裏切りの魔男

takupon

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異世界漂流編

魔人軍と邪教徒

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潜在的敵意を向けられ、三人は心臓を握られた思いになる。緊張どころではない。死が迫ってきているかもしれないのだ。個々の選択で首が飛ぶ勢いな魔人の威圧が身体の動きを止める。
先陣を切って魁斗が飛び出そうと決意しかけたところで、

「ケケケケッッ!よくわかったな、ディアメルの奴隷共が!」
 
出てきたのは魁斗達とは逆側の本棚からだ。長い舌が口から飛び出ているその姿は、恐ろしくも蛇を人型にしたようである。マントには騎士の刃ナイトブレイドのマークが。

「あぁんんっっ!!邪教徒の背信者じゃねぇか!」

支離滅裂に先程までの空気が無くなるが、今度は一触即発の雰囲気になりつつある。邪教徒に聞き覚えのある立夏は小声で魁斗と愛梨に伝える。
 
(じゃ、邪教徒って魔人を称える奴らでしょ!それじゃ、あいつ魔人じゃん!)

愛梨は全身を身震いさせる。魔人が三人もいるのだ、新人勇者三人とはわけが違う。魔人には魔男と魔女がいるがいずれにしても古今無双、一騎当千の力を持ち、その力は町一つを容易く滅ぼす程だ。

「ディアメルの下は快適か?すぐにでも邪教徒に来ていいんだぜ。ケケケッ」

「おい、様を付けろ。様を!いいか、私達は魔王様一筋なんだ!お前らみたいな魔人全員を神に崇めるようなものじゃないんだ!」

邪教徒は魔人軍の考えとは違い、魔人そのものを神に崇める信教だ。大半は身を滅ぼし邪教徒に入る人間だ。邪教徒には魔人達がしている紋章とは別に、手の甲に邪教としての紋章がついてる。

「ミラ!ここで喧嘩なんてしたら人間にばれちゃうよ。少し落ち着いて」

ウルファと呼ばれていた男がミラを心を落ち着かせようと、腕を掴み動きを止めようとするが、スルリと腕はウルファの手をすり抜けていく。

「分かってるわよ!それで、【断罪の魔男】さんは何しに来たの?盗み聞きとか感心しないわよ」

その言葉はまだ隠れている魁斗達に言っているのではないか、そう感じて已まない。盗聴なんてやめて今すぐ逃げてしまいたいが、三人共腰が抜けてしまって立つことが出来ない。彼らが行ってしまうのを待つしかないのだ。

「魔王様の気配を感じたんで、なんか知ってそうな盆暗共から情報収取しようと思ったんだよ。ケケッ。するとビンゴだ!やはり魔王様は生きてた。後は、魔王様と魔人軍を一網打尽すればいいって話しじゃねーか。なんたって、魔人軍の大半はこっちに移ったもんなぁ?ケケケケケッッッ!!」

蛇男は小馬鹿にしたようにメアとウルファの顔を覗き込む。その風貌はまさに蛇に睨まれた蛙だ。悔しそうにするミラに蛇男が追い打ちを仕掛ける。

「加えて、俺らには人質が大勢いるんだぜ!お前らが不穏な動きをしたら、魔王様の叶えようとした人間との共存は難しくなる一方だぜ。お前らはもう詰んだんだ!おとなしく、殺される日まで人間と平和にやっとくんだな!!」

蛇男の本性が露わになる。
高笑いしながら書庫を出ていくと、ミラが憂さ晴らしに近くの壁を殴る。
先代魔王は人間との共存を望んでいた。しかし、力で支配されていた魔人は反発することが多く、結果的には魔王の死後に魔人軍と邪教徒に分かれてしまったのだ。
この世界の事情を知っていた魁斗達は、息を呑む。魔王が両立を望んでいることなんて初耳だったからだ。

「どうするの?僕達これから魔王様探していいのかな?人間なんて諦めて魔王様見つけようよ。そうしよう!」

メアが自問自答で走り出そうとするウルファの首根っこを掴み取り、叱られた子猫状態になる。

「ほんっとっ、どうしよう?!ディアメル様と魔王様だけ見つけて誰にもばれない場所でひっそり暮らしてたほうがいいんじゃない!もういやよ!」

「まずは、その魔王様候補の異世界人に会いに行こうよ!もうすぐ勇者の儀が始まるし、その後に対面しよう」

「勇者の儀って又あるの?!ずっと立ってるの嫌なのよ」
 
「仕方がないよ。ほら、もうそろそろ自分の団に戻ろう」

魔人軍のミーティングが終わり足音が遠ざかっていく。
決死の盗聴が終わる、と魁斗達は肩の力を抜こうとするが、





「貴方達、今の話誰かに喋ったら殺すから」





静かな波紋が魁斗達の心を揺さぶる。ミラの声だ。
渦巻く悪寒を抑え背後を振り返るが、そこには影も形も残っていなかった。
どの位の間、へ垂れ込んでいただろう。魁斗は立ち上がり、脚が縺れている立夏と愛梨を起こす。

「どっ、どうするの?かなたんが危ない目に遭うよ?!助けてあげなきゃ!」

立夏は震えた唇を抑え込み、友の安全を第一に考える。

「でも、言ったら殺されちゃうよ!彼方くんが死ぬのも嫌だけど立夏ちゃんが死んでいい訳じゃ・・・ないんだよ?」

「待って!!最後なんで疑問形だったの!」

「二人共落ち着け!まずは彼方を探そう」

盤上一致で書庫を出ていく。書庫を出ると問題の原因である本人とすれ違う。いつも通りのヨレヨレな制服と鎖をして廊下を走る姿は、まるで脱獄の途中であるかのようだ。

「やっと見つけた!みんなして迷子とか恥ずかしいからやめろよ」

「おまえが!迷子だったんだよ!もうすぐ、勇者の儀が始まるから行くぞ!」

「ええ~!ちょっと休憩しようよ。かなたん探してて疲れたよ」

疲れているのは魔人の会話を聞く際脚が縺れたからなので、彼方は関係ないのだが、気にしない。いつもの調子を取り戻したのか先程までの、出来事を上手く隠す。彼方に心配させないようにするためだ。幸いなことに、彼方は超がつくほどの鈍感なのである。まるで、どこかのラノベ主人公のようだ。

「はっ、早く三階に行きましょう」

愛梨が立夏と彼方を引っ張り三階にあるホールに向かう。





――王都四回目の勇者の儀は後に、歴史に刻まれる大事件となる。
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