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異世界漂流編
異世界の闘い方3
しおりを挟む「俺は秘密主義者だと思う」
前にアステリア国から出て行くときに神懸かりな切札で自己紹介の中に付け足した一言だ。
彼方は秘密を曝け出した時の相手の反応を見るのが好きだった。いわば、ドッキリだ。
だから、魔法を使えることを隠した。魔男であることを隠した。他にもいろいろ隠し事をしている。この密かな趣味を知っているのは家族である姉だけであろう。そういえばもう直ぐ姉に会えるな、とそんな思いを胸に抱きながらも彼方は決闘の位置につく。
「なぁ、この訓練所を囲むラインを飛び出したら負けなんだよな?」
「はい、そうですよ。怖じ気付いてすぐに降参するのは止めてくださいね」
審判のラミルがアイロニーを含みながらも丁寧に答える。
彼方は、「……言質は取った」と呟き、敵であるカレナを見据える。
カレナも準備万端なのか、構えを取る。
「それじゃ、始めっ!」
ラミルの合図とともに、身に着けている鎖を振り回す。
「おらよっ!!」
鎖は宙でしなり、カレナを襲う。
「ほならこれでどうや」
カレナは鎖を見事に拳で叩き落とす。手には傷一つついてない。
「それはダミーだ。喰らえや」
鎖を打ち付けると共に、カレナの視界範囲外に回り込む。距離を詰めた彼方はもう片方の腕に鎖を巻き付け殴りかかる。
「脳でも揺らしとけ!」
カレナの顎にアッパーを仕掛ける。しかし、
「どらっしゃいっっっ!!!」
ミスリル突きを顎だけで押し返す。
「どうや!!」
「いっっっったっっっ!!!!!!」
カレナにダメージを与えるどころか、彼方の拳の骨がギシリと鳴る。
すぐさま、カレナとの距離を開ける。
「お前の身体どうなってんだよ!」
「うちは鍛えてんねん。やわな身体しとらんで」
上腕を構えながら、笑うように答える。
「仕方がない、必殺技でも使うか!」
「なんや、そんなもんあんのかいな?」
「よく目を凝らしとくんだな。【黒箱】ッッッ!!」
声と同時に視界が暗転する。訓練所のライン一帯を黒い箱が覆う。外にいる魁斗達からは何も見えない。中にいる彼方達もそれは例外ではない。
「何や、彼方は魔法使えたんかいな?!しかも闇魔法て、禁忌のなかの禁忌やないかい!使えるのて魔人だけやで!」
ここで秘密がバレる。なんだか不穏なことを言っているが、やはり秘密を曝け出すのは止められない。
「まじで!俺、本当に勇者になれるのかな不安が押し寄せて来たんだけど。けどそれも、これが終わってから悩んでみるよ」
「うち、暗いとこ苦手やねんから持久戦はやめてーなぁ!」
暗闇の中から甲高い声が聞こえる。外の音はシャットアウトされているらしい。引きこもりにはもってこいの魔法だ。
「残念ながら持久戦じゃないんだな。俺にはまだ秘策があるんだよ」
彼方はそこまで自慢げに語ると声張り上げて魔法を唱える。
「【光】ッ!!」
スキル欄に書いてあった魔法は闇魔法だけじゃない。聖魔法もだ。聖魔法は少しだけ勉強した。使える人は約八割が聖職者関係の人になるらしい。愛梨も聖属性の回復魔法を使えることから聖女と呼ばれているらしい。
彼方は勇者の儀で死刑になるかもしれないのに、呑気なことに白銀の乙女で神父になるか、精霊の障壁で精霊術師になるか悩んでいるらしい。ちなみに神憑りの切札は論外らしい。
後にそのことで大きく揉めることになるがそれは今ではない。
暗闇に光が灯る、彼方の魔法だ。
しかし、
「それ敵にも居場所バレるやないかい!」
「ちっ、しくった!!」
怒声が先か、駆けるのが先か、両方が彼方がいる光の元に突っ込んで来る。
しかし、拳は彼方には届かず、暗闇が晴れてしまった。
背後から残念そうな顔をした彼方が現れる。
「おいおい、団長なんだからこんな狡いマネに引っかかるなよ。けどお前の詰みで、負けだ。よく見てみろ」
そこか、と後ろ蹴りをしようとするカレナに、彼方が待ったをかける。彼方の指が差す方にはカレナの足が訓練所のラインから飛び出しているのだ。
「ざまぁねぇな、大口叩いてるからだよ!」
彼方は自慢気にカレナを見る。するとカレナは子どものように涙腺を緩め頬に雫を伝らせる。泣き声を上げながら彼方の胸に顔を押し込んで行く。空は暗闇はが晴れて太陽の光が眩しい。
「なんなんそれ!!彼方が魔法使えるなんて聞いてへんし、ずるいやん!彼方に勝って良いとこみしてやる、うちの作戦が!それにうちは暗いとこ苦手やねんで!怖かったんやけど!!」
しゃくりあげながらもあれやこれやと文句や泣き言をぶつける。
団長にこんな一面があったのか、と団員達は関心半分、呆れ半分で遠巻きにこちらを見ている。気を遣っているのだろう。
しかし、勇者組は歯牙にも掛けず、彼方の秘密について問いただすために近づいて来る。
「おい何嘘こいてんだよ?闇魔法なんて使ったら即死刑って前に聞いたことあるぞ!」
いきなり超弩級であった。ディアメルが言ってたことはやはり本当であったのか、と疑ってしまう。
しかし彼方は嘘はついてない。今のカレナとの闘い方もそうだ。自分があたかもそこにいるかのような言葉を出しただけだ。
「嘘じゃなくて黙っていただけだって。で、即死刑って本当?おれ今すぐ魔女の方に戻った方がいいんじゃない?!」
するとどうであろう。「魔女」の言葉に勇者達は動揺する。やはり魔女という言葉は禁句なのだろうか、とカレナを抱えながらも考えていると、
「やっぱり、魔女に攫われてたの?」
いつもは不穏な言葉しか言わない小百合が真剣な顔で面する。
「あぁ、いろいろあったような無かったような・・・。まぁ対したことないよ。」
ブラフだ。魁斗達を心配させないようにするためのハッタリなのだ。
しかしそれは効かず、
「俺らがどんだけ長い付き合いしてって思ってんだ?そんな嘘ぐらい初対面でも分かりそうだぞ」
「心配かけたくないのは分かりますけど、彼方くんは迷惑かける役ですから気にしなくていいですよ」
「なにその損な役回り!!」
「そうだよ!かなたんはいっーーつも迷惑なんだよ!」
「立夏ちゃん、それだと言葉が足りてないよ!ほ、ほら彼方が涙目になっているじゃないか!」
「違うわ!これはお前らの優しさが有り難くて泣いてんだよ!察しろ!」
「泣かないでよ、鬱陶しい」
「小百合はどこまでも辛辣だな!デレを見してくれよ!」
そこからは彼方の思い出話になった。自分が魔男であることを隠すとなると話はそう長くは無かった。
しかし、それでも魁斗達やそれにカレナ達まで真剣な眼をして聞いてくれた。
きっと彼方は良い仲間を持ったのだろう。
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