った。ジンジンと痺れて痛いはずなのに……狂おしい程の快感を同時に感じてしまう。躰中の血液が熱く滾り、まるで堰き止められていた水が勢いよく溢れ出すかのように隅々を巡っていく。

 ドクン、ドクン……

 キス、されてるだけなのに……こんなに感じてしまうなんて……

 頬を紅く染めるマドレーヌの表情を、クリスティアンが盗み見た。

 もし、マドレーヌの血を俺の躰に取り込むことで一つになれたなら……

 そんな狂気染みた想いが過る。
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