裏切りの魔男

takupon

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異世界漂流編

魔人の到来

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門兵の声に続き、王都に警鐘が鳴り響く。



「――――」



真っ先に動き出したのは――彼方だった。魔獣の恐ろしさを知らない彼方だからこそ最も早く動き出せたのだろう。



「みんな、悪いっ!【黒箱ブラックボックス】!!」
 


ホール全体を巻き込み、黒い箱が王もろとも包み込む。彼方は予め確認してた道を辿り扉に駆け寄る。
静寂が訪れる。何が起きたか分からない騎士団に王の怒号が響く。

「魔獣の奇襲に紛れて身を隠すつもりじゃ!!早よ見つけ出し首を差し出せ!」

何をそんなに険悪しているのか、未だ分からない。自己嫌悪している暇はない、と王の言葉を置き去りにし、入口を飛び出す。
城内は執事やメイド、勇者の儀に参加していなかった騎士が慌ただしく動いている。この隙に紛れ、城を抜け出す。
王都は城内以上の混乱に渦巻かれている。民衆は逃げ惑い、騎士が先導して避難させている。彼方は人々が逃げるのとは逆方向に走り出す。魔獣と相対するために。
人混みを押し返すように彼方はぶつかりながら、騎士から身を隠す。
通り沿いを抜け、路上裏を駆け抜ける。



「――――いました!!!」



「えっ?!」

後ろから何者かが彼方の背中を懐抱する。誰も通らない裏通りに自由奔放な声が木霊する。
背部を向き、歓声を上げる。

「生きてたんだ、ディアメル!」

「はいっ!お久しぶりでございます!!」

涙声でディアメルが返答する。

「この、状況に紛れて王都から離れましょう」
 
彼方の背中を強く叩き、自分の意見を促す。されども彼方はディアメルの腕を払い、

「ごめんディアメル!俺、ここに残るわ!」

熱誠にディアメルの瞳を見つめる。彼方がディアメルの肩を抑え込もうとするが、逆に腕を引かれ距離が一層近くなる。

「何で、ですか?」

今にも激発しそうな声で問いかける。言葉を返そうとするが、





「……誰に誑かされたんですか?あの喋り方がなまった露出女ですか?間抜けで愚図な女ドワーフですか?彼方さんに毒を吐く貴族ですか?彼方さんの愛想にも答えない鈍間な武士ですか?天真爛漫な薄バカ少女ですか?彼方さんの前で刃物をちらつかせる愚鈍な猫男ですか?一々彼方さんにちょっかいをかける変哲魚人ですか?勇者の名前に調子づいてる異世界人達ですか?」





そう、いち早く王都に着いたディアメルは王城に入るまでの全てを見ていたのだ。彼方が楽しそうに話す姿を。彼方が勇者との再会に歓喜している姿を。彼方が嬉しそうに勇者の腕を引っ張っていく姿を。



「待ってくれっ。俺にはやれなくちゃいけないことがあるんだ!ここでまだあっておきたい奴がいるし、姉だって置いてきちまった。王様だって罵倒してやらないと気が済まない。それに、魁斗やカレナ達だって、俺を匿おうとして捕まったかもしれねぇ。正直に言えば魔女や魔男とかは他所(よそ)でやっといてほしい。それでも、お前にはまだ恩を返してないんだ。だから少しだけ待っといてくれ。人間辞める覚悟でもしてから向かうからさ」



この状況でも談笑しようとする彼方。無理にでも笑みを作る。



「……何で言うこと、聞いてくれないんですか?魔王様は何でいつも、我儘なんですか?私の話を聞かずに、行こうとしちゃうんですか?私を置いてかないでくださいよ。私を残さないでくださいよ。私と一緒に逃げましょうよ。……誰を殺せば戻って来てくれるんですか?」



彼方を急かすように肩を揺さぶる。ここは彼方にとってもディアメルにとっても危険だからだろう。
間髪入れず彼方は、










「俺が殺されない限り、俺は歩み続けるぞ」










ディアメルの泣き顔を隠すように強く抱きしめる。

「お前がなんでそんな固執してんのかは、この際だけど聞かねぇ。次に会うときの楽しみにしとこう、な?」

顔を上げ、自分より背が高いディアメルの頭を撫でる。

「それでも心配なら契りを交わそう。指切りって知ってるか?」

ディアメルは首を横に振る。

「故郷の契りなんだ。こうやって小指を巻き付けてな。」

喋りながらもディアメルを諭す父のように背中をさする。涙を拭き取ったディアメルは不思議なものを見るように指切りを見ている。

「――そんで、嘘ついたら針千本飲むんだ。でも、確実に死ぬわけじゃないからな。もし会いに行かなかったら、冥界で待ってるよ」

冥界が意味するのは死だ。彼方はディアメルに会いに行かなければ死ぬというのだ。
契りを終えると、ディアメルの見えないとこで、彼方の左裾の中に鎖が巻きついていく。まるで契約を守るように・・・。
もう彼方がここにいる必要がないのを察したのか。また涙目で空を見上げ、項垂れてから声を張り上げる。

「ミラっっ!!ウルファっっ!!」

「ハイっ!」

「ちゃんと来てるよ」

路地裏に二人分の影が現れる。丁度前に、魔王宣言をした騎士二人だ。

「やばいっ、見つかっちまった!」

未だにディアメルと騎士達の関係を知らない彼方は居場所がバレたと心底動揺する。その光景を見たウルファが微笑しながら彼方に詰め寄る。

「大丈夫だよ。一から説明するね。時間がないから質問はなしだよ。まず僕達は魔人で、魔人軍なんだ。ディアメル様に紋章を奪われているから安心していいよ。これからは、彼方様の手となり足となるから、よろしくね?」

「彼方様、先程の数々のご無礼お許しください」

ウルファの横に並び、二人して深々と首を垂れる。まさに忠誠を誓う騎士だ。
その姿に彼方は焦りを隠さず首を横に振る。首のしなり音が鳴り響く。

「そんなのいいから!」

ウルファとミラを立たせると、一言も喋らず蹲っているディアメルに歩み寄る。

「ごめん、ディアメル。お前が嫌なわけじゃない、只、もう少し人間でいてたいんだ」

涙目でこちらと目を合わせようとしないディアメルに、そっと優しい声で諭す。

「……ディア。次に会うときはディアと呼んでください」

ふてくされながらも、自分の願いを呟く。
彼方は笑いながらディアメルの頭をクシャクシャに撫で、

「もちろんだディア。お前もうまく逃げろよ」

それが彼方とディアメルとの、一時の別れの言葉になる。手を振るディアメルを視界から外し、手下二人を連れ走り出す。
しーんと静まり返る路地裏にディアメルのすすり泣きが響き渡る。
立ち上がったディアメルは今し方の彼方の言葉を思い出し、記憶にしか残っていない先代魔王と重ねる。前の魔王も無鉄砲で我儘なんだ、と。





※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 





「お願いがあんだが頼まれてくれるか?」

「いいよ」

「もちろんです」

騎士二人改め、魔人二人は強く頷く。

「そのミラだっけ?敬語がむず痒いからやめようぜ」

「「はぁっ?!」」

二人合わせて素っ頓狂な声を上げる。ウルファは近くに置いてあるゴミ箱に足を引っかけ、こけそうになっている。

「あの、今はそんな時ではないんですが!」

「嫌、それでも俺達はこれから一蓮托生なんだよ。仲良くすることは良きことだ」

ここにまで場違いな彼方の考え方が侵食してきた。

「わかった。よろしく頼む、彼方様」

ミラが先に折れ、口調を変える。

「んんー、まだよくないけど今は先を急ごう」

「暢気だね、彼方様は」

「んっ、良く分かるな?友人には空気が読めないって言われることが多いぞ!空気なんて吸うもんなのにな?」

「空気が読めない人は大体それ言うよね……」
ウルファの呟きは風にかき消され、彼方に聞こえることはない。

「よしっ、俺らの最初の共闘だ!掛け声でもやっとくか?」

「ださっ!僕達、魔人だよ?!恥ずかしくない?」

「恥ずかしいに決まってるでしょ!私、嫌よ!!」

「何言ってんの?これはお願いじゃなくて、め・い・れ・い!」

「最初の命令はもっとカッコイイのが良かったよ!例えば魔物を一掃してこいとか、相手の首を持ち帰ってこいとかさ!!」



「なんだとっ!!これも十分カッコイイじゃんか!!ハイっ、いくぞ!――――イッッチレンッ!」



「「托生っっっ!!!」」



魔人二人の咆哮じみた声に、彼方は満足する。



「よし!ほんじゃ一丁、魔獣の勧誘でも行きますか!」



「「ハイッ(うんっ)!――――――えっっ??!」」
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